16.植物魔法
作物所から石の家まで戻ってきた。私の前には平たい土地とその奥には森がある、今からここを耕していきたいと思う。
「でも、どうやって耕すんですか? 魔法で耕すと言っていましたが」
「魔法が耕す? どうやって?」
イリスとクレハは首を傾げている。まぁ、普通はそうだろう。だけど、魔法を使えるようになった私には簡単に思いつけることだった。
「見てて、今から耕すよ」
私はその場にしゃがみ、手を地面に置いた。そして、イメージする。地魔法を使って、土を掘り返すイメージ。深呼吸をして、イメージを体にしみ込ませ、魔力を解放する。
「地魔法!」
ふん、と力を入れた。すると、目の前にあった地面がでこぼこになり、地面の中から土がモリモリ出てくる。
「うわっ、地面が変だぞ!」
「こ、これはっ……!」
一メートルの固い地面だったところが、盛り上がった土でフカフカに変わっていた。これが、私が想像した解決策だ。
クレハとイリスが盛り上がった地面に近寄り、指でつんつんと押す。
「す、凄いですね。一瞬でフカフカの土に変わりました」
「何がどうなってこうなったんだ?」
「地魔法で土を移動させたんだよ」
レベル二だけど、威力が弱いだけでどんなことでもできるらしい。石を出現させたり、土を動かしたり、魔法って多彩なんだと思う。
「よし、この調子で掘り起こしていくよ」
「ノア、頑張ってください!」
「頑張れノアー!」
私は地面に手を置いて、地魔法を発動させていく。そうやって次々と土を掘り返していき、小麦を植える場所を確保する。一応、どこまで魔力があるか分からないから今日は十メートルかける十メートルまでにしておこうと思う。
地道に耕していくと、一時間足らずで土を耕し終えた。
「こんなもんかな」
「わー、広い畑の完成ですね」
「ノアはすごいんだぞ!」
十メートルかける十メートルの畑ができた。魔力は……うん、まだ全然大丈夫そうだ。これだったら、収穫までしっかりとできそうだね。
「じゃあ、次に種をまこう。二人とも手伝って」
「分かりました」
「まっかせろー!」
小麦の種が入った袋を開けると、中から沢山の種が現れた。とりあえず、全部まけばいいかな?
「じゃあ、二人ともこうやってまいて」
袋の中から種を一つかみすると、腕を高く振ってバラまいた。
「そんなに雑でいいんですか?」
「魔法で育てる訳だし、細かいことはあんまり気にしないでいいと思うんだ」
「それだったらウチもできるぞ」
「じゃあ、私も」
みんなで種を一つかみして、空高く投げた。宙にバラまかれた種は広い範囲にゆっくと落ちていく。
「これ、なんだか楽しいな。それー!」
「わっ、クレハこっちに飛んでますよ。気を付けてください」
「あー、ごめんごめん」
「私も……それー!」
二人とも楽しそうに種をバラまいている。私も負けないぞ、それー!
耕した畑の上に沢山の小麦の種がまかれていく。隅から隅まで種をバラまいていくと、小麦の種がなくなってしまった。
「終わりました」
「次はいよいよ、植物魔法か! 楽しみだなー!」
「どんな風になるんでしょうね」
種まきが終わり畑から出ると、二人はそわそわしだした。それもそうだ、ずっと気になっていた植物魔法をお披露目の時間なんだから。私もちょっとそわそわし始めた。
もしこれで成功しなかったら、この村は救われない。ここは是が非でも成功させないといけないね。
「じゃあ、やるよ」
地面に両手をついて、二人を見上げた。
「うん」
「はい」
二人は緊張した面持ちで頷く。畑を見つめると、深呼吸をする。どうか、成功しますように!
「植物魔法!」
魔力を一気に解放した。地面から伝わっていく植物魔法が小麦の種にまとわりつき、種が一気に発芽する。
「あ、なんか出てきた!」
「すごい、一気に成長していきますよ!」
発芽した種はすくすくと伸びていき、伸びた穂先に小麦が実っていく。それがどんどん傾いていき、そこには見覚えのある黄金色の小麦畑があった。
植物魔法は成功だ!
「うわー、凄いぞこれ!」
「一瞬で小麦畑になりましたね!」
二人は畑に近づいて小麦をしげしげ見つめる。私も近づいて小麦を手に取ってみると、ぷっくりと膨れた小麦が実っていた。
「ノア、やりましたね!」
「ノア、おめでとう!」
「二人ともありがとう!」
わーい、と三人抱き合って何度もジャンプをした。これで食糧難から村を救えるぞ!
「じゃあ、次は刈り取って、脱穀して、選別だね」
「ここは役割分担をしましょう」
「役割分担?」
「いいね、そのほうが早く作業が終わる」
この作業が一番時間がかかりそうだ。荷台車に乗せておいた道具を地面の上に広げると、早速役割を決める。
「まず刈り取る作業だね。これは私がやるよ、魔法で刈り取る予定だったから」
「分かりました。刈り取りはノアの仕事ですね」
「この道具はなんだ?」
「これは脱穀機って言って、ここの部分を足で踏むと」
「わわっ、中に入っているものが回転したぞ。なんだ、これ面白い! これ、これウチがやりたい」
「踏む作業は体力がいるからクレハ向きだね」
「だったら、私が選別しますね。えーっと、このふるいを使えば良さそうですね」
三人の役割が決まった。私は刈り取り、クレハが脱穀、イリスが選別だ。まだ、午前中の時間だから、もしかしたら今日中に作業が終わるかもしれない。これは頑張らないと。
「それじゃ、やっていこう」
「おう!」
「はい!」
私は小麦畑の前に行くと、その場でしゃがんだ。手を前にかざして、魔力を高めていく。そして、風魔法を発動させた。
「いけっ!」
手から風の鎌が発生して、目の前にあった小麦が根元から刈り取られた。一回の風魔法で二メートルは刈り取れたと思う。レベル一ならこんなものかな?
あと必要なのが乾燥だ。刈り取ったばかりの小麦には水分が多く含まれているらしいから、乾燥させないと粉にはできないようだ。だから、刈り取った小麦に乾燥の魔法をかけた。
それから刈り取られた小麦を束になって腕に抱きかかえると、シートの上に置いた脱穀機のそばにいるクレハに近寄っていく。そして、シートの上に小麦の束を下ろした。
「脱穀してみようか」
「おう!足で踏んで……動いた、動いた!」
脱穀機の中心にあった突起の付いたローラーが勢いよく回り出す。回り出したローラーに小麦の付いた穂を乗せると、回っていた突起が小麦の実を弾き飛ばしていく。
「うおぉ、凄いぞ! どんどん、穂から実が無くなっていく」
小麦の束を左右に動かしたり、上下逆にしたりして穂から全ての実を乗り除くことができた。
「最後に私が落ちてきた実を集めて、ふるいにかければいいんですね」
シートの上に散らばった実をイリスがほうきで集め、ちりとりに入れる。それからふるいの中に入れると、ふるいからごみが落ちて中に実が残った。残った実を袋に入れると完了だ。
うん、いい流れができたと思う。この作業を繰り返していけば、この村に小麦を届けることができる。
「よし、二人ともやろう!」
「もちろんだぞ!」
「はい!」
やる気は十分、あとは作業をするだけだ。
◇
あれから、三人で作業を頑張った。私はひたすら刈っていき、クレハは脱穀し、イリスがふるいにかけて小麦を選別する。地道な作業だったけど、村のためだと頑張った。
そして、夕暮れ前には全ての作業が完了した。私たちの目の前には小麦が入った袋が十袋。それを見てなんだか感動しちゃう。
「やったね、クレハ、イリス」
「やったな、ノア」
「やりましたね、ノア」
「二人ともお疲れ様」
改めてお礼をいうと二人とも照れた顔をした。すると、クレハが袋を荷車に乗せ始める。
「早くみんなに届けてやろう! きっと待っているはずだぞ」
「そうですね、この小麦を待ち望んでいる人がいます」
イリスも袋を荷車に乗せ始めた。私も急いで駆け寄って袋を荷車に乗せる。全ての袋を荷車に乗せ終えると、三人で視線を合わせて強く頷いた。
「届けに行こう!」
私たちは荷車を引っ張り、急いで村へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます