14.開拓村について
男爵は開拓村について現状を話し始めた。
「この村ができた経緯を話そう。広大な面積を誇り魔物が大量に住む森、大魔森ジルキネーゼを少しでも切り崩すため、人の住処を広げるためにこの村は作られた。新しい土地を切り開くってことで開拓村と呼ばれている」
この村は大魔森ジルキネーゼを開拓するために作られたってことなんだね。
「大魔森ジルキネーゼが広すぎて、この村だけじゃ開拓はできない。よって、この村と同じような開拓村はいくつも存在している。それぞれの村には一人ずつ領主がいて、それぞれのやり方で開拓は進められている」
開拓村ってここだけじゃなかったんだ。ということは、私たちはここに連れてこられたのは偶然だったかもしれないってこと? もしかしたら、他の開拓村に行ってたかもしれないんだ。
「この開拓村はできてまだ数年しか経っていない。というのも、元冒険者の俺が叙爵されたのが数年前っていうことなんだがな」
「というと、男爵様が叙爵されたからこの開拓村ができたということですか?」
「開拓村を作るために俺が叙爵された、という訳だ」
開拓村を作るために冒険者が叙爵されたって凄いことだ。そんなに凄い冒険者だったっていうことなのかな?
「開発を始めたのは最近になってからなんだが、状況は良くない。人が少ないから村で作る食糧が足りない、食糧が足りないと人や冒険者が集まらない」
「食糧を他のところで買ってこないんですか?」
「そこまでするのに必要なお金がない。だから、村で作るしかないんだが、作り手が不足している状態なんだ」
なるほど、この村が寂れていて活気がなかったのはそのせいだったんだ。食べるものがないから人は元気がない、イコール活気がないということになる。
ん、ということは優先すべきことは食べ物を増やすこと?
「そこでお前の力を借りたい。植物魔法は植物を育てる魔法だと聞く、その力を使って村の自給力を上げてくれ。肉なら狩ってこればいいんだが、野菜だけはどうにもならない」
「分かりました。私の力を使って野菜を育てます」
「今はどんな手でも使いたい、よろしく頼む」
私の魔法の力が役に立つんなら、活用しない手はないよね。この村にいさせてもらうんだから、少しでも力になってあげたい。
「他にもこの村には色んな問題があるんだが、それを子供のお前たちに言っても仕方がないか。今は食糧の確保だけ考えてくれればいい」
「ということは、私たちに土地をくださるということですか?」
「あぁ、そうだ。よし、これからその土地に行ってみるか?」
「はい、お願いします」
◇
「ここの土地をやろう」
男爵に連れられた場所は森近くの平らな場所だった。村はずれになるけれど、畑仕事にはぴったりの広さがある。
「もし自分で木を切って土地を広げることができるのなら、その土地もお前たちのものだ」
自分で土地を広げると、それも自分の土地になるのは凄い。これから覚える魔法でそんなことができたらいいな。
「どうだ、ここで満足か?」
「はい、ありがとうございます!」
「そうか、そうか」
喜んでみせると、男爵は嬉しそうに笑った。
「ここがウチらの住む場所になるのか、なんだか体がムズムズするぞ」
「好きなようにできるって事ですよね。わー、どんな風にしよう」
クレハとイリスも貰った土地を前にして高ぶっているみたいだ。そうだ、この土地で自分の好きなようにすることができる。それが楽しみで仕方がない。
「そうだ、自己紹介がまだだったな。俺の名はレクト・レマントールだ」
「私はノアです」
「ウチはクレハだぞ!」
「私はイリスといいます」
「三人とも、始めは大変だと思うが頑張って欲しい。何か困ったことがあったらいつでも言ってくれ、力になろう」
こんな見ず知らずの子供三人に優しくしてくれる、それがとても嬉しい。今まで厳しい目にしかあったことなかったから、どんな小さな優しさも凄く嬉しく感じる。
「そうだ、夕食に招待しよう」
「本当か、やったぞ!」
「食糧事情が良くないから、質素なものしかないがな。まぁ、食っていってくれ」
「助かります、ありがとうございます!」
夕食をくれるなんていい人だな、ここに来れて本当に良かったよ。貰った土地を見終わると、私たちは再度屋敷へと戻っていった。
◇
夕食を食べ終え、私たちは貰った土地に戻ってきた。そこですぐに石の家を作り、枯草を敷き詰めないまま地面に寝転がる。
「ふわー、食ったぞー」
「久しぶりにお腹いっぱい食べましたね」
「あんなに沢山の食べ物をくれるなんて、レクトはいい奴だな」
「そうだね。今まで出会った中で一番いい人だった」
今までの人生の中でこんなに良くしてくれた人はかつていただろうか、いやいなかった。だから、余計に優しさが心に沁みて喜びが溢れだす。
開拓村送りになったのは私の責任だ。たとえ家を建てることが罪だとは知らなかったとしても、原因を作ったことには変わりない。だから、二人に対して引け目を感じていた。
もし、悪い環境だったら自分の力でなんとか二人だけでも脱出させよう。そう考えていたけれど、その必要はなくなった。なんとかここで三人で生きていける環境が最低限整って本当に良かったな。
「町で暮せなくなったけど、二人ともそれで大丈夫?」
「美味しいものが少なくなったのは残念だけど、ウチは平気だぞ。生きていける場所だったら、どこでもいいぞ」
「私もクレハと似たような意見です。森では魔物が出るらしいので、それがちょっと怖いくらいですかね」
「そっか、良かった。ごめんね、私のせいでこんなことになって」
「だから、ノアは悪くないんだぞ!」
「そうですよ、仕方のなかったことです」
「……ありがとう」
私のせいで開拓村送りになったのに、全然責めない。それがとてもありがたく感じた。この二人のためだったら、なんだってしよう……そう考えるくらいには二人のことは好きになった。
一緒にいた時間はまだ少ないけれど、それでも仲良くなるには時間は必要ない。召使いの時にはいなかった友達ができて、今の私ってとっても充実している。
明日から、三人で頑張って生きていけそうだ。
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