13.処罰は開拓村
「沙汰はおって出す。しばらくはここにいろ」
警備隊の人たちに連れられてきた建物の地下、そこにある牢屋に私たちは入れられた。
「なんでだよ、なんでウチらが捕まらないといけないんだよー!」
「クレハ、今は抑えてください」
「だってよー、可笑しいじゃんかー」
牢屋の鉄格子を掴んでクレハは騒ぎだし、それをイリスが宥める。すると、クレハはしぶしぶ鉄格子から離れて、不貞腐れたように壁に寄りかかった。
まさか、町の外で石の家を作っていたことが犯罪になるなんて知らなかった。町の中だったら咎められると思っていたけど、外もダメだったとは盲点だ。
「二人ともごめんね。まさか町の外に家を建てることが、犯罪だなんて思いもしなかった」
「ノアのせいじゃないぞ! なんでもダメダメいう、あいつらが悪いんだ!」
「警備隊の言葉は言いがかりのように思いました。だから、ノアのせいじゃないですよ」
二人は私をかばってくれた、それだけでも嬉しい。それでも、捕まってしまった事実は消せない。三人で壁に寄りかかり、ぽつぽつと喋り出す。
「これからどうなるんでしょうか」
「きっと、この牢屋から出れるぞ」
「まさか、奴隷になるってことはないよね」
「犯罪奴隷ですか? まさか、そんな……そんなに重い罪ではないと思います」
「奴隷は嫌だぞ。まだまだ、食べたいものがあるのに」
「クレハは食べ物のことばかりだね」
「はぁ、お腹が空いたー」
呑気なクレハを見て私とイリスは笑った。ここで考えていても仕方がない、きっとなるようになるよね。悪い扱いだけは勘弁してほしいけどね。
◇
牢屋で過ごして三日後、警備隊の人が牢屋に来た。
「お前たちの処遇が決まった」
その言葉に私たちは固唾を吞んで待つ。
「町を追われた子供たちが、町の中で暮すことは困難であったことは簡単に考えられた。だが、町の外での移住は認められてはいない。それはしっかりと罰せられなければいけない。身寄りのないことも考慮して、君たちを開拓村送りにする」
処罰はありきの開拓村送り?
「大陸の三分の一を占める大魔森ジルキネーゼの傍にある一つの開拓村に行ってもらう。そこだと住む土地は与えられ子供でも暮していけるだろう」
未踏の巨大な森の近くの開拓村、そこが私たちが住む場所になるのか。でも、本当にこんな子供に住む土地が与えられるんだろうか?
「開拓村で厳しい環境に置かれることが罰となる、そう領主様はご判断された。これが身寄りのない子供たちに対する処罰である」
身寄りのない子供のことを思いつつも、罰も与えなくてはいけない。その両方に適したものが開拓村送りみたいだ。
「言っておくが、君たちの意見は聞き入れられない。即刻、開拓村に送り届けることになっている」
そういうと警備隊の人は牢屋を開けた。私たちが牢屋から出ると、没収されていた背負い袋と剣を返される。
「開拓村、どんなところでしょうか」
「美味しい食べ物があればいいな」
不安げなイリスと能天気なクレハ。何はともあれ、私がしっかりしないといけないよね。開拓村、一体どんなところなんだろうか。
「それじゃ、建物から出て馬車に乗れ」
こうして私たちは警備隊の人に連れられて馬車へと乗り込んだ。
◇
「開拓村フォルマに到着だ」
一か月続いた馬車の旅は終了したみたいだ、馬車の窓から外を見てみるとぽつぽつと家が立ち並んでいるのが見える。でもどこか寂れているような印象があった。
ひと気をあまり感じないというか、活気がないというか、なんだか微妙な感じだ。開拓村っていうんだから、開拓中で作業が騒がしいものだと思っていたけど違うみたい。
寂れた町の中を進んでいくと、一軒の大きな屋敷の前に到着した。塀や門に囲まれたその屋敷はいかにも領主がいそうな雰囲気だ。この開拓村の領主様は一体どんな人だろう、いい人だったらいいな。
そう思っていると、一緒に馬車に乗っていた案内人が外に出る。門を勝手に開けると、屋敷の扉に近づきまた勝手に開ける。何かしゃべっているようだが、離れていて良く聞こえない。
しばらく待っていると中から誰かが出てきて、何やら喋っているようだ。すると、案内人がこちらに戻ってきた。
「これからレマントール男爵にお前たちを紹介する。ついてこい」
呼ばれたので馬車を下りる。案内の人についていき屋敷の中に入ると、執事みたいな四十台後半なおじさんが待っていた。
「では、こちらにございます」
そういって執事の案内で屋敷を移動する。二階に行き廊下を少し進んだ先にあった大きな扉の前に案内された。
「旦那様、先ほどのお客様をお連れしました」
「入れ」
中から男性の声が聞こえると、執事は扉を開けた。扉を開けた先は執務室って感じの部屋で、窓際に設置された大きな机に一人の男性が座っていた。三十台後半で赤い髪を一本に束ねている、右頬に三本の傷があり顎ひげを蓄えた大柄な男性だ。
「さっき預かった手紙で事情は分かった。だが、今初めて知った話だ、こちらの用意は全くない。随分とウチを下に見てくれたな」
「申し訳ありません。ですが、こちらの領主様の指示でありましたので」
「そういうのが気に食わんと言っているんだ、ふん」
男性は不機嫌そうに腕組をして鼻を鳴らした。もしかして、私たちは歓迎されていないっていうことかな。今聞いた話だと、事前に話を通した訳じゃなくて、この案内人がさっき渡した手紙で状況を知ったみたいだ。
「それでは、私はこれで失礼します」
「お、おい!」
その案内人は私たちを連れてきたことで仕事が完了したのだろうか、挨拶もそこそこにして部屋を出ていってしまった。残されたのはレマントール男爵と言われた男性と執事と私たちだけ。
「あー、くそ! あそこの領主はここをなんだと思っているんだ!」
「旦那様のお怒りはごもっともです。事前連絡もないうえに、子供を捨てるようなことを」
「全く、困ったもんだ」
二人とも険しい表情をしている。私たちはどうしたらいいんだろう、クレハとイリスの表情を確認してみると不安げな顔をしていた。いけない、どうにかして状況を好転させなくちゃ。
「あ、あの! 私たちはどうなるんでしょうか? この村に置いてくださらないと、行く場所がないです」
「話は手紙で知っている、確かに行く場所はないようだ。だが、ここにもお前たちの居場所はないんだ。急に押しかけられたから、家がない。それにお前たちは十分なお金も持ってないだろう」
「家……家ならなんとかなります」
「なんとかだって?」
「私、魔法が使えるんです。その魔法で石の家を作って暮していた時期がありました。だから、この村でもしばらくは石の家で暮していけます」
「仮の家か……」
男爵はひげをなぞりながら思案しているみたいだ。
「働く場所はどうする? ここに子供が働けるような場所はないぞ」
「働く力はあります。この狼獣人の子は魔物討伐ができます、この金髪の子は回復魔法が使えます、私は……」
素材採取はできるけれど、それだけじゃ弱い。私の魔法で何か使えるものは……そうだ、植物魔法があった。
「植物魔法で野菜を育てることができます」
「何、植物魔法だと」
男爵は植物魔法と聞き、目の色を変えた。どうやら当たりを引いたみたいだ。
「まだ使ったことはありませんが、確実に使えます」
「そうか……」
ふむ、と思案中の男爵。ドキドキしながら返答を待っていると、男爵は表情を明るくして答える。
「働くことはできるみたいだな。よし、三人ともこの村にいてもいいぞ」
「やった!」
「良かった」
その答えにクレハとイリスは喜んだ、私もホッと一安心だ。だけど、男爵はすぐに表情を固くして村の現状を伝え始める。
「まずは、この村について知ってもらいたい」
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