失恋フォーチュン:同じ人を好きになった親友ちゃんを応援する話

marica

第1話

 私は、あかねはレン君が好き。いつも優しくしてくれて、温かい言葉をかけてくれる人だから。

 きれいに整えられた黒い髪も、真っ黒な瞳も、穏やかな声も、落ち着いた表情も。

 いつもは優しいのに、ときおりいたずらっぽい顔をすることがあって、ギャップに惹きつけられたりもする。


 得意なバスケをしている瞬間は、きっとこの世の誰よりもカッコいい。なんて思ってしまう時もある。

 同じクラスになれて、とても幸せを実感できていた。

 だけど、もっと関係を進めていきたい。ううん。告白したい。そう考えている時だった。すべてが始まったのは。


 きっかけは、親友のみかに相談があると呼び出されたこと。

 みかは髪を金色に染めていたり、ピアスを開けていたり、とにかく奔放な子ってイメージ。

 それでも親友なのは、なんだかんだで優しいから。私が困っている時に、何度も手を貸してくれたから。


 待ち合わせ場所で待っていたみかは、神妙な顔で語りだす。


「うち、レン君のことが好きになっちゃった。付き合いたいんだ。あんなイケメン、他に居ないよね」


 イケメンなだけがレン君の価値じゃない。そう言いたかった。私だって好き。そう言いたかった。

 だけど、関係を壊す勇気が出てこなくて、そのまま頷いてしまう。

 自分でも、意気地なしだって思うよ。分かってはいたんだ。

 だとしても、みかは親友だってことは本心だから。大切な友達だと思っていたから。

 そんなの、何の言い訳にもならないって、ちゃんと理解しているのにね。勇気がないだけ。


「分かったよ。それで、告白したいのかな?」


「うん。あかねっち、手伝ってくれないかな?」


 断ることなんてできなくて、任せてって言う。

 バカだなって、自分でも分かる。大好きな人に、好きって言えなくなる選択なのに。

 それでも、みかとの友情が無くなってしまうことが怖くて。

 結局のところ、私は優柔不断なだけなんだろうな。


 今日はまず、告白のための言葉を考えたいのだそう。

 だから、いろいろと案を出していく。

 本当は、私がレン君に言いたかったセリフを、頭の中から引っ張り出して。


「あなたが好きです。なんてシンプルなのはどうかな?」


「は、恥ずかしくない? 直接好きって言うなんて。あかねっち、勇気あるね」


 私には勇気なんてない。今もみかに本音を言えないでいるのだから。

 抜け駆けする度胸もなくて、そもそも、今までずっと告白できなかった。好きになったのは、昨日今日のことじゃないのに。


 直接好きと言えない程度の気持ちで、告白するのか。

 そんな言葉まで浮かんできて、自分の情けなさが嫌になる。どうして私は。


「優しい顔を、ずっと見ていたいです。なんてのはどう?」


「レン君、イケメンだもんね。ただ顔を褒めるより、あかねっちの方が良いよね」


 私が彼に抱いた想いが、みかの口から、彼女の想いとして伝わる。

 そんな光景を思い描いて、心がジクジクした。だけど、顔に出すことすらできない。

 私は何も選べない。ただ、流され続けるだけ。切ないのに、何も変わってくれない。


「手をつなぎたい。デートがしたい。そんな思いを伝えるのは?」


「好きって言うよりは、恥ずかしくないかも。さすがだね、あかねっち」


 必死で考えた言葉を奪われるような感覚がある。でも、受け入れるしかないんだろう。

 私はみかに協力すると決めたから。もう、後戻りはできないから。


 それからもいくつかの言葉を考えて、次の話へと進める。

 告白する時に、衣装はどうするのか。私とみかは、服屋で色々と語り合っていた。


「いつもの服のほうが良いと思う? あかねっち的にはどう?」


「勝負なんだから、着飾ったらどうかな。一回だけのチャンスなんだから」


「うちは断られても、もう一回告白するつもり。でも、はじめの印象は大事だよね」


 みかは私とはぜんぜん違う。あらためて、強く理解した。

 一回断られて、もう一回告白する勇気なんて、私にはない。

 明るくて、前向きで、引っ張ってくれる人。

 やっぱり、みかはとても魅力的だ。だからこそ、怖い。本当にレン君と付き合ってしまうんじゃないかと思えて。


 私はどうかしている。とても醜い心だ。

 なのに、抑えきれない。こんな私は、レン君にふさわしくないのかも。

 だけど、好きなんだ。レン君のことが。ずっと前から。

 横からかっさらわれていくかに思えて、つらいんだ。

 分かっている。みかは私から奪いたいわけじゃないって。そんな子じゃないって。


 何度も助けてもらったし、私だって何度も助けた。だから親友なんだ。

 いま手伝いを求められているのも、みかの信頼なんだって分かる。

 それでも、いま感じている苦しみは本物だから。


「明るい服のほうが良いよね。せっかくの告白なんだから」


「わかるー。なら、この服とかはどう?」


 みかの見せてくれた服は、彼女の魅力を引き立てている。

 やっぱり、自分に似合う服を分かっているんだなって。

 だけど、相談してくれているのだから、真面目に答えたい。

 そう考えて、いろいろとアドバイスしていった。


 派手すぎない方が良いとか、露出は控えめにしようとか。

 だって、レン君とそこまで親しい訳では無いから。

 みかは魅力的だけど、ちょっと軽そうに見えるときもあるから。


「ありがとう、あかねっち。この服であした告白しちゃうね」


 私にはできなかったことだ。告白なんてすぐじゃなくていいって、ずっと引き伸ばしてきた。

 やっぱり、みかは見た目のイメージ通りに明るいなあ。

 そんなみかに、何度も助けられてきた。だから、恩返しだってしたい。本当の気持ちだ。

 だけど、今回ばかりはうまく行かないでほしい。そう思う私も居て。

 自分が分からなくて、どうしようかなって思っちゃう。


 頭の中をぐるぐると同じ考えが回るまま、みかと別れて、夜まで過ごした。

 自分が嫌いになりそうで、でも、私を許してあげたくて。

 好きな人を取られそうなんだから、少しくらい良いじゃないかって。

 結局、眠れない夜を過ごした。


 そして次の日。放課後に会いたいって手紙を送ったらしい。

 学校の近くにある公園で待ってるって。

 いったん家に帰るだけの時間があったから、私達で選んだ服に着替えて。

 そして、公園に向かう前に、少しだけ会話をした。


「あかねっち、いろいろありがとう。頑張るから」


「うん。応援しているからね」


「じゃあ、行くね」


 みかの後ろ姿を眺めながら、さっきの大嘘を振り返る。

 本当は、みかの思いが届かなければいいって祈っていた。

 どうか、私にチャンスを残してほしいと。

 嫌になる。どこまでも醜い。親友なのに。信頼してくれたのに。


 しばらく、ボーッとしながら待っていて。

 こちらに向かうみかの笑顔を見て、すべてを理解した。

 ああ、私の恋は叶わなかったんだなって。

 みかは魅力的だからね。私だって、大好きなんだから。

 それは、レン君だって好きになるよね。


「ありがとう、あかねっち。おかげでうまくいったよ」


「良かったね。応援していたからね」


 そう言う私は、うまく笑えていただろうか。

 しばらく話して、みかが去って、それから。

 私はうずくまりながら、泣きじゃくっていた。

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