その後

「ったく、手間かけさせやがって。」

雅也が女を連れて帰って来たが、やたらイライラしていた。


「なんなんだこの女!!」


「私が悪くないわよ!この人が仕組んだ事なのよ。私何にもしてないんだから、離してよ。」

そう言って高見沢を指差す。


自分勝手にも程がある。

自分が仕組んだ事なのに他人に責任を押し付け逃げようなんて……。


「翔さん、私は悪くないの。お願い信じて。」


俺は再び、怒りで沸騰しそうな頭を抑えながら言い放つ。


「信じられる訳ないだろ。

お前がしでかした事は犯罪だ。

今、警察を呼んだからちゃんと罪を償うんだな。金輪際、俺や果穂に近付くな。

…次は無いと思え。」


そう冷たく言い、鋭い目線を投げかけると、流石に恐怖を覚えたらしく、立花璃子はうずくまって泣き出す。


「果穂ちゃん、大変だったね。

でも、今日中に見つけ出せて良かったよ。」

雅也がそう言って果穂に笑いかけている。


「ご心配をお掛けしてすいませんでした。」


「無事で良かったよ。果穂ちゃんに何があったうちの社長が気でも狂っちゃいそうだったから…。」


「おい!果穂に馴れ馴れしいんだよ。」


「ほら、果穂ちゃんの事になると直ぐムキになるからさぁ。」


「ちゃん付けで呼ぶな。果穂に近付くな。」

俺は不貞腐れた様に雅也に歯向かう。


そんな翔を、今夜はなんだか年下みたいとら果穂は思い、微笑みながら2人の戯れ合いを眺めていた。


♦︎♦︎♦︎


「社長、警察の方来られました。」


ロビーまで警察を出迎えに行った新田は、

7、8人の警察と共に戻ってきた。


「後で詳しく話を聞きます。」

 

そう言って、2人を連行し連れて行き、残りの警察官は現場検証の為、着実に淡々と仕事をこなしていく。


この場は弁護士が仕切り、今での一部始終を話して聞かせる。


その間はひたすら果穂に寄り添い、俺は彼女を慮る。


弁護士の交渉で詳しい事情聴取は後日となり、果穂は解放された。


俺は待機の為に取った部屋の鍵を新田に渡し、好きに使えと伝えて果穂と雅也と共に部屋を出た。


「雅也、急に巻き込んで悪かったな。

お前のおかげで、果穂を早く見つけ出せた。恩にきる。」


「お前の一大事に役に立てて良かったよ。

果穂ちゃん、きっとしばらく翔の束縛度合いが上がって大変だと思うけど、許してやってね。じゃあ、俺は帰るから、またね。」


「遅い時間まで、いろいろありがとうございました。」

果穂は深く頭を下げる。


雅也が帰り際に、ポンポンと果穂の頭を撫でて帰って行った。


「気安く果穂に触るなっ。」

そう言って俺は小さく毒を吐き、消毒という様に果穂の髪を優しく撫でて車に乗せた。


その後、2人は病院の時間外救急へ行き、

家に帰ったのは10時過ぎ。


お腹の空いた果穂の為に途中、サンドイッチやパンを買ったが、俺は家に帰るまで何も口にしなかった。


「翔さん、お腹空いてないんですか?

ひと口食べますか?」


果穂が心配してサンドイッチを差し出すが、頑として食べない。


「果穂のカレーが家にあるから帰ってから食べたい。」


「カレーは明日でも大丈夫ですよ?」


果穂は翔さんだってお腹が空いている筈なのに、何故そんなにこだわるのか不思議に思う。


「果穂のカレーをトラウマにしたくないから。」

俺はそう言って笑う。


絶望感の中で口にしたカレーを、どうしても今日食べて幸せな味に払拭したいのだ。


家に帰って、食べかけのカレーが机に置いてあった。


そのまま慌てて出て行った様子が手に取るように分かって、果穂は申し訳ない気持ちに駆られる。


「翔さん、お皿のご飯は固くなってしまっているので新しいものをよそいますね。」

果穂はそう言って、いそいそとキッチンでカレーを温めに行く。


俺はそんな様子をキッチンまで来て見つめて、そっと後ろから果穂を抱きしめる。


「本当に良かった…。

果穂を失うかもと思うと怖かった…。」


「心配かけてごめんなさい。

もっと警戒すべきだったのに、急そぎだって言われて気が動転して…出かける前に翔さんに連絡を入れれば良かったと反省しています。」


「もう、いい。謝るな。

果穂が戻っただけで、もう十分だ。」


クルッと果穂の向きを変え、正面から抱きしめる。


そして、額にキスをして至近距離で見つめる。


それから、頬にキスをして最後に唇に、貪る様なキスを落とす。


唇をペロリと舐めて舌をそっと差し入れ、

味わう様にゆっくりと舌を絡めると、それだけで果穂の息が上がってしまう。


「……んっ……。」


崩れ落ちそうになる果穂をすかさず抱き上げ、ソファに運ぶ。


「…カレーを…。」

ボーっとする頭で、それでも頑張って立ち上がろうとする果穂を止めて、


「自分でやるから大丈夫。」

と、伝えてキッチンに向かう。


皿に盛って戻る頃には、既に果穂はソファに寄りかかり、くたっと寝てしまっていた。


俺は果穂に毛布をそっとかけ、膝枕をする。


幸せそうな顔で寝てる果穂が可愛くて、つい触りたくなってしまうが、起こしてはいけないと気持ちを抑える。

 

寝顔を見ながら幸せを噛み締める。


果穂の家族には明日隠さず話そうと決めた。


果穂は余計な心配をしてしまうから、

お兄ちゃんには内緒にしておいた方がいいと言うけど…。


どこからか漏れでて伝わるよりも、自分自身の言葉で伝えるべきだと思っている。


信頼してくれて果穂を預けてくれたのだから誠実でいたい。


父親には病院で電話をかけた。


時間が遅かった為、既に寝たかもしれないと思っていたが、待っていたように電話に出て、元部下がしでかした事を詫びていた。


歳を取り性格が丸くなったのか、果穂にも直接謝りたいと言う。


お互い親子として、これから少しずつ歩み寄る事が出来るのかもしれない。


翌日から俺は試験的にリモートワークに切り替えて、半日以上を家で仕事する。


果穂にはどうしても過保護な程に構ってしまうが、出来るだけ自由にしてあげなければとは思っている。


1週間は、警察の事情聴取や現場検証の立ち合いなど、果穂も呼び出されて忙しくしていた。


その後、

主犯格の立花璃子については、その父親から示談を提案されたが、とても許す様な気持ちにはなれず、法の裁きを受けるべきだと伝えた。


果穂は未遂だったから温情をと言うが、

俺としては、とても許せるものでは無いと説得した。


彼女はどこまでも優しく情に深い。


その澄んだ心をこれ以上傷つけられないようにと俺は願う。


親父の秘書だった高見沢については十分反省をしていると言う事で、情状酌量になるだろうと言う。


元妻への医療費については親父の方で手厚く援助したいと申し出があった為、

俺も関わりながら見守りたいと思っている。




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