突然の行方不明 (再び翔side)

ホテルに到着して、取り乱れた心を何とか制御し雅也が取った一室に向かう。


雅也の婚約者が出て、雅也と弁護士が果穂がいるであろう部屋を探しているとの事。


「堀井社長はこちらで待機して下さい。

分かり次第連絡が来ますから…。」

雅也の婚約者に止められて、部屋に思い留まり雅也に連絡をする。


「今、警備室で防犯カメラを確認して女の部屋を割り出してる。

滞在者に女の名前が無くて手間取ってるんだ。」


「俺もそっちに行く。」

もどかしくてじっとなんてしてられない。


「お前は動くな。

もうすぐ分かるからそこで待ってろ。」

雅也に言われて仕方なく部屋で待機する。


「貴方は帰った方がいい。雅也に伝えておくから。」


何も関係ない雅也の婚約者には帰ってもらう。

「これ、こちらのお部屋の鍵です。

どうぞ、雅也さんをよろしくお願いします。」

そう言われ、少し冷静になる。


まだかまだかと焦る気持ちを抑え、部屋で待機していると、雅也から連絡が入り伝えられた部屋に走る。


果穂が無事にそこにいる事を願う。


その部屋に駆けつけると、ちょうどホテルスタッフが鍵を開けて中の様子を確かめる所だった。

誰よりも早く部屋に飛び込む。


「翔、手は出すな!」


「堀井社長!!」

雅也と弁護士が同時に叫び追いかける。


瞬間、

男が1人驚いた顔でこちらを見ている側で、

目隠しをされ、手足を縛られベッドに横たわる果穂の姿が目に入る。 


「果穂!!」

咄嗟に抱き上げ男から引き離す。


「か、翔さん⁉︎」

果穂の目隠しを剥ぎ取り、

手足の縄を外そうとすると何故か自分から簡単に外して、果穂から抱きついてきた。


「良かった……果穂…。」

ぎゅっと抱きしめ無事を確認する。


安堵と共に、どうしようも無く体が震えた。


怖かった……

このまま二度と会えなくなるのではと思うと怖かった。


「心配かけて、ごめんなさい…。」

お互い強く抱きしめ合い、その存在を確かめる。


「おい、びっくりさせるなよ…殴りかかるかと思ったよ…。」


一足遅く部屋に飛び込んだ雅也が、

はぁーっと深い息を吐く。


「高見沢さん、貴方が何でこんな茶番に手を貸したんだ!」


俺は果穂の無事をひとしきり確認すると、

逃げるでも無く呆然と立ち尽くす高見沢を鋭い目で見抜く。


雅也は俺の近くに寄って、手を出さないように見守る。


「貴方は長く父の秘書として働いていた。

なぜこんな、裏切る様な真似…。」

胸ぐらを掴かむ勢いで近付く。

 

そんな俺を警戒して、雅也は手で制して2人の間に割って入ってくる。


果穂も慌てて駆け寄り腕に抱き付いてくるから、熱くなった頭を冷ますために一呼吸息を吸う。


「翔さん…高見沢さんにはどうしようも無い理由があるんです…。

高見沢さんは指示通り動いただけで…私を逃そうとしてくれました。」


はぁーっと深いため息を付き果穂を見る。


「あの、女はどこへ行った?」

高見沢を鋭い眼付きで睨みながら聞くと、


「…何か食べて来ると言って、出て行きました……。」


「はぁ?

こっちは必死で探してたのに、自分は優雅にディナーかよ。

見つけ出して警察に突き出してやる。」


雅也が憤慨して部屋を出て行く。


果穂は俺の腕にしがみ付いて事の様子を見守っていたが、気持ちが落ち着いて来た俺が、頭をフワッと撫でるとハッとなって離れる。 


恥ずかしい…


我に帰って真っ赤になってしまう。


ソファに果穂を座らせ秘書の新田に電話する。


「お疲れ様、今、何処にいる?

至急、救急箱を持って今から言うホテルに来て欲しい。」

果穂が拉致されて救出した事の一部始終を話し、この事が外部に漏れない様にマスコミ対応の指示を出す。


『警察には連絡を?』

トラブル対処が得意な新田は、

なぜ早く自分を呼ばなかったのかと社長の翔に向かって抗議する。


「お前は後処理が得意だろ?

今からはお前に任せるから、とりあえず早く来い。」

そう言って電話を切る。


その後、

果穂が座るソファの前に片膝をつき、縄で縛られていた足首を見つめため息を付く。


「痛いか?手首も見せて。」


「大丈夫です。

見た目より全然痛くないので。」


「傷跡が残ったら、果穂の家族に申し訳が立たない。」


「病院で診断書を書いてもらうべきです。

今後、裁判になると必要ですから。」

弁護士は冷静にそう言う。


「警察の事情聴取は果穂は後日でもいいのか?」


「私から提案してみます。」

弁護士がいれば後の処理は安心だ。


後はこの男か…果穂の話を聞いてから、親父とどうするべきか考える事にする。 


「果穂は、怖い思いをしたのにこの男を救いたいんだな?」

果穂の意志を確かめると、こくんと深く頷く。


高見沢の身の上話しを果穂から聞くと、同情の余地はありだと判断する。

犯した罪は消えないが、果穂の意志を尊重したい。


今後この男の反省具合によるがどうにかしたいと思う。


秘書の新田が救急箱を持って到着したので、

男の方は新田に任せて果穂の傷の手当をする。

縄で強く締め付けられた所が鬱血して紫色になって、所々摩擦のせいか赤く血が滲んでいた。

痛痛しさに翔の顔は険しくなる。


傷口の消毒をして止血し痛みを和らげる為、湿布を貼り包帯を巻く。

「後で、ちゃんと病院に行こう。」


「ありがとうございます。」


果穂の頬を撫ぜると、ふわりと微笑んでくれるから、やっと俺も安堵してホッとする。

と、同時に2度と果穂にこの様な怖い思いをさせないと誓う。


もう一度抱き締めて果穂の温もりを確かめる。

俺自身、今回の事で彼女の存在の大きさを再確認した。

こんなにも動揺して我を忘れたのは初めてだった。



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