2人で過ごす冬休み(果穂side)

翔さんが連れて行ってくれた焼肉屋さんは、とてもお肉が柔らかくて、美味しかった。


しかも予約してないにも関わらず、個室に通されここでもVIP待遇だった。


どれだけ顔が広いんだろう……。

住む世界が違い過ぎて戸惑う事ばかり。


私は翔さんの横にいても、本当に良いのだろうか心配になってしまう。


夕飯を食べたら、レインボーブリッジの夜景を観に行こうと、夜のドライブに連れて行ってくれた。


お仕事で疲れてるはずなのになんだか申し訳ない気持ちがする。


『果穂が喜ぶ姿を見るのが俺の喜びで癒しなんだ。だから、気にせず楽しんで欲しい。』

そう言って笑ってくれた。


翔さんの家には9時半くらいに到着した。


「うわぁー、玄関がまるでホテルみたい…。」

つい、声に出して呟いてしまう。


翔さんに手を引かれてキョロキョロしながら着いて行くと、

ロビーにはコンシェルジュが2人いて、

「お帰りなさいませ。」

と、頭を下げてくれる。


「お荷物を運びましょうか?」

と、声までかけてくれる。


「彼女、今日から週末まで俺の部屋で過ごすので、覚えておいて下さい。」

翔さんがそう言って、私を紹介してくれる。


「間宮と申します、よろしくお願いします。」

私は頭をペコリと下げて自己紹介する。


「こちらこそ宜しくお願い致します。

何かお困りの事がありましたら、何なりとお申し付け下さい。」


「ありがとうございます。」

その間も、翔さんはずっと私の手を繋いでいて離してくれない。


「もし、間宮様もジム等施設の方をお使いになられる時は、こちらにお越し下さい。身分証をお作りしますので。」


「ありがとう。」

そう言って、翔さんは荷物を受け取り私の手を引いて先に進む。


「1人で行くのは勇気がいるので、翔さんが居る時にします。」


「何で勇気がいる?」

笑いながらそう聞くから、


「だって、ここにはセレブな人しか住んで無いでしょ?私みたいな小娘が一人でウロウロしてたら、きっと不審がられちゃいます。

今の気持ちを例えるなら…、


不思議の国のアリスになった気分です。

トランプの兵隊に追いかけられて、追い出されちゃいます。」

はははっと、翔さんが堪らずと、言う感じで笑う。


「可愛い発想だな。

誰も果穂の事追い出させないから安心して。でも、そうだな。

プールは1人で行かない事、誰にも果穂の水着姿は見せたくない。」


分かった?っと言う様に、翔さんは私の頭をぽんぽんして笑っている。


「果穂はもっと自分の事を知るべきだ。

多分、亮がそうしない様に育てたんだろうけど…原宿辺り歩いたら、果穂のフィルター説は直ぐ崩される。

誰から見ても綺麗で可愛い。だから、1人で出歩くな。」

独占欲丸出しでそう言ってくるから、目を丸くして驚く。


相当疲れてるんだろうな…きっと…。


「お部屋に帰ったら、肩でもマッサージしましょうか?相当お疲れの様なので。」

心配してそう言うのに、


「何故その返し?」

と翔さんはずっと笑ってる。

私もつられて笑いながら、


大丈夫、表情筋は死んでないみたいですよ。と、心の中で思う。


エレベーターを降りて、ふかふかの絨毯が敷かれた廊下を歩く。


ドキドキしながら、翔さんに手を引かれるままついて行く。


カードをかざして玄関ドアが開くと、

白一色の玄関から、真っ直ぐ伸びた広い廊下を歩くとリビングに到着する。


「うわぁ……凄い…。」


言葉が出ないとはこう言う事だと思う。


リビングに入って真っ正面にガラス張りの広い窓。そこからスカイツリーを独り占めしたかの様な夜景が浮かびあがる。


窓に駆け寄りしばらく見入ってしまう。


「綺麗…。」


「感動した?」

そっと近付きそう聞いて来る。


「凄いです。感動して言葉も出ないくらい…この景色を翔さんは毎日見てるんですね。なんて贅沢な暮らしなんですか。この景色を見飽きるなんて信じられないです。」


「俺も、今日は感動してる。果穂がこの景色の中にいる事に。」

そう言って、背中からそっと抱きしめてくる。心臓がドキンと跳ねてつい固まってしまう。


「部屋が暖まるまでこうしていよう。」

耳元で呟かれるから、どうしていいか分からなくなる。


「仕事終わりで疲れてるのに、来てくれてありがとう。慌ただしかっただろ?」

首を横に降り、ぎゅっとされてる柊生さんの腕にそっと触れてみる。


「向こうからこっちは見えるんでしょうか?」

話す内容に困りそんな事を言ってしまう。


「この前一緒に昇った時は見えなかったな。

望遠鏡とかで覗かれたら見えるかもしれないけど。」

こんな私のどうでも良い疑問でも、ちゃんと拾って答えてくれる。


「ふふふっ、誰かに覗かれたら恥ずかしいですね。」


「そうか?俺は見せびらかしたいけど。」


「えっ⁉︎」

思わぬ反応でびっくりして振り返る。


「大丈夫。外から見えない様なミラーガラスになってるから。」

優しく微笑まれて、頬にチュッとキスされて固まる。


「何か温かいものでも飲むか?」

そう言って、ソファに誘導してくれる。


ソファも広くてふかふかで一度座ったらなかなか立ち上がれないくらい。


「果穂はコーヒーより紅茶派だよな。ミルクティーでいいか?」


「ありがとうございます、私やりますよ。」

慌てて、キッチンに駆け寄る。


「今日は、果穂はお客様だから座っててくれていい。」

そう言って、紅茶をティーパックでは無く、葉っぱから蒸らして入れてくれる。


「インドのチャイの入れ方なんだけど、結構美味しいから飲んでみて。」


「わぁ、いい香りですね。」


キッチンも対面式になっていて、向かいにはカウンター。

とても使い勝手が良い。


「キッチンも広くて素敵です。

本当に明日からこのキッチン使っていいんですか?」


「好きに使ってくれていいよ。でも冷蔵庫に何も無いな。明日の朝、軽く買い物しとくよ。コンシェルジュに頼んでもいいし、近くに24時間のスーパーがある。」


「そんな事もやってくれるですか?

至れり尽くせりですね。」


そんな話をしているうちに、チャイは出来上がっていて二人でソファに座りながらお茶を飲む。


「甘くて美味しいです。ホッとする。」


「良かった。」

そう言う翔さんは冷蔵庫からミネラルウォーターを飲んでいる。

私の為だけに作ってくれたんだと嬉しく思う。


「風呂も入れる様にしてあるから、それ飲んだら先に入っておいで。」


「翔さんだって疲れてる筈です。明日もお仕事なんだし先に入って下さい。」


「今日は、果穂が客なんだから先に入って。俺は少し仕事を片付けるから。」


そう言ってゲストルームはここ、お風呂はここと教えてくれる。モデルルームみたいに整った部屋はどこもかしこも綺麗に整頓されている。


聞けば週に1度、昔からのお手伝いさんが綺麗に掃除していってくれるらしい。

「果穂が来る事伝えてあるから今週は来ないけどね。」


「私、その方に会ってみたいです。」


「そうなのか?

じゃあ、果穂が1人で寂しくないように近所の案内をお願いしてみる。」


と連絡を入れてくれた。


紅茶を飲み干してキッチンに運び、コップを洗う。

お水の出し方から最新過ぎてびっくりする。


カウンターで翔さんがタブレットを開き始めたので、お仕事だと思いそっと席を外して、先にお風呂を頂く事にした。


お風呂もシックで、広くてジャグジーやTV、音楽まで聴けてびっくりする。


「お風呂お先に頂きました。ありがとうございます。」

パジャマを着てすっぴんを晒すのも少し恥ずかしいけど、リビングにちょっと顔を出して挨拶する。


「ああ、俺ももうすぐ終わるから。」

そう言って近づいて来るからドギマギしてしまう。


「髪が生乾きだ。乾かすからこっち来て。」

そう言われ、ソファに導かれ、

私はと言うとなすがままに髪を乾かされる。


「何でそんなに硬くなってるんだ?」


「だって、すっぴんですし恥ずかしいです…。」


「あんまり変わらないよ。あえて言うなら、高校生って言っても分からないくらいだな。」

ふっと笑って近くから覗き込んでくるから


「それは、褒め言葉じゃありません。」

と必死で両手で顔を隠す。


「何で?」

両手を掴まれ真正面から見て来るから顔が赤く火照ってしまう。


「可愛いな。」

頬を撫でられ目が泳ぐ。

「唇にキスしたいけど、止められなくなりそうだから辞めておく。」


そう言って、おでこに優しくキスを落とす。


「一緒に寝るか?」

そんな風に言って揶揄うから本当に困る。


「ゲ、ゲストルームで寝かせてもらいます。

おやすみなさい…。」

早口でそう伝えて慌ててゲストルームに駆け込む。


「寂しくなったらいつでもおいで。おやすみ。」

翔さんはドア越しに笑いながらそう言って、お風呂場に入って行く音がする。


「はぁー。緊張した…明日から私どうすれば…。」

ベッドに潜り込んで頭をかかえながら悶々と考える。

今夜は眠れそうも無い…。


次の日、朝から快晴で、

着替えてリビングに行くと、スカイタワーが水色の空に良く映えて輝いてみえる。


窓際で立ち止まりしばし見惚れてしまう。


ガチャっと玄関の音がして、リビングがらそっと覗くと買い物袋を下げた翔さんが立っていてびっくりして駆け寄る。


「おはようございます。もう起きてたんですね。全然気が付かなくてすいません。」


「おはよう。気にしなくていい。これ、朝食の材料適当に買って来た。」


「ありがとうございます、朝早くに…。」

袋をキッチンまでわざわざ運んでくれて、シャワーを浴びにお風呂場に行ってしまう。


私は手早く、食品を冷蔵庫に入れながら朝食の準備をする。


今朝はワンプレートにベーコン入りのスクランブルエッグ、美味しそうなバジルのソーセージを焼いて、トマトを切り分けサラダに乗せる。

後はトーストにチーズとハムを挟んでプレスしながらホットサンドを作る。


キッチンに一通りの調味料と器具は揃っていたけど、どれも新品で綺麗だった。


「良い匂い。」

そう言ってシャワーから戻って来た翔さんは、白と水色のストライプのワイシャツで、紺のズボンは皺一つなくピシッとしている。


「ご飯食べられますか?コーヒーでいいですか?」


「ああ、ありがとう。」

そう言って、率先して机を拭いてコーヒーカップを取り出し、コーヒーメーカーのボタンを押してくれる。


「果穂は?カフェラテなら飲める?」


「はい。飲んでみたいです。」

ついでにコーヒーメーカーの使い方を教えてもらおうと近付く。


「朝から果穂が居るのって嬉しいな。」

ニコニコしながら言って来るから、 

こっちも嬉しくなって微笑んでしまう。


「抱きしめでもいいか?」

こくんと頷くと、ぎゅっとされて鼓動が躍る。翔さんから石鹸の香りがしてキュンとする。

「キスしてもいいか?」

何故かいちいち承諾を取るから笑ってしまいながら、こくんと頷く。


軽く唇がふれ合う。

何度も角度を変えて…


「口開けてくれる?」

いつも強引なのに、なぜ今日はいちいち聞いて来るんだろ?

と、頭の片隅で思いながらとまどいながら、軽く口を開けるとすかさず舌が差し込まれ、急速に激しい口付けに変わる。


「……んっ…。」

我慢出来ずに吐息が漏れる。

息が乱れるが止め方も分からずなすがまま。


訳が分からず、何故か抱き上げられてソファに運ばれ倒されてしまう。


下唇を甘噛みされて、舌を絡まれ吸い尽くされる。

息が乱れ溺れそうになりながら、必死で名前を呼ぶ。

「……か、翔さん…。」

やっとキスの嵐が止まって、

はぁはぁと息をしながら翔さんを覗き見る。


「ごめん…朝から…暴走した…。」

そう言って抱き起こされ、抱きしめられて息を整える。


「果穂が拒まないから…

俺が暴走したら引っ叩いてでも止めてくれ。」

真剣な顔でそう言って来るから目を瞬いて答える。


「止める理由が無いので…慣れなきゃですし…。」

そう伝えると、はぁーっと深いため息を吐いて、


「どう言う意味で言ってるか分かってるのか?」

ぎゅっと抱きしめられて身動きが取れない。いつもより早い翔さんの鼓動が聞こえて、

なんだか安心する。


良かった、私と一緒。


「朝から煽らないでくれ。仕事に手がつかなくなる。」

そっと離され、ソファから立ち上がらせてくれて、キッチンのカウンターへと導かれる。


翔さんが入れてくれたカフェラテを飲み、

二人並んで無言で朝食を取る。


何か怒らせた?

ちょっと不安になって翔さんの顔色を伺う。


「こっち見ないで。今、反省してるところだから。」

目を合わす事なくそう言われ、ちょっと寂しい気持ちになる。


「反省しなくてもいいですよ?

私、翔さんの事大好きですから、何されても怖いとは思いません。」


「じゃあ、今晩抱いてもいいのか。」

怒り口調で言ってくるからちょっとだけ、

気持ちが沈むけど、


「初心者ですのでお手柔らかに…。」

といっぱいいっぱいになりながら伝える。


「…いいんだ…。」

力が抜けた様に呟いてこっちを見て来る。


目が合ってしばらく見つめ合って、ははっと翔さんが力を抜いて笑う。

私もつられて笑ってしまう。


「今夜から有無を言わさず一緒のベッドで寝るからな。」

いつもの強気な翔さんに戻ってそう言う。


「もう、嫌だって言っても受け付けないからそのつもりで。」

そう言って、食べ終わったお皿をキッチンへ

運んでくれる。


そのタイミングで玄関チャイムが鳴って、運転手がお迎えに来る。


「あ、片付けは大丈夫ですから早く支度をしてください。」

私も慌てて、身を正して翔さんの支度を手伝う。


「あと、5分待って。」

インターフォンで運転手にそう告げると、翔さんは歯を磨きネクタイを締めてスーツを羽織る。

カッコイイっとつい食器を洗う手を止めてぼぉーと見つめてしまう。


あっと思って、

机に並べてあるお財布と鍵とハンカチ、

それにスマホを一色持って手渡して行く。


「ああ、忘れてた。

ここの部屋のカードキー渡しておく。

じゃあ、行ってきます。」

翔さんが皮靴を履いて、鞄を渡すと背を向けて玄関ドアを開ける。


と、突然振り返って不意打ちで唇に軽くキスをされる。


翔さんはいたずらっ子みたいに微笑み、

「じゃあ、本当に行ってきます。」

と、玄関を後にした。


はぁーっと私は、玄関に座り込みしばらく放心状態だった。


いつも翔さんに翻弄されてしまう。

今夜、本当に大丈夫?私……。


翔さんがお仕事の間、

翔さんが子供の頃からお世話になっていた、村井さんと言う家政婦さんと近くのスーパーにお買い物に行ったり商店街を散策したり、楽しい時間を過ごした。


子供の頃の翔さんの話やご家族の話しも聞けて嬉しく思う。

あっという間に1日が過ぎる。


そして今夜の夕飯は水炊きにしようと準備を始める。


8時過ぎ、ガチャと玄関ドアの開く音がして柊生さんが帰って来る。


「おかえりなさい。」

嬉しさを隠す事無く、笑顔で玄関まで小走りで駆けつける。


「ただいま。」

と、翔さんが言葉と同時に抱きしめられて長く深いキスが降り注ぐ。

やっと離された唇はお互い妖しく濡れていて、

見つめられる翔さんの瞳が熱を帯びていて、戸惑い視線を逸らしてしまう。


「帰って早々ごめん。果穂こっち見て、俺はいつでも果穂だけが欲しい。」


こくん。と頷くしか無かった。


「待って…今電圧下げるから。」

そう言って苦笑いしながら優しく抱きしめてくれる。


どうしていいか分からず、私も翔さんの広い背中に手を回してぎゅっと抱きついてみる。


「このタイミングで煽らないで。」

はぁーとため息を吐かれてパッと手を離す。


どうするべき⁉︎

まだ離れたく無い気持ちが大きくて、つい抱きついてしまったけれど、


私が欲しいと思ってくれてるのなら、この先に進んでももう怖くない。


「お腹、空いてますか?」

じっと鋭い目線で見つめられる。


「それは…、どう言う意味で聞いてる?」

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