2人で過ごす冬休み(翔side)

18時45分東京着。


そろそろ家を出ただろうか?

指折り数えて待っていた、今日と言う日になり朝から時計を何度も見る。


「今日はやたら時計ばっかり見てますけど、何かあるんですか?」

秘書の新田が察して聞いてくる。

出来る秘書だがいちいち洞察力が良すぎるのも困りものだ。


「今日は必ず定時で帰りたいから時間の押しがない様にしてくれ。」


「午後の予定は後、支店長会議だけなので大丈夫だと思いますよ。予定外が無ければですけど。

そう言えば、明日は本社の忘年会ですけど、社長も少し顔出されますか?」


「上司が居たら愚痴も言えないだろ。

俺は行かないけど、寸志くらいは渡すから足しにしてくれ。」


「承知しました。ちなみに副社長は参加するみたいですけどね。」


「あいつはどこでも首つっこむよな。」


「気さくな人ですからね、社長は逆に近寄り難いオーラ出してますけど、それも上に立つ者としては大切なんでしょうね。

カリスマ性は絶大ですから。」


「そんなつもりは無いんだが…。」


「社長、仕事中は無表情ですから冷たい印象がして近寄り難いんですよ。

たまにはニコッとした方が部下は着いてきますよ。」


「俺の代わりに副社長がやってくれるから問題無いだろ。」


移動中、そんな話をしながら午後も着々と仕事を片付ける。


定時の午後6時、


何事も無く帰れそうで内心ホッとしながら机の上を片付ける。


「本当に定時で帰られるんですね!」

新田は机を片付けている俺に目線を送り驚いている。


今まで定時で帰った社長を見た事が無かったと呆然とし、お疲れ様でしたの一言を失念してしまうほどだ。


「後はよろしく、何があればメールで。」


そう言い残して、俺は颯爽と部屋を出て行く。


定時で帰る社員達と共にエレベーターに乗り込む。


「お疲れ様です…。」


女子社員達が、若干引き気味に挨拶をしてくるが気にも留めない。


しかしその中で勇気ある1人の女子社員が俺に話しかけてくる。

「社長、今日はもうお帰りですか?」


「ああ、この後用事があるから。」


「社長は明日の忘年会、来られ無いんですか?」


「俺が居ない方が楽しめるだろ?

副社長が行く筈だから彼に愚痴は伝えといて。」

女子社員を見る事なく、降りていく階数表示を見つめながら俺は淡々とそう話す。


「残念です。私達、社長とお話ししたかったのに…。」


「そうですよ。

社長に愚痴なんてありません。私達皆んな社長に憧れてますから、少しでもお近付きになれたらなんて、思ってるくらいです。」


物珍しい奴もいるもんだとそう言う社員をチラッと見る。


「何か、俺に話があるなら気軽に社長室に来てくれて構わない。」

彼女達の気持ちも分からずそう伝える。

果穂以外の異性になんの興味もない。


「今後、各部署ごとにランチミーティングでも開いてくれれば参加する。」


そう提案して、俺はまた階数表示を見つめ直す。


「それ、良いですね。

課長に伝えておきますので是非実現してくださいね。」

女子社員達がなぜ騒ついているのか気にもとめないで、


「分かった…。」

とだけ言って、俺は淡々と階数表示を見つめ続けていた。


普段自分に話しかけて来る社員なんて、そういないので、てっきり怖がられているのかと思っていた。


翔自身、自分がどれだけ魅力的な男かと言う事に気付かず、意外と周りの好奇な目には鈍い所があったりする。


フッと笑い、階数表示が1を指すと社員の為に開くのボタンを押してやる。


「お疲れ様、明日の忘年会楽しんで。」


「お疲れ様でした。」


と降りて行く女子社員達を見送って、閉まるのボタンを素早く押し、地下まで1人降りて行く。


エレベーターを降りた女子社員達が、

キャーキャーと囃し立てるのを知る余地もなく、俺の心はただひたすら果穂の事ばかりを追いかける。


18時45分東京着。


順調に行けば改札口を通り抜けてプラットホームまで迎えに行ける。


果穂とは1週間程前に会ったばかりなのに、

どうしてこうも彼女にはいつも会いたいと思うのか、自分がどれだけ彼女に惹きつけられているのかを自覚する。


このまま一緒に有休を使って休みたいものだとまで思う。


道は帰宅ラッシュで若干混み、抜け道を通って何とか間に合った。


小走りで改札口を抜け、階段を駆け上がり果穂が乗る新幹線が到着するプラットホームへ急ぐ。


昨夜聞き出した、指定席の車両番号を頭で思い出しながら番号を探す。

良かった、ぎりぎり間に合った。


そのタイミングで新幹線は到着して乗客が次々と降りてくる。

彼女の降りて来るだろう番号の車列を見つけ、降りて来る人の波を目で追う。


彼女が、大きめのキャリーケースを重そうに転がしながら降りて来るのが目に止まる。

俺はここまで迎えに来て良かったと思いながら早歩きで近寄る。


「果穂!」

名前を呼ぶとびっくりした顔をして歩みを緩めて俺を探す。

後ろから来たサラリーマンが邪魔そうに、

彼女にぶつかりながら通り越して行くのが見えた。


そいつの胸ぐらを掴み怒鳴りたい衝動に駆られるがひと睨みして気持を抑え、彼女の居る場所に急ぐ。


「大丈夫か?」

「翔さん⁉︎」

駆け寄って来る俺を見て、びっくりして見上げてくる彼女に微笑みながら、キャリーケースを奪う様に掴む。


彼女の背を優しく押して、人混みを避ける為ひとまず自販機前に移動する。


「お疲れ様。元気だった?」

そう言って、そっと彼女の白い頬に触れて、思わず存在を確かめる。


頬がポッとピンクに染まるのが可愛くて、

人目も憚らず抱きしめてしまう。



果穂を無事に車に乗せ、夕飯を食べにと出発する。

「朝は何時に出るんですか?朝ご飯とか作りますし、お弁当も欲しかったら作りますね。」

何でこんなに可愛い生き物がいるんだと思う程、運転も忘れてぎゅっと抱きしめたくなる衝動に駆られる。


「今日は疲れただろ?明日はのんびり寝てていい。」

赤信号中に顔を見ながら言う。


果穂は無言で首を横に振って不服そうな顔で、こちらを見てくるからポンポンと頭を撫ぜて笑いかける。


「分かった…。

朝は7時半に起きて軽くジムに行って来る。

9時15分くらいに、運転手が迎えに来る事になっているからそれまで家に居る。

お昼は…そうだな。弁当頼もうかな。」


にっこり笑って果穂が頷く。


「果穂はどこか食べに行きたい所とか、cafe巡りとかしたいんじゃないのか?

時間が許す限り付き合うから。」


「ありがとうございます。

実は行きたいお店、何件かチェックして来たんです。でも、スイーツの食べ放題とか翔さんは食べないですよね?

それだけは里穂と行って来ようなって思ってますけど。」


「なんなら好きにうちに呼んでくれても構わない。1人で家に居るのも退屈だろ?

果穂が1人で出かけるのも心配だし、妹さんが泊まってくれてもいい。

俺の居ない時でも自由に使ってくれたらいいからな。後で、家の鍵渡すよ。」


「あと移動は必ずタクシー使って。電車もバスも禁止。」


「えっ⁉︎何でですか?こんなに公共機関が便利なのに?」


「変な奴に会ったら嫌だろ?」

運転しながらチラッと顔を伺い話す。


「もしかして、お兄ちゃんから何か聞いてますか?もう子供じゃないから大丈夫ですよ。

ちゃんと対処出来ます。兄から防犯ブザーとか持たされてますから。」

笑いながらそう言う。


「大人だから危ないんだ。果穂は魅力的だから心配だ。誰にも指一歩触れて欲しくない。これは俺の願望だ。

後でカード渡すからそれでタクシー使って欲しい。」


「前にも言いましたけど…、お兄ちゃんと翔さんにだけフィルターがかかってるんです。私は普通の人ですから、翔さんみたいに目立ちませんよ。」


頬をプクッと膨らませて怒っている顔をする。どんな顔したって可愛いだけなんだが…。


「悪いがこれは譲れない。果穂が大事だから何かあったらと心配なんだ。……怒らないでこっち見て」

静かに、彼女の背中に呼びかける。


クルッと向きを変えこっちを見てくれて安心する


果穂は、はぁーっとため息をついて、

「…分かりました。

そんな遠くには行くつもり無いので、

タクシー使います…。」

がっかりした顔でそう言って外に顔を向ける。


「悪いがこれは譲れない。果穂が大事だから何かあったらと心配なんだ。……怒らないでこっち見て」

静かに、彼女の背中に呼びかける。


クルッと向きを変えこっちを見てくれて安心する。

「怒ってません…拗ねてるだけです。」


赤信号で果穂に目を合わせ、そっと頬を優しく撫で機嫌を伺う。


「髪少し切ったか?」


果穂は目を見開いて驚く。

「よく分かりましたね!!

毛先の傷みだけ切ったんです。2、3センチですよ。お兄ちゃんも分からなかったのに。」


「会った瞬間分かったよ。前髪も若干短い。」


「凄い…よく気付きましたね!」


「どれだけ俺が、果穂の写真毎日見てると思ってる?どれだけ俺が会いたかったか分かってないだろ。」


「私も…会いたかったです…。」


「良かった…。だから機嫌悪くしないで。」


「別に怒ってはいませんから…。」

目を細めて笑いかけてくれる。


「直ぐそこの店。」

そう言って店の看板を指差す。


「うわー、高そうなお店…。

あっ!心の声が漏れてしまいました…。」

そう言って口元を両手で隠すから、プッと笑ってしまう。


「遠慮なく沢山食べろよ。一応社長やってるんだからそれなりに稼いでる。心配するな。」

笑いながらそう言って車を駐車場に停める。


「お礼はキスでいい、前払いで。」

そう言って、シートベルトを外して果穂の柔らかい唇にキスを落とす。


ずっとこうしてたいな。と、思うほど触れていたくなる唇。甘い吐息に我を忘れるくらい唇を交わす。


角度を変えて何度も、

「……あ……っ」

果穂の唇が軽く開いた瞬間、舌を差し入れ優しく口内を舐める。


怖がらせない様に、様子を見ながら徐々に深く交じ合わせる。


小さな舌に絡ませて吸い上げると、いちいちビクッと震えてる反応も可愛い。

「………んっ…。」

我慢出来ず漏れる吐息に上がる息、

唇を離して優しく抱きしめる。


果穂の息が整うまでずっとそのままでいる。


「果穂は俺の全てだから、大事にしたい。

嫌だったら嫌だって言って。」


「…嫌、ではないです……。ただ、心臓がドキドキし過ぎて死にそうです…。

この先、慣れる事なんて出来るんでしょうか…。」


「毎日してれば嫌でも慣れる。」

笑いながらそう言って、髪を撫でる。

果穂は恥ずかしそうにはにかみながら、俺の胸に顔を埋めてぐりぐりと頭を擦るから、愛しさが込み上げてきて堪らない。


「はぁー、果穂は可愛さをもっと自粛するべきだと思う。俺だって我慢の限界があるからな。」

果穂は澄んだ眼差しで、首を傾げて俺を見てくる。


俺をどうしようって思ってるんだ

…頼むからそんな純真な眼で俺を見つめないでくれ。自分を制御出来なくなる。


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