翔の決心
(翔side)
今日は、改めてみかんの契約農家として約束を交わす為、社員を連れてやって来た。
契約の方は優斗と浅倉に任せ、雅也と2人新しい店舗の物件を見て回っていた。
夕方合流し改めて頭を下げて挨拶をする。
「いろいろと心よくご承諾頂きありがとうございます。」
頭を下げると果穂の父は和かに笑い、
「実は、賞を取って以来何ヵ所か提携の話しがあったのですが、うちとしては信頼がおける企業の方に、みかんを託したいと思っておりました。
何度と無くお電話頂き、熱意も感じられ将来性も充分でしたから、お願いする事に決めました。」
果穂の父の話しを聞いて、身が引き締まる思いがする。
「こちらこそ、この契約を大事に今後共より良い関係を続けていきたいと思っておりますので、よろしくお願いします。」
「社長、そろそろ新幹線の時間が迫ってますので。」
浅倉からそう背中越しに告げられて振り向いた瞬間、離れた場所でこちらを見ている果穂に気付く。
目が合った果穂が背を向け走り出すから、
「悪い、後よろしく。」
雅也にそう告げ咄嗟に追いかける。
雅也ならその場を上手に収める筈だ。
果穂を追いかけ問い詰めて泣かせてしまったが、気持が伝わりホッとする。
ここ1か月、この日の為に必死で働き業績を上げ、新店舗を軌道にのせ、尚且つ新商品の開発に取り組み、その間に雑誌の対談をこなし、かなり無理したスケジュールだった。
どうにか年末までに間に合って、契約まで漕ぎ着けたのに、果穂に嫌われたら全てが崩れ去る怖さを感じた。
果穂との繋がりを、今よりもっと強固な仲にしたいと心から思う。
今夜は1人帰らずホテルを取っている。
土日をこの場所で果穂と過ごすつもりだ。
帰り際、果穂の父に
「後で、改めて果穂さんの事でご挨拶に伺いたいと思います。」
と、そっと伝える。
果穂の父は電話の時と同じ様に穏やかで心の広い人だった。
ニコニコと笑って頷いてくれる。
「是非、夕飯食べに来てください。」
「ありがとうございます。」
思わぬ誘いに戸惑いながら頭を下げる。
車に戻り、タクシーで駅に戻るみんなに
「お疲れ様」
と告げ、
「俺はこっちでホテル取ってるから。」
と雅也に言う。
「だと思ってたよ。駅までは送ってよね。」
ひとまず借りたレンタカーに2人乗り込み駅まで向かう。
「果穂ちゃんどうしたの?来る事話してなかったのか?」
「びっくりさせようと思ったのが裏目に出た。」
苦笑いする。
「わだかまりは取れたのか?」
「ああ、とりあえずは。
果穂を失ったら生きる意味さえ失うとこだった…。」
「マジか……
それはいくらなんでも大袈裟だろ?」
「そのくらい俺の中で彼女の存在意義は大きい。」
「もう、同棲でもすれば?
遠距離も何かと大変だろ。ヘリ買うより楽だし早いだろ。」
「彼女は、ここで生きてこそ、彼女らしく居られるんだと思う。
俺が無理矢理東京に呼んだ所で、果穂は輝きを失ってしまいそうで怖い。」
「そうか?
果穂ちゃん、結構柔軟にどこでもやって行けそうだけどね。」
「父親と兄からら彼女を奪うわけには行かないだろ。」
「なるほどね、母親が居ないのか…。」
そんな話をしながら、雅也を駅まで送り1人ホテルに向かう。
ホテルの部屋に入り一息付いていると、果穂からメールが入っている事に気付き急いでみる。
『お夕飯おでんにしようと思います。
父が一緒にお酒でもって言ってるので迎えにいきましょうか?
後、楽な格好で来て下さいねって父が言ってますよ。』
「タクシーで行くから大丈夫。」
と簡素なメールを送る。
スーツで行くつもりだったが何を着ようか少し迷う。
とりあえずシャワーを浴びて普段着に着替える。それでも襟付きの方がいいだろうと着替え直す。
若干の緊張は否めない。
白のワイシャツの上に、薄手の紺のセーターを着る。髪は普段、前髪を軽くワックスで分けていたが、あえて乾かしただけの自然のままで行く事にする。
ふと、さっき走って果穂を追った後、
わだかまりが取れてからの戻り際、果穂が俺の前髪を整えてくれた事を思い出す。
あの感じが妙に嬉しかった。
普通なら他人に触られるのは苦手なのに、果穂に触れられるのは嬉しい。
とりあえず行くか…
手土産にと持って来た店舗で提供している箱菓子を、手に部屋を出る。
「こんばんは、夕飯時にお時間頂きありがとうございます。」
玄関に入ると、果穂と果穂の父が出迎えてくれる。
「寒かったでしょ、どうぞ入って下さい。」
果穂の父は、果穂と同じような暖かい笑顔でそう言って手招きする。
リビングに入るとこたつが置かれていて、暖かい雰囲気にホッとする。
手土産の焼き菓子を渡す。
「うちで扱っている焼き菓子なんですが、皆さん甘い物が好きだと聞いたので、気に入って頂けると良いのですが。」
「さっきもみかんタルトを社員さんから頂いたのに、わざわざありがとう。」
「あれとこれとはまた別なので。」
「果穂、翔君がお菓子くれたよ。後で食べようか。」
「ありがとうございます。
お母さんの所にお供えしとくね。」
果穂が受け取り隣の部屋に持って行く。
「もしよろしければ、お線香を上げさせて頂いていいですか?」
「そうだね、お願いしようか。暖房入ってないから寒いと思うけど。」
隣の和室に移動すると、仏壇が置いてありその前に、果穂によく似た女性の写真が飾られていた。
「果穂に似て美人さんだろ?」
そう言ってお父さんが微笑む。
「本当に目元が良く似てますね。」
「果穂、そろそろ夕飯の支度してくれるか?」
「はーい。お兄ちゃんまだ帰って来ないけど…ちょっとメール入れてみようかな。」
そう言って果穂はキッチンに行く。
「…アイツもまったく大人気ない。」
「僕のせいですか?」
遠慮がちに聞く。
「妹とに執着し過ぎて面倒な兄で申し訳ない。」
「いえ、僕が兄なら同じ様な事をしたと思うので。お兄さんの気持ちはよく分かります。」
「そう言ってくれると助かるけど」
「実は果穂は知らない話なんだけど…。
果穂の母親は交通事故で亡くなったんだ。
果穂には病死と伝えているけど、
果穂が3歳で亮太が6歳、里穂が1歳の時だった…。」
果穂の父は悲しい思い出話しを話し出す。
「家内は近くの公園に4人で出かけたんだ。
彼女はママ友に会って、話をしていて亮太は友達と遊んでいたらしい。
気付くと果穂が居なくなっていて、慌てて皆んなで探した。」
「…誘拐、ですか?」
翔も固唾を飲み話の行方を探る。
「車で連れ去られそうになった時、思わず彼女はその車の前に飛び出して、体を張って車を止めた。犯人は車と果穂を置いてその場を逃げた。」
翔は、衝撃的な事実にただ驚く。
「彼女は病院に運ばれて1週間頑張ったんだけど…亡くなったんだ。
果穂は無傷で助かった。
ただ、ショックのせいか、その前の記憶ごと全て無くしてしまって…母親の記憶は果穂には無い。
亮太はひどく自分のせいだと後悔して、子供心になんで果穂と遊んでやらなかったのかと、悔やんで泣いていた。
そのせいか果穂への執着が必要以上に強くて、過保護な兄になってしまったんだ。」
そんな事があったなんて…。
果穂が今、無事に生きているのは母親が、命に変えて守ってくれた奇跡なんだと、改めて知る。
線香を上げて手を合わせる。
果穂を守ってくれてありがとうございます。と、心でお礼を言う。
「お母さんのおかげで果穂さんが今、無事でいる奇跡を、有り難く思います。」
そう果穂の父に言って頭を下げる。
「しんみりしてしまって悪かったね。」
そう父は言って立ち上がる。
隣のこたつの部屋に戻ると、果穂は3人分のお茶を持って来てくれる。
「狭い家でごめんね。翔君には窮屈だろうけど…。」
父が申し訳なさそうに言ってくる。
「とんでも無い。
実はこたつは初めての体験で嬉しいです。」
他人と余り深く関わる事の無かった俺は、誰かの家に行くと言う行為事態、あまりしてこなかった。
「こたつが初めてなんですか⁉︎」
果穂がびっくりして目を大きくしてこっちを見る。
「東京はこたつを、使わないのか?」
「そう言うわけでは…
多分、僕の周りにこのような暖かい家庭が少なかったせいだと思います。」
「翔君のご家族の話しを聞いてもいいかい?」
「はい、父も会社を経営しています。
母とは子供の頃に離婚していて、それから一度も会っていません。
中学の頃に父が再婚して、高校生の義弟がいます。」
果穂にも以前話した様に、家族の事を淡々と話す。
「君も苦労して来たんだね。
その若さで起業して成功するのは、並大抵の努力では無いと思ってはいたが。」
果穂の父はそう言って、頷く。
「わたしが起業してここまで来れたのは、単に父への反抗心と、仲間に恵まれていただけです。」
そんな話しをしていると、果穂の兄、亮太が帰ってくる。
「何で社長がここにいるんだよ…。」
「お邪魔してます、翔です。
役職呼びはちょっと…良い機会なのでご挨拶をと思いまして伺いました。」
決して兄からは望まれていない立場だと、自分自身心得てはいるが……出来れば認めて貰いたいと彼と向き合う決心でいる。
「すいません、ちょっとご挨拶をさせて頂きたいのですが。」
そう言って翔が正座をして姿勢を正す。
「果穂も亮太もおいで。」
と、父が呼ぶので亮太は渋々父の隣に、果穂は翔の隣に座る。
「兼ねてよりお付き合いをさせて頂いていますが、ちゃんとしたご挨拶が遅くなり申し訳なく思っていました。
果穂さんとはゆくゆくは結婚も視野に真剣に交際させて頂きたいと思います。
出来れば、ご家族に認めて頂いたうえでお付き合いしていければと考えています。
よろしくお願いします。」
翔はそう言って頭を下げる。
果穂も慌てて一緒に頭を下げる。
「僕は翔君の事は大歓迎だよ。
しっかりした青年だし、なにより果穂を大事にしてくれているのが分かるから。
君なら果穂を任せられると思っている。
亮太もそろそろ果穂を自由にしてあげてもいいんじゃないかな。」
「俺は、別にコイツがダメだとか、信用出来ない訳じゃ無い…
ただ、東京とここじゃ遠いし果穂が東京に行くのは心配だし…。
出来れば近くにいて欲しいと思うし……。」
翔は自分自身が嫌われている訳じゃ無いと知り、ホッとする。
「私も、亮太さんに同感です。
果穂さんはこの土地で暮らしてこそ、彼女らしさが生きるのだと思っています。
実は、うちの会社は今、3分の1ほどの社員がリモートワークで仕事をしています。
私自身も本社にいなくても会社は回る様に、今推し進めている所でして、先々にはこちらにも店舗を構える予定です。
私がいずれこちらに来る事が自然なのではと思っています。」
これには、父も兄も果穂さえもびっくりする。
「それは…大丈夫なんですか?」
果穂も思わず声をあげてしまう。
「まだ、雅也には話してはいないけどら彼なら理解してくれると思ってる。
ヘリを買う事も承諾してくれたから。」
翔がそう言って笑う。
「はぁ?ヘリ買おうとしてるの⁉︎
社長してると一般人とは思考が違うんだな…何考えてるの?」
父と果穂は揃って亮太を睨む。
「亮太、仮にも翔君はお前より年上だぞ…言葉使いってものがあるだろ。
そのくらい、果穂の事を考えてくれてるんだよ。」
「いえ、私が果穂さんに会いたいので、自分の為です。ヘリだと片道35分で来れるんです。」
「お兄ちゃんが認めてくれなくても、私は翔さんと一緒に居たいから…。」
果穂がそう呟く声が嬉しくて、つい笑顔になって果穂を見る。
「出来れば、これを機にお兄さんにも私の事を理解して頂ければと思いますが…
1発ぐらい殴ってくれても構いませんよ。」
そう言って笑う。
俺を睨む兄の目線を遮る様に、果穂は手を振り庇ってくれる。
「えっ⁉︎
お兄ちゃん、ダメだよ。絶対ダメ。」
「殴る訳ないだろ…みんなして俺を何だと思ってるんだ?
好きにすればいい…。
ただ、今後、果穂が少しでも泣く様な事があれば、絶対殴りに行くからな。」
「肝に銘じます。」
「何でそんないい方しか出来ないかなぁ。
ごめんなさい。翔さん、兄の事は本当気にしなくていいので…」
「まぁ、亮太は素直じゃ無いから…それよりお腹空いたね。夕飯にしよう。
翔君はお酒は強いの?ビールか日本酒か何がいい?」
果穂の父が場を取り繕う様に聞いてくる。
「毎日は飲まない様にしていますが、なんでも大丈夫です。」
「そうか偉いね。
僕は毎晩飲まないと気が済まなくてね。
やっぱりおでんには日本酒かな、熱燗にしようか。
亮太はまったく飲めなくてね。
一緒に飲んでくれる仲間が出来て嬉しいな。」
「今、おでん持って来るね。」
果穂がそう言って立ち上がるので、手伝おうと後を着いて行く。
「危ないから俺が持ってく。」
コンロにかけてある大きな土鍋を率先して運ぶ。
「あ、ありがとうございます。」
「いつもこの量を3人で食べるのか?」
家族で鍋を囲んだ事は無いが、思いのほか大きな鍋でびっくりする。
「一応翔さんの分もと思っていつもより多めですけど、父も兄も結構食べる方なので。」
くすくす笑いながら果穂が鍋引きを用意して、こたつに向かうので、鍋を持って一緒について行く。
皆んなで手を合わせて「いただきます。」をする。
家族で食卓を囲む風景に自分がいる事を、何となく不思議な面持ちで様子を伺っていると
「遠慮しないでどんどん食べて。」
果穂のお父さんが熱燗で乾杯をしてくるので一口飲む。
「美味しいですね。」
「だろ?これは地酒なんだけど結構高いからたまにしか飲まないんだ。
今日は翔君が来たから特別だよ。」
「翔さんよそいますね。苦手な物は無いですか?」
「ああ、大丈夫。」
果穂が鍋から俺の分を取り分けてくれる。
「果穂、俺にもよそってよ。」
兄の亮太が何故か拗ねた様で言う。
「僕が取り分けましょうか?」
と手を出すと、
「お前に頼んで無いし…。」
自分でよそい始める。
「果穂、よそおうか?」
手持ち無沙汰に果穂の取り分け皿を取る。
「ありがとうございます。」
ふふふっと果穂が笑うから、
「何?」
と聞くと、
「これって意味なく無いですか?
結局、自分で取り分けてるのと同じみたい。」
「違うだろ?果穂が食べたい物を考えて取り分けてるんだから。」
そう言って果穂に取り分けた皿を渡す。
「ありがとうございます。
じゃ、こっちが翔さんのです。」
そんなやり取りを、亮太は面白く無さそうに
「馬鹿っプルかよ…。」
と呆れて兄が呟いている。
「ありがとう。」
そんな呟きは聞こえないフリをして、おでんを食べる。
味がしっかり染み込んでいてどれも美味しい。
「味が染み込んでいて美味いな。」
「良かったです。ちゃんと出汁から取ってるんです。朝から煮込んでますし。」
「おでんって時間かかるんだな。」
「うちのおでん美味しいだろ?熱燗によくあって。」
「親父は酒さえ呑めればいいんだろ結局。」
兄の亮太はそう言いながら、既に2杯目を取り分けている。
「楽しいな。家族で食卓を囲むのって。」
率直な意見を果穂に伝えると、
「1人で食べるより倍に美味しくなりますから。いつでも食べに来て下さいね。」
「ありがとう。」
家族団らんと言うものを、今まで知らずに育って来た俺にとって、全てが新鮮で温かくとても心地が良かった。
「翔君は左利きなんだな。」
「ええ、両方使いますけど元々は左手です。両手が使えた方が効率的なので、右手でも食べれますよ。」
「えっ⁉︎凄いね。やっぱり社長になる人ってのは考え方が普通と違うんだよ。
亮太、大物になるには両利きだぞ!」
「俺は別に大物になろうとは思って無いし。」
亮太は不貞腐れながらそう言う。
「私も知らなかったです。凄い両方使えるんですね。」
「別にただ片手でパソコン打ちながら、飯食うって言う、時短をしたかっただけだよ。」
照れ隠しにそう言うと、
「そう言う発想が出来る人との違いなんだよ。」
何故か果穂の父が嬉しそうに話す。
「いやあ。僕に秀才の息子が出来たみたいで嬉しいな。」
「何言ってるんだよ。
まだ息子とか決まった話しじゃ無いだろ。酔っ払ってるのかよ。」
兄がすかさず突っ込みを入れる。
「お前もいい気になるなよ。いくら年が上でも俺から見たら弟だからな!!」
結婚すればそうなると言う事か。
これは、俺は受け入れられてくれたのか?
翔は思わず果穂の顔を見合わせ、2人一緒に驚く。
♦︎♦︎♦︎
片付けが終わって帰る時刻になる。
「ホテルまで送って行きましょうか?」
果穂はそう言ってくれるが、果穂が1人で夜道を帰るのは心配だからと断る。
「タクシー呼ぶからいいよ。
それより、明日明後日こっちにいる予定なんだけど仕事は?」
「明日はお休みです。明後日は収穫が4時までありますけど…。」
「出来るだけ一緒に居たいから、収穫も手伝うよ。」
「せっかくの休日はのんびりして欲しいです…。」
「言わなかったか?
果穂に会う為にこの1か月頑張って来たんだ。ご褒美を取り上げないでくれ。」
果穂の頬を撫ぜて言う。
「明日、じゃあ。
私が今度は翔さんを観光地にお連れしますね。ホテルで待っていて下さい。」
「接待してくれるんだ。楽しみに待ってるよ。」
そう言って、抱きしめようとしたところで…。
「俺が送ってってやる。」
亮太が横から割り込んで来て、2人の間を引き裂く。
「ありがとうございます。
じゃあ、果穂またメールする。」
スタスタと玄関に行ってしまう亮太を追って、果穂の手を一瞬握るくらいしか出来なかった。
「俺より二つ上だよな。敬語は辞めてくれ、俺も今更、敬語で喋れないし…。」
「でも、ゆくゆくは弟になると認めてもらえたんですよね?」
「あれは言葉のあやだろ!サシで話したいんだよ。」
「分かった…。」
翔も本音で話すべきだと素直に従う。
「一億稼ぐ男が何で果穂なんだよ。桁が違いすぎるだろ。」
「あ……経済誌読むんだ…。」
「読まねーよ。たまたま行ったコンビニにアンタの写真見つけた…。嫌でも買うだろ。」
「だから表紙は辞めてくれって言ったのに……。」
翔はため息を吐いて外に目線を落とす。
「お前の父親…あの、堀井建設の社長じゃねーかよ。お前、御曹司じゃん…。」
「何で知った?」
「検索すればすぐ出て来るんだよ。お前みたいな有名人は…。」
「翔な。その事、果穂には?」
「言えるわけないだろ?果穂も、あえて検索したりする子じゃないからな。
お前が…翔さんが…話すまできっと果穂は知らないままだ。
いつか知るなら…早く教えた方がいいぞ。」
「ここ7年ぐらい親には会ってない。別に隠してる訳じゃない。」
果穂に家の事を話すには勇気が入る。
御曹司だって話せばきっと距離を置かれるんじゃ無いかと……。
「怖いんだ。行動力と決断力の男じゃ無いのかよ。」
「…果穂に関しては慎重になる。果穂の代わりはいないからな。嫌われたく無い。
て言うか……雑誌隅々まで読むなよ。」
見られたく無いテスト用紙を見られた時の様に罰が悪い。
「遅かれ早かれ誰からきっと聞く事になる。その前に翔さんの口から言って欲しい。多分果穂は大丈夫だと思うし。」
「その保障は?」
「果穂は人を肩書きとか、家柄とかで見る子じゃ無い。」
「そうだな…。近々話すよ。」
「悪いけど、親父には話してある。
まぁ、親父もでっかい男だからな。だからって態度変える人じゃ無かっただろ?」
「御曹司の苦悩は、俺ら凡人には分からないけど、ただこの先…結婚ともなれば否応無く巻き込まれるだろ?果穂が…」
「認めてくれるんだな。」
翔が軽く笑う。
「認めるも何も…俺が守るよりお前の方が強いだろ。経済的にも人間的にもさ…。
母親の話し聞いたんだろ?」
「ああ」
「またあんな事件に巻き込まれる事だってあるかも知れない。果穂は可愛いから。
だからお前の側の方が安全かも知れない。」
ホテルに着いたが話しは尽きない。しばらく車内で話し込む。
「果穂は痴漢とかストーカーとか惹きつけやすいタイプなんだ…。」
「今までもそう言う経験が?」
「高校時代は電車に乗れば、痴漢によくあった。おかげで果穂は1人で電車も乗れなくなった。身内以外の男には怯えるくらいだった。
移動cafeを始めてからやっと普通に話せる様になったんだ。だから、あんたと2人っきりで普通に話しが出来てる事が信じられない。」
「そうなのか…気付かなかったな。」
これまで以上に気を付けて接しなければと思いながら、今までの自分の行動を省みる。
「送ってくれてありがとう。」
そう言って翔は車を降りる。
「果穂の事、よろしくお願いします。」
亮太がわざわざ車から降りて、頭を下げる。
「言われなくても、果穂の事は守るよ。」
そう言って歩き出す翔を亮太は見送る。
ふと、翔が振り返り、
「俺は、君が羨ましいよ。果穂に無償で愛してもらえる。俺も早くその域に辿り着きたい。」
そう言って、手を振り背を向け颯爽と去って行った。
「いちいちカッコいい男だな……。」
家に帰ったとたん玄関に果穂が出てくる。
「お兄ちゃん翔さんにケンカ売ってないよね⁉︎殴ったりなんかしてないよね⁉︎」
「大丈夫だよ。ちょっと話したかっただけだ。」
果穂が心配そうな顔を向ける。
「翔さんとは仲良くなった。心配するな。」
「本当に?もし翔さんに手出したら、私家出するからね。」
「本人に聞いて見ればいいだろ?
信用されて無いなぁ…。」
アイツ充分果穂に愛されてるよ。
亮太はそう思うが絶対教えてやるもんかと心に誓った。
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