第19 遠距離の辛さ(翔side)
果穂が妹と買い物に行っている間、タブレットを使い仕事をこなす。
ふと思い、スマホをポケットから出すと果穂がくれたチャームが光る。
少ない時間で俺の為に選んでくれた。
その心が嬉しい。
しかもお揃い。大事にしなくては。
スマホを操作して、
今日少ない時間で撮った果穂との写真をみる。
どの写真も果穂は可愛い。
彼女の屈託ない笑顔には不思議な癒し効果がある。
これを見て会えない時間を乗り切るしか無いのか……
また、しばらく会えないのかと思うだけで気持ちが沈む。
よく無い思考回路を振り切って、目の前の仕事に没頭する。
思いの外、集中して仕事がはかどる。
ふと時計を見ると、四時過ぎだった。
そろそろ連絡が来るかもと、スマホに目を落とす。
そのタイミングでスマホが震えて電話にでる。
『お疲れ様です。
お仕事大丈夫ですか?
今、お店の前まで帰って来たんですけど。』
「お帰り。さっきの裏口まで来れるか?そこまで迎えに行く。」
声を聞くだけで、浮き足立つ。
『ありがとうございます。』
果穂の荷物を持って、早歩きで裏口まで迎えに行く。
扉を開けると果穂が居て、自然と顔が緩む。
「すいません、せっかくの休日なのに…。」
「俺がそうしたいんだ。
空気が冷えてきたな。寒くないか?」
果穂は朝から薄手のカーデガンだけを羽織っているからつい、心配してしまう。
「やっぱりこっちの方が寒いですね。コート出しとこうかな。」
車まで行って、果穂は荷物ケースを開けコートを取り出す。
「お待たせしました。」と、戻って来た果穂を助手席に乗せ、新幹線の駅まで車を走らせる。
彼女と居られる時間は残り数時間…。
タイムリミットが迫ってくる様で、なんとなく気持ちが重い。
車を駐車場に停める。
「出発時間は何時?」
「えっと、5時45分発です。」
チケットを確認しながら、果穂が言う。
残り、30分ギリギリまで一緒に居ようと決める。
「出発まで一緒に居るよ。行こう。」
そう言って車を降りようとすると、果穂がパッと俺の手を掴む。
「あっ、翔さん。ここでいいですよ。
離れ難くなっちゃいますから…
あの、これお弁当なんですけど、翔さんの分も一緒に買ったので、夕飯にでも食べて下さい。」
そう言ってビニール袋を渡してくれる。
「わざわざありがとう。」
果穂のちょっとした心配りが嬉しい。
お金を使わせたくないのに、何かとお礼と称して渡してくれる。
彼女の心遣いが、彼女らしさを垣間見る事が出来て微笑ましく思う。
「本当にここまでで大丈夫です。
今日は楽しかったです。ありがとうございました。これ以上一緒に居たら別れ際が寂しくなっちゃいますから…」
そう言って、握られた手が離され車を降りようとする。
「じゃあ、改札口まで。
この時間は人が多いし迷うかも知れないから。」
そう言って、果穂よりも早く車を降りて荷物を手にする。
「行こう。」
果穂の手を握り締め改札口まで歩く。
困り顔の果穂はそれでも、大人しく着いて来てくれる。
改札口前、人々が行き来する。
雑踏の中で無言で2人別れを惜しみ手を離す事がなかなか出来ない。
果穂が意を決した様に俺に向き合い笑顔を向ける。
「翔さん、またお電話して下さいね。
お仕事、あんまり頑張りすぎないように。
後、ご飯もちゃんと食べてくださいね。」
「ああ、果穂も風邪ひかないように。」
うん。と小首を縦に振る仕草を可愛いなと見つめながら、人目も憚らず抱きしめる。
頬に触れ困り顔の果穂を見て微笑み、キスをしたいと思う衝動をなんとか抑えて手を離す。
「じゃあ、また。」
そう言って、果穂は俺から荷物を取り上げ背中を向けて改札を抜ける。
何回か振り返って手を振って、見えなくなって行く。
俺はしばらく、動けずその場に立ち尽くした。
この寂しさは、何回繰り返せば慣れるのだろうか…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます