第18話 社長の翔 (果穂side)
「ごめんね。里穂!待たせた?」
入口に回ると既に里穂が来ていて慌てて声をかける。
「ううん、今来たとこ。彼氏さんが見れると思って待ってたのに。何処から来たの?」
「えっ?へへっ。ちょっと裏から早く入ろ。」
誤魔化しながら、お店の中に2人で入る。
「お姉ちゃんの荷物持って来たよ。
スカイツリー行って来たの?人多くなかった?」
席に着いてすぐに聞かれる。
「結構いたよ。これ、里穂にお土産。泊まらせてもらったお礼に。」
「わーい!何なに?」
「里穂は物より甘い物がいいと思って、バームクーヘン。」
「やったね、ありがとう。
また朝、お兄ちゃんから電話来たよー。」
「あっ…ちゃんと掛け直したよ。」
「何であんなにお姉ちゃんには過保護なの?」
「私がぼーっとしてるから心配なんだと思うよ。
それより何食べる?レジに並ばないと。」
そう言って話を逸らす。
「私が買って来るからお姉ちゃんはここで待ってて。」
そう言って里穂が立ちあがろうとすると、
「いらっしゃいませ。ご注文お伺いします。」
店員さんがメニューを持ってやって来た。
「えっ?ここってそう言うサービスありましたっけ?」
里穂が驚いて店員さんに聞く。
「いえ、社長の指示です。お知り合いなんですよね?」
「えっ?社長⁉︎」
里穂が驚いてこっちを見て来るから、周りをキョロキョロしながら翔さんを探すがいない。
「えっと、ちょっとした知り合いです…。」
「そうなの⁉︎」
里穂が思いの外びっくりしてこっちを見るから、慌てて注文をお願いする。
「私、サーモンとアボカドのサンドイッチと紅茶のセットで、食後にみかんパフェをお願いします。里穂はどうする?」
「えっーと、じゃあBLTサンドとカフェラテ
後、プレーンスコーンお願いします。」
「かしこまりました。」
店員さんは頭を下げて去って行く。
「ねぇ、何でここの社長と知り合いなの?初めて聞いたんだけど。」
私よりもハキハキしている里穂は単刀直入にそう聞いてくる。
「うーんと話すと長くなるんだけど…。
このみかんパフェにうちのみかんを使ってくれてて、私の移動カフェにも食べに来てくれたの。」
「マジで…凄いんだけど!
ここの社長ってイケメンで、社長目当てで来るお客も居るってぐらいなんだよ。」
「そうなんだ……凄いね。」
なんだか嬉しい様な、不安な様な不思議な気持ちで聞いていた。
注文が到着して、2人でいただきますをして食べる。
「クロワッサンのサンドなんだね!美味しそう。」
思わずそう言ってしまう。
「えっ!クロワッサンって知らなかったの?」
「うん…1番人気だからって聞いてたから、食べたいと思ったんだけど。」
「それって、社長がそう言ってたの?どんだけ親しいの⁉︎」
「えっ⁉︎えーっとちょっとだけだよ…。」
翔さんとの事をここで話すのは気が引けるしと……迷ってしまう。
「ふーん…。」
意味ありげに相槌してくる里穂を、見ないふりして紅茶にミルクと砂糖を入れてかき混ぜる。
タイミング良く店員さんがお皿を片付けて、パフェとスコーンを持って来てくれる。
「こちら差し入れです。お代は社長から頂いておりますので。」
テイクアウト用の箱を二つ渡してくれる。
「えっ!お会計も⁉︎差し入れも⁉︎ありがとうございます。」
里穂は素直に喜んでいる。
「わざわざすいません。ありがとうございます。」
私も只々恐縮して、頭を下げる。
「ごゆっくりお召し上がり下さい。後、こちらみかんパフェのアンケートになっておりまして、是非、ご意見をよろしくお願いします。」
店員さんはにこやかに去っていく。
「もしかして、付き合ってるの?」
里穂が何かを勘づいて小声で聞いてくる。
誤魔化すことも出来なくてこくんと小さく頷く。
「えっ!お兄ちゃんはこの事知ってるの?」
「付き合う事になったのは、昨日今日の話なの。」
「マジで!」
里穂が大きい声で言うから慌ててシーーっと言って落ち着かせる。
「だからあんまり聞かないで、
私もまだ実感が湧かないって言うか…。」
「だって、あの社長だよ⁉︎
絶対モテるし、選り取り見取りなのに何でお姉ちゃん⁉︎しかも遠距離だしあのシスコンの兄付きだよ?何で⁉︎」
「私の方が知りたいよ…。」
「お兄ちゃんと社長は会った事あるの?」
「一回だけ、後さっき電話した時に変わって欲しいって…お兄ちゃんと話してたよ。お兄ちゃんは相変わらずケンカ腰だったけど…。」
せっかくみかんパフェを食べに来たんだから、アンケートをしっかり書かなくちゃと気を取り直しパフェと向き合う。
「うちのみかんが、こんな東京の一等地にあるお店で使ってもらえるなんて、考え深いよね。」
里穂がそう言う。
「本当だね。賞まで取っちゃうとは思わなかったし。ちょっと写真撮ってブログに載せようかな。」
スマホを出してパフェを撮る。
見た目も鮮やかで美味しそう。
商品開発部が試行錯誤して2ヶ月かけたと言っていた。翔さんが毎日試食して食べ過ぎて、何が良くて何が悪いか分からなくなってきたと、電話で話していたその努力がやっと実ったのだ。
一口食べてみる。
みかんシャーベットと生クリームの甘さが程良くまとまっていて美味しい。
「里穂も食べてみて。」
スプーンを渡して試食してみてもらう。
「うわ、今年のうちのみかん甘いね。
生クリーム甘すぎなくて、程良くみかんに合ってる。」
「今年は土から見直して、肥料を変えたりいろいろお父さんもお金かけて頑張ってたの。」
「へぇ。じゃあきっと東京のcafeで使いたいなんてオファーが来たら、嬉しかったよね。」
「お父さんはね。お兄ちゃんが警戒してて、なかなかオッケー出さないんだよね。」
「お兄ちゃん本当、心配症だよねー。」
パフェを食べ終えて、
アンケートに二人で記入しながら、パフェがより良くなる様にといろいろ考える。
久しぶりに会う姉妹の話しは尽きなくて気付けば1時間を過ぎて、2時過ぎまでお店に居座ってしまっていた。
「そろそろ出ないと買い物する時間が無くなっちゃう。」
そう言って立ち上がり、食器を片付けてお店を後にしようとする。
タイミング良く果穂のスマホの着信音が鳴り、急いで電話に出る。
「はい。お仕事お疲れ様です。」
『ああ、今から買い物に行くのか?
荷物そこに置いといて俺が預かっておくから。』
「えっ⁉︎何処で観てるんですか?」
『店の防犯カメラ。
何時の新幹線に乗る?送ってくから教えて。』
「せっかくの休日なのに、大丈夫ですよ?
少しはのんびり過ごして下さい。」
『せっかくの休日だから、果穂と少しでも一緒にいたいんだけど。
ここから、30分あれば駅に行けるから、その前に戻って来て。』
「…はい。ありがとうございます。
あっ、後、ここのお代とかお土産までいろいろ、ありがとうございます。」
『果穂に食べて欲しいパンとか詰めたから、食べたら感想聞かせて欲しい。』
「家に帰ったら家族で食べますね。楽しみです。」
『ほら、時間無くなるから行っておいで。』
「はい、行ってきます。」
『また、後で。』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます