第15話間宮家東京に行く 1(果穂side)

(果穂side)


父と兄が慌ただしく帰ってから窮屈な着物を脱いで一息付く。


立食パーティーに美味しそうなスイーツもあったのに、着物のせいで全然食べられなかったな。

着物を畳んで一式袋に入れて配送手続きをする。

身軽になってやっと翔さんに電話が出来る。


お仕事中だったら申し訳ないなと思いながら電話をした。


翔さんは意外にも、後15分くらいで行くと言うので、ホテルのロビーで大人しく待つ事にする。


ガラス張りの窓の側に1人掛けのソファを見つけ、そこに座って手のひらサイズのスケッチブックをバックから取り出す。


私の小さな趣味は、今日見つけたスイーツを描く事。

パーティー会場にあったスイーツを思い出しながら描く。

カクテル用のグラスに入っていたミニパフェ、美味しそうだったなぁ。

お兄ちゃんはパクパク食べてたけど…。


後は、ひと口サイズのカヌレ…持って帰りたかったなぁ。

一つ一つ思い出しながら描いていく。





「ごめん、道が混んでて遅くなった。大丈夫だったか?」

振り返ると、翔さんがいた。


「忙しいのにお迎えに来て頂いて、ありがとうございます。」

慌ててスケッチブックを片付けカバンに入れる。

「気にしなくていい。俺が会いたかったんだ。」

そう言って翔さんは私のバックを肩にかけ歩き出す。


「あの、荷物は自分で持ちますよ。」

バックを持とうと歩み寄ると、手を握られてそのままエレベーターの方へと引っ張られる。

「慣れない着物で疲れただろ?

あんまり連れ回すのも可哀想だと思って、

このホテルの最上階のレストランにした。

会場じゃ、あまり食べられ無かっただろ?

お腹は空いてる?」


「はい、美味しそうだったんですけど…お腹ペコペコです。」


翔さんはフッと笑ってやっと振り返ってくれた。目線が合い、優しくポンポンしてくれる。

優しい笑顔で安心する。


「待ってる間、誰かに声をかけられなかったか?」

実はロビーに入るなり、何人かの男が果穂に目を向けていた事に気付いたから、翔は心配になり聞いてしまう。


「大丈夫です。私みたいなお子様は誰も相手にしませんよ。」

その無自覚なところが辛い。翔はそう思い、果穂の兄の苦労が目に浮かぶ。

そして尊敬すら覚える。


ホテルの最上階にある、夜景が綺麗なイタリアンレストラン。


2人掛けのソファがガラス張りの窓に向かって置かれている。

寄り添いながらソファに座り、しばらく無言で景色を堪能する。


どのくらいそうしていたか分からないけど、気がつくと飲み物が運ばれていて二人で乾杯する。


「優秀賞おめでとう。」


「ありがとうございます。」


今日、ここに来てからいろんな人から何度も口にされた祝福の言葉だけど、翔さんが言うと誰よりも特別な感じがするのはどうしてだろう。


シャンパンを一口飲んでみる。

「これ美味しいです。飲みやすいからお酒じゃないみたい。」


「そうか良かった。」

目を細めて笑う翔さんが夜景に溶け込んで凄く絵になる。


ご飯が運ばれてきて、色とりどりのお皿が机に並ぶ。どれも彩り鮮やかで美味しそう。

「写真撮ってもいいですか?」


「ああ、好きにどうぞ。」


「ご飯もですけど、翔さんもです。」


「俺も?」


「はい、こっち見てください。ニコッと笑って。」


「そう言われても簡単に笑えないよな。」

ふふっと軽く笑う瞬間をすかさず撮る。


「はい、笑顔頂きました。」


「果穂の写真と交換条件だからな。着物を着てる写真。」


「えっ⁉︎着物はだめですよ。

成人式でも無いのに振袖って…結構恥ずかしかったんです。兄が勝手に決めちゃって…。」


「俺もお兄さんに同意見だ。

着物よく似合ってたよ。思わず見惚れた。」


「私、思うんですけど……翔さんもフィルターかかってませんか?」


ご飯を小皿に取り分けて翔さんに渡す。

「ありがとう。…フィルターって何?」


「兄も翔さんも、直ぐ私の事褒めてくれるんですけど、そんなに私、可愛くなんて無いと思います。」


「何に言ってるの?果穂はそこらのモデルに負けないくらい可愛いし、綺麗だ。」

信じられないと言う顔でこちらを見てくる。


翔さんも、私が届かない所にある食べ物を小皿に取り分け渡してくれる。


「ありがとうございます。」

うちの男子達には無い気遣いに驚きながら、

有り難く頂く。


二人ソファに座って食べながら話を続ける。


「フィルターって何?」


「2人にだけは何故か可愛く見えちゃうフィルターです。」

真顔で言う。


私を見て翔さんが笑う。


「何でそんなに自己評価が低いのか分からないが…。まぁ、でもそれが果穂らしいのかもな。」


「小学生の時、近所の男の子達にブスブスって言われて泣かされました。」


「まぁ、馬鹿なガキは好きな子を虐めたくなるって、心理は分からなくもない。」


「だから未だに男の人は苦手です。」


「俺をその馬鹿なガキと同じにされたら、心外だな。」


「翔さんは優しいからそんな事ありませんけど。」


そんなとりとめない話をしながら食事は進む。


「果穂の発想力好きだな。

パフェもだけど、考えてる事全部、可愛くて聞いてて飽きない。」


「普通ですよ?…お疲れですか?」

心配になって顔色を伺う。


「俺が言うのも何だけど、

俺は元々他人に興味が薄いんだ。

感情を表に出す事も無ければ、無表情で淡々としていて、低エネルギーで生きてるらしい。」


「それはあの、副社長さんが言ったんですね。」

笑いながらそう聞く。


「そう、その俺が果穂にだけはこんなにも心惹かれて、目が離せないんだ。

もっと、自信を持つべきだ。」


ふふっと笑う。

そう言う翔さんの方が面白いですけど、と心の中で思う。

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