第14話 間宮家東京に行く(翔side)

(翔side)

 はぁーーっと天を仰いで片手を額に当て、

深いため息を吐く。


「良かった……。」

つい、着物姿から要らぬ連想をしてしまった。見合いにでも行くのかと……。


果穂は首を傾げながら心配そうな顔で俺を見ている。


「どうか、しましたか?」


「いや、ちょっと要らぬ思い違いを…。」

俺は苦笑いしてずっと握っていた果穂の手を見つめる。

自分の指先が冷たくなっているのに気付き、パッと手を離す。


「ごめん、痛かったか?」

思わず強く握り締めていなかったかと、焦って果穂の手を取り手首を見つめる。

跡はついてないようでホッとする。


「全然、大丈夫です。でも、お時間大丈夫ですか?仕事の途中だったんじゃないんですか?」


そう、確かに仕事を中断して急いで出てきた。

今日はみかんパフェの試験販売だった為、

アンケートの回収で立ち寄ったに過ぎながった。 

cafeのオフィスでアンケートを確認しているところ、ふと窓を見ていたら着物姿の果穂に目が止まった。

 

まさか⁉︎と思った。

会いたいと思い過ぎて幻覚を見たのかと…


果穂に会いに行ってから1か月も経ってしまっていた。


どうにかして会いたいと、会わなければと思う気持ちが強過ぎて幻を見たのかと…。


でも、どんな姿でも果穂を見間違える訳はない。そう思った瞬間、飛び出していた。


新田と雅也も居たのに。


他に数人スタッフも…

果穂だと認識した瞬間、全て吹き飛んでしまった。


「果穂は、時間大丈夫か?」


時計を見るタイミングでスマホが鳴る。

「…何?」


『何じゃないですよ。何処に行ったんですか?突然いなくなってこっちがびっくりですよ。で?誰なんですか着物の美人さんは?』


見られてたか…。


「すぐ行くから集計進めといて。」

そう言ってこっちから強制的に切る。

「果穂、何処のホテル?」


「えっと、ハイアットホテルです。」

白い封筒の中の招待状を見ながら果穂が言う。


「そんなに遠くないな。この車使って。

後、帰りは連絡して迎えに行くから。」


「えっ⁉︎でも、多分8時くらいには終わるので、お仕事大丈夫ですか?

私、お仕事終わるまで待ってますから、

気にしないでくださいね。」


「大丈夫、どうにだって出来るから。」

そう言って近くで待機してる運転手を呼ぶ。


「ちゃんと終わったら連絡して。果穂からの電話待ってるから。」


そう言って車を降りる。


「あ、ありがとうございます。タクシー呼ぼうかと思っていたので。」

果穂がペコリと頭をを下げる。


「…着物、似合ってる。綺麗だ。」

本当は誰にも見せたくないぐらい綺麗で、

一人で行かせる事さえ心配になるくらいだ。


運転手の武井さんに場所を伝えてお願いする。


「分かりました。社長の大切な方ですね。

安全運転で行って来ます。」

ニコニコしながらそう言って車に乗り込む。


「いってらっしゃい、楽しんでおいで。」

そう言って送り出す。


「翔さんもお仕事頑張って下さい。」

窓から顔を見せて手を振って果穂は去っていく。


見えなくなるまで見送って急ぎ事務所に戻る。


事務所に戻ると雅也からの質問攻め。

「あの、着物の子が間宮果穂ちゃん⁉︎

何でこっちに来てたんだ?何で紹介してくれないんだよ。」


他のスタッフもいる為あえて無視。


「今日は俺、早く帰るから巻きで行くぞ。」

そう秘書の新田に伝えて足早に店舗を後にする。

夜8時前、時計が気になり何度も見る。


そろそろ果穂から連絡が入らないかと、スマホが気になって仕方がない。


「社長、僕も一緒に上がります。もう仕事になりそうもないので。社長が話してくれないからって僕が質問攻めにあったんですから。」

うんざりした顔で新田が言う。


「面白半分で首突っ込んでくるだけだから、適当にあしらえよ。」

早く帰らないとアイツに捕まりそうだな。


そう思いながら帰り支度をする。


スマホが震えて急いでタップする。


「お疲れ様。」


『お疲れ様です。お仕事、終われそうですか?』


「丁度、今片付けてたところ。

道が混んで無かったら15分くらいで行けるから、待ってて。」


『はい、ホテルのロビーで待ってますね。

私、待つのは得意なのでゆっくり来て下さい。』


「分かった、じゃあ後で。」


待つのは得意って?どう言う事が気になるが、新田に後は頼むと伝える。


とりあえず雅也に見つかる前に急いで、会社を出る。

金曜日だからか、やたら道が混んでいる。


出来るだけ果穂を1人にさせたくないと気ばかり焦る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る