第12話みかん受賞する

朝、そう言えば昨日の電話本題は何だったんだろう?


何か話したい事があったんじゃ無かったのかな?そう思いながら朝ご飯の支度をしていると家の電話が鳴る。


「はい、間宮です。」


『間宮ファームさんですか?私、品評会の監査をしております、鈴木と申します。

朝早く申し訳ないありません。間宮勉さんいらっしゃいますか?』


「はい、少々お待ち下さい。」

昨日、てっきり連絡が来なかったので、残念ながら賞は取れなかったのだと思っていた。慌てて寝ぼけ眼の父に変わる。


「もしもし、お電話変わりました。代表の間宮勉です。」


「はい…はい……そうなんですか。

…はい、明日……午後なら選果の方に戻りますが…はい、分かりました。

よろしくお願いします。」

父が、電話の向こうに向かってお辞儀をしながら電話を切った。


「何だったの⁉︎何て言ってた?」


「ああ、うちのみかんが…農林大臣賞の下の最優秀賞取ったらしい…。」


「えっ⁉︎……凄いじゃん!!

お兄ちゃん、お兄ちゃん起こさなきゃ」

急いで2階でまだ、寝ているお兄ちゃんを起こす。


バタバタと降りて来たお兄ちゃんは、ボサボサの寝癖頭で大喜びした。


午後に、品評会会長と監事の方が2名、背広姿で家に来て、正式に祝辞をもらう。


そして、授与式は何と東京で農林大臣から直々に頂く事になり、来月初めの東京行きの切符を3枚家族渡された。


「収穫でお忙しい時期だと思いますが、東京までお越し頂きたいと思います。」

そう言って2人のお偉い方は帰って行った。


後に残された私達家族は、呆然としながら新幹線の切符を手にしばし固まって、これは夢じゃ無いかとお互い強く抱き合った。


東京には兄と父が日帰りで、私は里穂の家に一泊するお許しが出た。


東京に行けると言う事は翔さんに会える。

嬉しくて気持ちが逸る。


その後も、翔さんからは週に2回くらい電話があって、1時間くらいお喋りする様になった。


今では、いつ電話が来るかと夜のひと時の楽しみになっている。


翔さんは毎日忙しいそうで、電話は大抵9時過ぎから10時にかけて、夕ご飯はほとんど食べないかコンビニ弁当みたいで心配になる。


東京の授賞式に行く話しは、結局まだ話していない。


突然会いに行ったらびっくりしてくれるかな。そんな顔もちょっと見てみたい気がする。


『俺は表情筋が死んでるらしい』って、言ってたけど、私が思い出す翔さんは笑顔だった。


あの、イベントの時以来一度も会ってないけど、あの時優しく笑ってくれた笑顔は忘れない。

あれからもう、気付けば1か月も経っていた。


電話で笑ってる声を聞くと、あの笑顔を思い出す。

会いたいな、と自然に思う。


授賞式にはいろいろ考えたあげく成人式に作った振袖を着る事になった。


24歳で振り袖は若干恥ずかしいと言ったのに、何故か父と兄は意気投合して強引に決定してしまった。


髪と着付けは当日、里穂がアルバイトしているバイト先の美容院に兄が勝手に予約を入れた。


明日、朝早い便で始めて3人揃って果穂のアパートに行く。


サプライズにするか?と、兄が行ったけど、もしかしたら彼氏が居たりとか…そんな鉢合わせはしたくないと、父が断固反対して1週間前に連絡を入れた。


後、一つびっくりしたのが、妹のバイト先が翔さんの第一号店のお店と目と鼻の先程、近かった事。


そして果穂がお昼休みに行くお店でもあった。

不思議な縁を感じながらそれでも社長さんと知り合いなんだよ。 

とは、里穂にはおこがましくて言えずにいる。


昨日、翔さんから3日振りに電話があった。


みかんパフェが試作段階を合格して、1号店のみでお試し価格で近々販売されるらしい。


『果穂にも食べて欲しいんだけどこればっかりは送れないしな。』


何気なく金曜日の予定を聞いておく。

「金曜日は、お仕事の予定ってどんな感じ何ですか?」


『金曜日?朝から店舗で試食会が12時だったかな。後は外回りで夕方に本社に戻る感じだと思うけど、何で?』


何か勘付かれたかな?

と冷や汗をかきながらも、さり気なさを取り繕って話を続ける。


「えっと夜9時くらいだったら、お電話しても大丈夫ですか?」


『果穂からだったらいつでも何時でも構わない。』


「ありがとうございます。」


翔さんはきっと、何か疑ってるかも知れないけど、聞かずにいてくれている気がする。


『果穂は、土曜日休みなのか?』


「はい。今週は土日休みなんです。」


『そうか、良かったな。

ずっと収穫続きも、体疲れるだろ?イベントも無いのか?』


「はい、何も無いので、ちょっと喫茶店巡りでもしようかと思ってます。翔さんは?」


『俺は、土曜は午後から業者と打ち合わせがあるけど、午前はちゃんと休むつもりだ。』


「そうなんですね、良かったです。

翔さん、働き過ぎて倒れちゃうんじゃ無いかって、心配になりますから。

休める時にちゃんと休んで下さいね。」


『そんな脆く無い。ちゃんと鍛えてるし大丈夫。』

ハハッと軽く笑う声が聞こえる。

 

「最後に熱出したのっていつですか?」


『……いつだったかな?

去年の寒い時期に1日寝込んだけど、次の日には熱は下がって普通に仕事行ったな。果穂は?』


「私ですか…

夏に夏風邪ひいちゃって一週間くらい寝込みました。

後は……、冬に家族皆んなでインフルエンザになっちゃったり…」


『果穂の方が心配だな…。』


そんなたわいも無い話しで、今日も1時間があっと言う間に過ぎていった。

 

『じゃあ。明日、果穂からの電話楽しみにしてる。おやすみ。』

そう言って、翔さんは電話を切った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る