第11話 (果穂side)

トゥルルル  トゥルルル


お風呂から出て部屋でまったりしている頃、

スマホの着信音が響く。


本当に電話が来た!!と分かっていながらびっくりする。

恐る恐るスマホの受信をタップして、


「はい…お疲れ様です。」


『お疲れ様、もう寝てた?』

落ち着いた、重低音の声を聞き、

うわ、本物だ!っと内心思い緊張する。


「えっ⁉︎

さすがにこんな早くは寝てませんよ。

堀井さんは?今、帰って来た所なんですか?」

壁時計を見ながら話す。


『いや、まだ車の中。家に向かってるところなんだ。』


「えっ⁉︎

今まで仕事だったんですか?毎日こんなに遅いんですか…?」

今は9時15分を回ったところ。


『今日はまだ早い方だよ。君が寝ちゃうと困るから、早めに切り上げた。いつも何時に寝るんだ?』

私なんかの為に、わざわざ⁉︎


「えっと、いつもだいたい11時とか…12時までには寝てます。朝が早いので。」


『そうか、覚えとくよ。』


「堀井さん、夕飯は?食べられましたか?」


『…その呼び方辞めない? 

出来れば名前で呼んで欲しいんだけど、俺も果穂って呼びたい。』


えっ⁉︎名前呼び⁉︎

それはさすがにハードルが高い…


「えっ⁉︎無理です、だって、年上ですし社長さんですし…私は別に名前で全然構いませんけど…。」


『果穂との心の距離を近付けたいんだ。

夕飯はまだ食べてないけど、パフェの試食をしたから腹は空いてない。それより、果穂は何歳?』


「えっと、24です。

…ご飯はちゃんと食べた方がいいですよ。

堀井さんは、何歳何ですか?」


『…名前で呼んでくれなきゃ答えない。』

拗ねた様な言い方をされる。


「えっ⁉︎ ……えっと…カ、カケルさんは?」

ちょっとカタコトになってしまう。


『呼び捨てで構わないんだけど…。

まぁ、仕方ないな。俺は今年29。

果穂の誕生日はいつ?』


質問責めでタジタジになってしまう。


「えっ?…2月15日です。翔、さんは?」


『俺は夏生まれ7月7日。』


「七夕ですね。なんだか素敵です。」


『ははっ、そんな事始めて言われた。

果穂は夕飯何食べた?』


「今夜はお鍋です。この時期は忙しいのでお鍋の日が多いんです。ちなみに明日はおでんにしました。」


『果穂が作ってるの?』


「うちは、母が小さい頃に亡くなったので、必然的に今は私の担当です。」


『そうなのか…。俺も母親は居ないに等しい…。俺が子供の頃に愛人を作って出て行ったんだ。まぁ元々冷めた家族関係だったし、母親らしい事をしてもらった覚えも無いけどな。

果穂の家族は仲良さそうだよな。

どんな家族?』


「そうなんですね…。うちは過保護な兄と妹が1人。妹は東京で美容師の専門学校に通ってます。父は穏やかな人で、閑散期にはいつも旅行に連れて行ってくれます。

翔さんは?ご兄弟は?」


『俺は、義理の弟が1人。中学の頃に父親が再婚したんだ。だけど、俺はあの家には馴染めなくてそれから1人で暮らしてる。』


「中学生からですか⁉︎大変だったんですね…。」

私には想像も出来ないほどきっと辛い思いをしてきたんだろなと心が痛む。


『でも親代わりの家政婦が毎日通いで家事はやってくれていたし、不自由はしてなかったから。』

大した事ない様に翔はそう言う。


「寂しくないですか?」


『そう言う感情はもう無いな。でも、果穂に会えないと寂しいな…。

果穂と話してると、癒されてカサついた気持ちが穏やかになる気がする。』


「私なんかで良かったら、話し相手ぐらいにしかなれませんけど、いつでもお電話して下さいね。」


『ありがとう。』


車のバック音が電話の向こうから聞こえてくる。

「ご自宅に着いたみたいですね。お夕飯ちゃんと食べて寛いで下さいね。」


「ああ、分かった。…じゃあ、お休み」

と名残欲しいが電話を切る。


彼女の優しい心遣いと思いやりに癒されひととき、仕事でギスギスした気持ちが浄化された気持ちがする。

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