第6話陽だまりcafe Open
「おはよう。お兄ちゃん、今日はイベントだから、早く行くね。」
階段下から二階に呼びかける。
今日は収穫は休みで、完全にのんびりモードの兄はまだ起きてこない。
果穂は久々のイベントで朝からソワソワ、忘れ物が無いか確認してから家を出る。
あれから主催者に連絡して、まごころファームの横の場所を確保出来たし、みかんもレモンも充分な量を積んできた。
天気も申し分ない秋晴れだ。
「おはようございます。良い天気で良かったですね。」
まごころファー ムの中山さんに挨拶をして出店準備に入る。
「今日は亮太君、手伝いに来るの?」
「忙しくなったら来てくれるみたいです。」
「そうか、相変わらず過保護だねー。
多分オープン時間が1番忙しいから早めに呼んだ方がいいかもよ。」
中山さんからアドバイスを貰う。
とりあえず、パフェのスタンバイを10個ほど作り冷蔵庫に入れる。
開店時間と同時に沢山の人が各店舗に並ぶ。
『陽だまりcafe』にも、4、5人が列を成す。
始めはドリンクの客が多く上手に回す事が出来た、1時間過ぎた時点で既に50人以上のお客様はこなしただろうか…
休む暇無くお客様が並ぶ、ちょっとお兄ちゃんにヘルプをお願いしようかなぁと思う。
12時近く、ランチに流れた客が増えて少し客足が止まる。
そこで一息着く。
お兄ちゃんに電話を入れる。
12時半頃には来てくれる事になったので一安心する。
「こんにちは。忙しそうだね。」
声をかけられ振り返る。
「こんにちは。いらっしゃいませ。」
えっ⁉︎この人……この前の……⁉︎
びっくりして固まる。
「すいません、みかんパフェって出来ますか?」
バリトンボイスの良く通る声でパフェを注文される。
イケメンが1人でパフェ…
良く分からない思考に陥りながら、冷静に笑顔で応対する。
「かしこまりました、少々お待ち下さい。」
お代をもらってパフェを作り始める。
「この店1人でやってるの?」
気さくに声をかけてくるイケメンさんに、内心ドキドキしながら平常心を心掛けて答える。
「はい。普段は1人でやっています。こんなに混むイベントばかりでは無いので、今日は人出が多くてびっくりしてます。」
営業スマイルで応対する。
「大変だったら、手伝おうか?」
いきなりの提案にびっくりする。
「あっ…決して怪しいものでは無く。」
そう言ってイケメンさんは1枚の名刺を差し出してきた。
「cafeの社長さん…。」
やっぱりこの前ぶつかった人だ。しかもcafe経営者…。
「堀井と申します。
…実は貴方のパフェに興味があって、今日は来ました。」
「…私のパフェですか?…あの、私の作るものなんて趣味みたいなもので…。」
語尾が小さくなってしまったのは、彼の真剣な顔と期待のこもった眼差しが眩しかったから…。
「みかんってパフェにするには難しい素材で、うちでも研究を重ねているんですが、なかなかこれと言った物が出来なくて、参考までに食べさせて頂きたい。」
完成したパフェを出せず恐縮していた私に、堀井さんは笑顔で手を差し出してくる。
お代も頂いてしまったし…渡さない訳にもいかないと、おずおず差し出す。
「ありがとう。」
そう言って嬉しそうに微笑んで、堀井さんは目の前で一口パクッと食べ出した。
心配になって私は俯き加減になる。
「美味しい。そんな心配そうな顔しないで。」
困った顔でそう言ってくれる。
「このみかん甘くて、シャリシャリ感があっていいね。生クリームも甘さ控えめでバランスもいい。」
凄く褒めてくれてホッとする。
「みかんは薄皮を溶かして、チルド冷凍した物を使っています。」
「良く考えられているね。
凍らせる発想は無かったから凄く良いと思う。」
全部一気に食べて堀井さんは、優しく微笑んでくれて、少し警戒心が解ける。
「あの……注文いいですか?」
堀井さんとの会話に集中していた為、次のお客様に気付かなかった。
「すいません!どうぞご注文お願いします。」
堀井さんもスマートにサッと場所を開けてくれた。そればかりで無く後に続くお客様の注文を取り始めてくれる。
気付けばお会計までこなしてくれて上手にお客様を回してくれた。
私はドリンクやパフェを作る作業だけに集中して、堀井さんの言われるままに商品を提供した。
30分程時間が過ぎてやっと人の列が途絶える。
「はい。これが最後のオーダーかな。苺パフェでお願いします。」
にこりと微笑んでくれる。
イケメンの笑顔の破壊力は半端無い…。
お客様も若い女性で心なしが赤面している。
列最後のパフェをお客様に提供して、慌てて堀井さんにお礼を言う。
「すいません、結局手伝って頂きありがとうございました。これ良かったら飲んで下さい。」
頭を下げて、フレッシュみかんジュースを差し出す。
「ありがとう、もらえるの?ちゃんと払うよ。」
「いえ、手伝って頂いたお礼ですので…こんなお礼で逆にすいません。」
「いや、喉乾いたから嬉しい。
俺も久しぶりに接客して楽しかったよ、ありがとう。」
爽やかな笑顔でお礼を言われ、私は困って
「こちらこそです…。」
と、答えるのが精一杯だった。
「果穂ごめん、遅くなって大丈夫だったか?」
お兄ちゃんが駆けつけて来る。
「お兄ちゃん!来てくれてありがとう。」
「お兄ちゃん…」
堀井さんが何故かホッとした顔でそう言ったのを聞きとって首を傾げる。
「果穂?こちらの方は?」
お兄ちゃんが敵視した目で彼を見るから、慌てて車から降りて否定する。
「こちらはお客様で、1人で忙しくしてた所を手伝ってくれたの。」
堀井さんがすかさず名刺を出して兄に挨拶してくれる。
「堀井と申します。すいません、大変そうだったので少しだけお手伝いをさせて頂きました。」
そう言って頭を下げてくれる。
兄は慌てて名刺をポケットから取り出し、
「それは妹がお世話になりました。ありがとうございます。間宮と申します。」
お兄ちゃんは無愛想ながらも頭を下げる。
「では、これで失礼します。残りも頑張って。」
そう言って、堀井さんは爽やかに去って行く。
「もう、お兄ちゃんなんでそんな無愛想なの。ちょっとお店見ててくれる?」
そう言って、私はみかんを一袋と冷凍みかんを袋に詰めて堀井さんの後を追う。
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