第5話 決意
伝七が戻ってきた。
「田舎の出城だ、警戒は大した事はないが、敷地は竹の塀で囲まれていて、役人の詰所と蔵とで大きな建屋が2つ、監視のための櫓が1つだ。
周りに隠れる事が出来そうな場所も無い。
やたらと見通しが良過ぎて下手に近付けない。
さて、どうしたもんかな・・・」
「やはり、夜まで待つ方が良いんじゃないか?」
「そうだな・・・ん? あれは村長じゃないか?」
伝七が目の良さを活かして、少し離れた林道を歩いて誰かが近づいて来るのを見つけた。その背格好から、すぐに村長の助六だと気づいた様だ。
一旦、岩影に身を隠した後、改めてから様子を伺うと、下原城の門から続く一本道を、村の方から歩いて来る人影があった。
「あぁ、本当だ。あれは助六さんだな。
どうしたんだろうか・・・」
権左衛門と伝七は、周囲に他に誰も居ないことを確認すると、道に出て村長に声を掛けた。
「助六さんじゃないですか。もしや、村の衆を追ってきたんですか?」
新里村の村長でもある助六は、二人に気付くと立ち止まって挨拶をした。だがその顔は覇気が無く、困った様子でどことなく落ち着きが無かった。
「あぁ権左衛門、それに伝七か。無事で良かった」
村長は二人の姿に安堵すると、どう話したら良いか悩んだ様子だったが、村に起こった出来事を語り出した。
その態度から、言葉に出したくないことがあったのだろうということも想像できた。
「今朝早くに役人が押しかけてきたんだ。それで、彼らは先月納めた年貢が要求より足りない。懲罰として追加して納める様にと言って来たんだ。
勿論、帳簿も見せて間違いが無いことも説明したさ。それに村には備蓄もほとんど無いから、これ以上、どう頑張っても出せんもんは出せんしな。
だがお役人達は、説明を聞いたのか聞いていないのか、村の家々を廻って、食料や家財道具を差し出すように脅して来たんだ。
いくらなんでも横暴過ぎるんで、気性の荒い木こりの与作が抗議した。それでもみ合いになってな、そこからは一方的だったよ。
役人達は用心棒も連れていてな、騒ぎを聞いて外に出て来た村の衆が、片っ端から殴られて捕まったんだ。
仕舞いには用心棒が刀を抜いたんで、皆切られるかと怯えてな。
結局、お役人方は10俵分の年貢を追加で用意しろと迫ってな。それまでお通は村長の身代わりだと言って、村の衆と一緒に連れて行かれてしまったよ・・・。
そんな事があってな、なんとか話し合いで皆を返して貰えないかと思ってここまで来たんだ・・・」
「そうでしたか。
ですが、話し合いで解決出来るなら良いですが、あまり良くない噂も聞いています」
伝七が、例の噂話について説明をしようとしたが、村長は既に知っているようだった。。
「あぁ、わしも隣村の村長から聞いたよ。
ずっと北にある川本村では同じように村の衆がさらわれて、結局は行方も分からず帰って来なくなったって・・・人買いに売られたんじゃ無いかって・・・」
そこまで言うと、助六は下を向いて黙り込んでしまった。相当参っている様子だ。
この手の話しに慣れているのだろう。伝七は、至って冷静に打開策として自分の考えを述べた。
「それを知っているなら尚更じゃないですか。天下の役人がそんな事をしているのでしょう? そうであれば、そもそも話し合いで解決など到底無理かも知れない。
いっそうのこと無理にでも助け出して、そのまま山寺に
「そうかも知れない・・・
だがな、役人だって人の子だ。きっと説明すれば、分かってくれるんじゃなかろうか・・・」
「助六さんは優しいな。
・・・分かりました。多分、村長をいきなり拘束するなんて真似はしないだろうから、話し合ってみてください。
俺達はしばらくここで待っています。では、気をつけてください」
伝七が助六に肩入れする理由が、助六の人柄に現れていた。
権左衛門と伝七は村長を見送ると、林の中に身を隠して三刻程(約1時間半)待った。
時刻は
もうすぐ山間に太陽が隠れ、暗くなって来る頃合いだ。
二人が岩影に潜んで交代で様子をうかがっていると、林道をとぼとぼと帰って来る村長の姿を見つけた。
「どうでしたか?」
伝七が駆け寄って、交渉結果を尋ねた。
「村の衆は解放されたよ。棒叩きにあった者も居たんで、皆で背負って帰りは近道して峠に向かったよ・・・。だが・・・」
そこまで言いかけて助六は黙り込んだ。
「解放されたんですね。良かった・・・」
権左衛門は、村人達が解放されたことに安心したが、伝七は助六の素振りが気になったのか、念を入れるように尋ねた。
「本当に全員解放されたのですか?」
助六は伝七に見透かされた事を、まるで忘れた事を思い出す様に語り出した。おそらく事実を受け入れたくなかったのかも知れない。
「お通は・・・、お通は年貢を納めるまで帰さないと言われてな・・・。
お役人とは言え、乱暴な連中ばかりだったから心配でな・・・」
権左衛門と伝七は話しを聞いて、愕然とした。
年頃の娘が、一人残って人質になっているというのだ。平然と心配するなと言える様な状況ではなかった。
助六と別れた権左衛門と伝七は、お通を救出することを決意し、意思を固めることに時間は要らなかった。
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