6:ダチョウと手合わせ




「かり?」

「やっつける!」

「たおすー!」



ちょ! ちょい待ち! ステイステイ! お前らステイ……、ってダチョウに英語なんかわかるわけがねぇよなぁ! あぁ、もう解った! 解ったから! お前ら落ち着け! 大丈夫だから! 狩りじゃないからね!? 今から、私が、このお姉さんとちょっと遊ぶだけだから! みんな座っとけ! ほ、ほら~? 一番最初に座れるエライ子は誰かな~? 褒められちゃう子は誰かなぁ~?



「えらい?」

「えらい!」

「すわろ! すわろ!」

「ほめてー!」



おうおう、ちゃんと言うこと聞けてごっつ偉いですなぁ。はいはい、よしよししてあげましょうねぇ。あぁデレちゃんもちゃんと座れてるねぇ、よちよち~。大好きなエルフのアメリアさんにも褒めてもらってねぇ? ちょっとこの増えすぎた群れを全部褒めていくってのは時間かかり過ぎるからちょっと手伝ってねぇ? いやほんとマジで。



「レイス殿、確かに実戦に比べれば手合わせなどお遊びの様なものだが、その言い方は如何なものかと……。」



ちょ! ま! 騎士のねぇちゃん気持ちはわかるけどそんな闘気をぶつけてきたらダメだってば! うちの子そこら辺よく理解してないんだって! こっちを攻撃してくるの基本捕食者だったからそういうのわかんないんだって! あぁ、もう! 反応してうちの子がァ!



「てき?」

「てき!」

「やっつける!」

「わー!」



「だァーッ! おま座ってろって言ってるでしょうが! ほら座れ! 座れ! 悪いけどマティルデさんは黙って! そこお座りィ!!!」





「……なんか、申し訳ない。」



いいよ! 今度から気を付けてね!!!








 ◇◆◇◆◇








「んんッ! よ、用意はよろしいだろうか。レイス殿。」


「待たせちゃってマジでゴメンね。うん、大丈夫。」



マティルデさんの前に立ちながら、そう言葉を返す。いやほんと待たせてごめんね? 騎士様と成れば色々忙しいだろうに拘束しちゃって……。うちの子たち記憶がマジで持たないからさ。一回満足するまで撫でてあげてもすぐに忘れて「もっかい撫でてー!」って来ちゃうもんだから……。一応全員均等に褒めてやったつもりだけど多分何回か余分に撫でて貰っている奴もいるだろう。


あ、それとちょっち怖がらせちゃってごめんね? この子たち戦闘へのスイッチの入りも早いからさ……。一応近くに私がいる時はこっちの指示を待ってくれるからいいんだけど、すでに攻撃された場合とか仲間がケガしちゃった場合とかは私でもちょっと止めるのが難しいレベルだから……。マジで気を付けてね。ほんとに動かなくなるまで蹴り続けるだろうから。


……私たちの目を見ちゃったあなたなら、理解できるでしょう?



「ッ! ……あぁ、肝に銘じておく。部下の者たちにも伝えておこう。」


「ありがと!」



さて、じゃあそろそろ手合わせ。ダチョウ風に言うと"かなり激しめなじゃれ合い"。始めて行きましょうか。


この女騎士さんが勝負を仕掛けてきた理由、それは理解できる。話を聞いたり立ち振る舞いを見ている感じ、この人の根っこは"武人"というものなのだろう。言葉を通してややこしい駆け引きを何度も繰り返してお互いの妥協点を理解していくよりも、一度手合わせすることで根本的な考えをお互いに教え合い、相互理解を深めようとする。そんな人だ。



(しょーじき、そっちの方がありがたいよねぇ。)



こちらの雰囲気が変わったことを理解したのだろう、あちらさんもゆっくりとだが構えを整えていく。


私はダチョウの中で唯一の大天才なワケだが、周りがおバカばっかりだったせいで"話し合い"の経験値は0に等しい。いくらか前世の記憶を基にして推察することはできるが、こっちの常識や基本的な考え方、そのほか諸々のすべてを私は知らない。あっちが何かしらの前提条件に沿いながら会話していても、何も知らない私が勘違いしたまま話を進めてしまう。ありそうなことでしょう?


それ故に、こういった肉体言語を使用しての会話ってのは非常にありがたい。明らかに基本的な身体能力のスペックが違い過ぎるため、全力で蹴りを叩き込んだ瞬間、この女騎士さんが文字通り"お星さま"になってしまいそうだが……、そこら辺は手加減する、って感じで。本気でやるけど、全力ではない、そういう戦いだ。


っと、さすがにこれ以上余計なことを考えるのは失礼か。



「ちょっと手がないもんでね、足でやらせてもらうけど……。お行儀が悪いって言わないでよ?」


「理解している。こちらも木製と言えど武器を使わせていただくが……、よろしいな?」



眼前の彼女は、少し腰を下ろしながら両手で槍を掴んでいる。前世ではこんな機会なんてなかったし、本当に初めての経験だ。時間をかけ、戦うための術を身に着けてきた人が目の前にいる。高原じゃもっぱらスペックでごり押ししてくるような相手ばっかりだった。……すこし、いやとても、たのしみ。



(ちょっと色々見せて貰いたいし、最初は譲ろうか。)



少しだけ視線を逸らし、先手を譲る。


その瞬間、彼女が大きく踏み込み。先ほどまで彼女がいた場所が爆発する。


驚異的な踏み込み、前世ただの人間だった頃では絶対に反応できなかったソレ。



踏み込み、自身にとって最適な距離まで移動し、その勢いのまま槍を振るう。



流れるような動作で全身の力を乗せたその突き、おそらく人類の中でも上から数えた方が早い攻撃。



私の脳天を狙い、放たれたソレは……。









欠伸が出るほどに、遅い一突きだった。


軽く首をひねり、最低限の動きだけでその突きを躱す。それぐらいの攻撃、高原じゃいくらでも見たさ。眼前で易々と避けられてしまった事実に少し驚きを覚えている彼女の顔を見ながら、そんなことを考える。私たちダチョウは、眼がいい。それは遠くのものを見ることだけじゃなくて、動体視力も含まれている。


確かに私らは高原じゃ弱い生き物さ、数をそろえて遠くの敵を警戒しなきゃ生き残れない生物。けれどそれと同時に、獣人で、戦闘に特化した体を授かっている。そもそも時速60㎞で走り回る私たちが、その高速移動の世界の中で"眼"が悪けりゃ色々困るだろう?



「ぬ、ならば!」



ま、それぐらい相手さんも理解しているのだろう。突きを避けられた事実を受け止め、すぐさま次の行動へ移していく。ここですぐに行動に移せる当たり、やっぱ"技術"ってのはすごいよねぇ。囲んで叩く以外の戦術を知らない、いや出来ない私たちからすれば本当に尊敬できる。私はともかく他のダチョウたちには絶対に出来ない代物だ。



(相当な時間をかけて高めてきたものを、単純なスペック差だけで何とかしてしまうのは……。なんか気分悪いね。)



彼女に申し訳なさを感じながら、その猛攻を捌いていく。そもそも初撃で仕留めるつもりではあったのだろうが、もし防がれた場合や避けられた場合の想定もしてあったのだろう。何度も何度も繰り返したのであろう努力が彼女の槍捌きから見えてくる。そして同時に、搦手らしい搦手は一切なし。私が格上相手によくやる目つぶしとかそういうのを一切使用してこない。



(う~ん、誠実。っと、そろそろこっちも"見せないと"か。)



こっちは十分見してもらった、と言うことで攻守交代だ。


彼女の突きを翼でいなし、武器を飛ばさない程度に軽く弾く。それによって体勢を崩された彼女はすぐさま後ろに。……っと、ちょっと強くやり過ぎちゃったか、手が結構震えてる。目で軽く合図し、彼女の構えが整った瞬間、攻勢へと移っていく。



「ッ!」



私の攻撃は、基本足。その爪の部分で切りつけることを主軸に置いている。だがこれは"手合わせ"で、相手もこちらを害さない、というアピールのため木製の武器を持ってきてくれている。そんな気遣いを真っ向から壊しちゃうってのは違うでしょう?


普段と同じように爪で切りつける、だが相手の武器に当てるのではなく、撫でるように。いつもは単純に叩きつけてるもんだから、結構気を使っちゃうね、っと!


そんなことを考えながら、連撃を続けていく。高原での生活の中で叩き上げたものだから技術のギ、すらないような攻撃にはなるけれどこっちの考え方が伝わる様に、懇切丁寧な肉体言語を重ねていく。



「……ふふ。」


「どう、ッ! なされ、たッ!」


「あぁ、ごめん。こんなの初めてでさ。」



あぁ、本当に。たのしい。高原じゃこんなの本当にできなかったからね、自分だけの意見だけど、こっちに来て良かったと思えてしまう。


私たちダチョウはこんなことしない、"手合わせ"なんて概念すらないからね。他の群れじゃリーダーを巡ってケンカとかするのかもしれないけど、私が頂点で固定されてしまったこの群れじゃそんなの一切なかった。そもそも同族に嫌われるのを極端に嫌う子たちだ。武術の概念を持たないこの子たちにとってこの女騎士さんとしてる"肉体言語でのお話"なんて理解できるわけがないだろう。


冒険者の彼らとの会話、そして目の前の彼女との会話。本当に自身がソレに飢えていたのだとわかる。



(群れの子たちにも、こんな楽しい時間を理解してもらいたいなんて思うけど……。まぁ無理だろうなぁ。)



さて、これ以上続けても目の前の彼女がバテてしまう。私の見極めも、してくれたのだろう。方を付ける。



















「はぁ……、はぁ……、っ!」




「そ、そんな。」

「マティルデ様があんなにも簡単にあしらわれるなんて……。」



大きく飛ばされた彼女の槍に、肩で息をする彼女。その部下だったのであろう兵士たちが動揺を口にしている。とと、あんまりにも"お話"を楽しんでしまったせいでウチの子たちの面倒を見るの忘れてたな。いい子にしてたかなぁ……、うし! 全員座ってる! 偉いねぇ! めちゃエライ! またよしよしして……


うん? どうした? 『たべないの?』 ……いや食べるわけないでしょうが! あの人ね、仲間。わかる? わかるでしょ?


ほら最近私が"デレ"って呼んでる子いるでしょう? あの子とエルフのアメリアさんと同じような関係、お友達。解る? お友達。……解らないよなぁ。とりあえず攻撃したり食べようとしたら私、怒るから。いいね? 『おこる!?』『やだやだ!』『ごめんなさいー!』 あぁ、今は怒ってない! 怒ってないからねー!



「ふふ、あはは! はははははッ! 面白いな貴殿は!」


「え、あ? そうです?」


「あいやすまない! ここまで差を見せつけられてしまっては異を唱える者などいないだろう! ぜひこの町を楽しんでくれたまえ!」


「あ~、うん。どうも。」



槍を弾かれたせいで震える手を楽しそうに大きく振りながら、そう宣言する彼女。え、なに? うちの子たちそんなに面白かった? だったら一匹ぐらい面倒見てみる? ウチの群れはいつでも飼育員さんを募集中です! 目指せ週休二日制! (現在ワンオペ24時間無休営業10年間継続中)


う~ん、休みもってこ~い!



「このまま感想戦と行きたいところだが……、申し訳ないが仕事があるのでな。これにて帰らせていただく!」


「ありゃ、そりゃ残念。」



折角肉体言語を通じて仲良くなれそうな人を見つけられたって言うのに……。ま、お仕事なら仕方ないね! ほらみんな、マティルデさんにバイバイしようね~。お友達とお別れするときは、そう言うんですよ~。……まぁ仲間や同族と"別れる"なんてことこいつらにはないし、理解できないだろうけど。



「ばいばい?」

「ばい……、ばい?」

「ばいばい~?」




「うむ! バイバイだ旗下の方々! それとレイス殿!」


「あ、はい。」


「私は町の中央にある屋敷か、防壁にいる! いつでも会いに来てくれたまえ! ではッ!」



そう言うとパッと馬に飛び乗り配下の兵士さんたちを連れて足早に町へと帰って行ってしまう。ほんとに急なお帰りだったけど……、ずっと楽しそうな顔してくれてたし、私も楽しかったから万々歳かな。


さぁって色々あったけど町のトップに許可を貰えたわけだし、ゆっくりと町の観光へと行ってみましょうかねぇ。









 ◇◆◇◆◇








「マティルデ様、よろしかったのですか……。」


「何がだ。」



未だ震えが収まらぬ腕を隠しながら、兵の一人の疑問に答える。


ふふ、それにしても本当に良き相手だった。実力は圧倒的にあちらの方が格上、基本力を持つ者はそれ相応に尊大になるものだが、彼女と槍を合わせ、最初に感じ取った感情は"申し訳なさ"だった。おそらく手加減などしたこともなかったのだろう。私に対する謝辞の念がこれでもかと伝わってきた。


本当に、面白い。



「あのレイスという方は大丈夫そうでしたが、そのほかの方々は……。」


「口を慎め、死にたいのか?」



……あぁ、この者たちは見ていないのか。彼らの瞳を。あの、嫌なほどに透き通った無垢な眼を。


こちらの感情を、そのまま返してくるような鏡の様な眼。私たちが歓迎の意を表せばあちらもそれに返してくれる、しかしながら敵意を以って相対した場合。待っているのは破滅以外の何物でもない。



「少なくともあそこにいた一人一人が100の兵で囲んだとしても、易々と跳ね返されるような相手だぞ? その上、私の友の旗下たちを侮辱する気か?」


「い、いえ! 申し訳ございません!」


「……人間至上主義だったか? 西のナガンに近い村の生まれだと色々考えることもあるだろうが、ここはヒード王国だ。法と王、そして神の名の下ですべての種族は平等だ、慎め。」



表立ってその様な愚かなことをいう者はそうそういない、しかしながら国家ごとに雰囲気の違いというものはある。我がヒード王国は先ほども言ったようにすべての種族が平等ではあるが、ナガンの方は人間が他種族と比べて優位になっていると聞く。地域差もあるとは思うが、同じ人間の王を掲げるというのにここまで差が出るのは、な。



「早急に触れを出しておけ、彼女たちは我らが友である、と。危害を加えたものには国の法を以って処罰するともな。」


「か、かしこまりました!」



急いで走っていく兵の一人を見送りながら、より思考を深めていく。


彼女たちは自身の種族を"ダチョウ"と名乗った。私の聞いたことのない種族ではあるが、見た目からして鳥の獣人。そして陸上を走る鳥なのだろう。一撃一撃の攻撃の重さから、空を飛ぶ鳥の種族の方々の何倍も重い体躯を持っていることが推察できた。そして他の者たちの体を見るに、それが彼女たちの基本的な能力なのだろう。


自身より強い武人、それこそ頂点と呼べるような者たちを見てきたが、あのレベルが種族の基準になっている者たちはそうそういない。まだその全てを理解しているわけではないが、それぞれが"化け物"に手を掛けていてもおかしくない。



(本当に、面白い。)



レイス殿が慌てふためく様子を見る限り、彼女以外あまり賢くないのだろうが彼女の下で一つにまとまっていることは確かだった。あの巨人でも相手にしているのかと錯覚するような一撃を考えるに、その脚力、移動速度は相当なものなのだろう。もし、騎兵よりも速くそしてとても強い彼女たちが我が王国とぶつかった場合……。



(最低で、国が終わるな。うん。)



私は平民の出で、武力を以って貴族の末席である"騎士爵"を王から直接戴いた身だ。その実力は上から数えた方が早いだろう。そもそも我が王国はかの最強国家、帝国と比べると人材の幅がとても薄い。"化け物"と称される様な人物がうじゃうじゃいる帝国と比べ、我が国は誰一人所属していない。


一度は自身も"化け物"目指して槍を振るい、頂点に手を伸ばしたものだが、アレは無理だ。もうほんと"化け物"。同じ人類とは思えないくらいヤバいの。そして帝国はもっとヤバいの。最近帝国に歯向かおうとして滅ぼされた国があるんだけど、そこの王子様ね。首を切り落とされても生きてるの。


なんか『再生』って異能持ってるみたいで……。すぐ下からにょきにょき体が生えてきたの。ただの人間なのにだよ!? それに力が滅茶苦茶強くて、剣の一振りで敵の兵士を十数人屠ったとも聞いている。そんなヤバい奴がいる国を片手間に滅ぼせるのが帝国。マジであそこには手を出しちゃだめだ。



(とと、話が逸れすぎたな。)



そんな特記戦力を持たぬ我が国が彼女たちとぶつかった場合……、うん。勝てない。良くて現陛下の退位からの、あらたな女王レイス殿の誕生。最悪でヒード王国そのものが焦土化する、そんなところだろうか。だってあれ、絶対止められないもん。『神様、私なんか悪いことしちゃいましたかね?』なんて考えながらみんな仲良くひき殺されるのがオチだ。



(故に、『仲良くしましょ! 仲良くするから襲わないで! 何でもするからー!』と言うわけだ。)



まぁ本当に"なんでも"はしないし、出来ないが。


槍を合わせ理解したレイス殿の人柄は非常に好ましいものだし、私個人として可能であれば友情を育みたい相手ではある。だがこの町の"守護"を任され、"騎士"である自身にはそれ相応の責任がある。単なる友人として付き合うのは少々難しいだろう。



「こうなるとただ武を高めるために諸国を歩き回っていた時が懐かしくなってしまうな……。」



まだ30にもなっていないというのに、過去の自身を羨んでしまう。まぁいい、それも人生というものだろう。とにかく、"私"の方針としては、彼らの好感度を稼ぎ、この国に対して良く思ってもらうということだ。



(幸い、差別的な風潮も少ない。)



と、方針も決まればやるべきことも見えてくる。普段の業務を少し後回しにし、彼女たちのために少し手を打っておこう。まずこの町にはあれだけの人数を泊められる宿泊施設がない故に、外で寝泊まりしていただくことになる。流石にそのまま地べたに寝て貰うのは忍びない故に、軍の備品から天幕などを貸し出すべきだろう。



「あとは……、食事か。」



自分たちで用意できるのかもしれないが、一応こちらでも食事の用意を進めておくべきか。流石に毎食用意するには予算が足りぬゆえに不可能だが、週のうち何日か、程度であれば十分可能だ。彼女たちがやってきたおかげで町自体の食料の消費も増加するだろう、皆が飢えぬように輸送も増やすように指示しておかねば……。


商人だけでは偏りが出るからな、とそんなことを考えていた時。こちらに向かって走って来る音が聞こえる。


ッ! もしや!



「マティルデ様ッ!」


「どうした!」



「そ、それが! 先ほどのダチョウの方々が道の真ん中で泣き叫んでおります!!! 皆一様に、ごめんなさい、と!」






…………なんて???



















〇頑張ればちゃんと待てるダチョウ


基本記憶の保持が三秒以上難しい彼らであるが、特定の条件下では長時間指示を守ることが可能である。その条件は、"リーダーからの指示であること"、"複数回同じ指示を受ける事"、"視界内にリーダーがいる事"、"他のダチョウが指示を守っていること"の4点である。


リーダーの指示しか聞かない、正確には指示を出すダチョウがリーダーしかいない彼らにとって頂点である彼女の命令はほぼ無条件で聞いている。これは、これまでレイスが出して来た指示は全て群れや自身たちのもので、従えば生き残れたりごはんにあり着けたりしていたことを本能的に理解していたから。また敵のせいで痛い目にあってしまうことさえあれど、彼女のせいで痛い思いをしたことなどこれまで一度もなかったことが要因。


これも全てレイスが仲間たちを愛し、ダチョウたちも彼女のことを愛しているからだ。(まぁダチョウに愛なんて難しい概念わかんないけど。)


そんな彼女が近くにいて、同じことを繰り返して言ってくれれば彼らでも5秒くらい記憶を保持することが可能なのだ。とっても、とっても、とーっても頑張って5秒である。それ以上経過すると、『忘れないぞ! 忘れないぞ! 忘れ……、何を?』になってしまう。しかしながら他のダチョウが指示を守っていれば『あ、自分もおんなじことしとこ。』とか、天文学的確率で『思い出した!!!』になるため、なんとかいい子にして待つことが可能になる、というわけだ。


(なお、成功率はとても低く、高原では数えるのが億劫になるほど失敗している。)







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