つながる命(2)

「この胸にある、幸せと笑顔を守るため。未来を紡いで! チェンジ・ブロッサムドロップ!」


 樹くんとの幸せ、樹くんの笑顔。それが、守りたいもの。だから、この呪文はわたしの想いなんだ。

 だから、わたしの心が具現化していくのを感じるよ。やっぱり、わたしの力の根源は樹くんへの想いだから。


「このか、頑張れよ」


「もちろんだよ。待っていてね。すぐに帰ってくるから」


 樹くんに応援されて、飛び出していって、黒い怪人と対峙する。

 四天王と同じように、マントもくっつけている。もう、完全に使い回しに見えるよ。

 だけど、気を抜かないようにしないと。勝たなきゃ未来はつかめないんだから。


「ブロッサムドロップよ。よくぞ四天王共を倒した。だが、俺ひとりで四天王全てを上回る。簡単に勝てると思うな」


 問答をする気はなくて、まずはセイントサンクチュアリを溜めていく。

 敵は様子を見ていたままで、だから簡単に放つことができた。

 だけど、当たっても相手は微動だにしない。その上、こちらに反撃までしてきたんだ。


 右の拳で殴られて、強く吹き飛んでいってしまう。

 これまで感じたことがないくらいの痛みで、とてもビックリした。

 同時に、ゲドーブラックはここで絶対に倒さなきゃいけないという想いが浮かぶ。

 だって、放っておいたら樹くんまで危険になりそうだから。


 そのために、全力で敵の方へと向かっていく。リボンを構えて。

 だけど、全然通じない。何度攻撃をぶつけても、その度に反撃されていく。

 焼かれるような痛みと苦しみに耐えながら、全力でぶつかっていくんだ。


 だけど、効果はない。このままじゃ、わたしは負けて樹くんだって死んでしまう。

 その映像が思い浮かんで、だから怒りで頭が支配されていって。

 浮かび上がる感情のままに、黒いリボンをぶつけていったんだ。

 だけど、全く効果はなくて。諦める訳にはいかないけれど、手段も思いつかなくて。


 そんな時、とつぜん光に包まれて、力が湧き出てくる感覚があった。

 光から感じる暖かさが、強い安心感を与えてくれて。

 だから、この光に身を委ねたら、どんな事でもできるんじゃないかって思えたんだ。


 実際に光に身を任せると、体の中から力があふれてきた。

 そのまま、ゲドーブラックを追い詰めていく。強い幸福感と全能感に包まれて、高揚しながら。


「なぜだ! 先程まで、死に体だったというのに! おのれ、ブロッサムドロップ!」


 自分でも分からないよ。でも、絶対に勝てる。その確信があったんだ。

 セイントサンクチュアリも進化したって感じがして、実際に溜める必要すらなかった。


「これで、終わりです! ホーリーサンクチュアリ!」


 右手から、輝くリボンが放たれる。そして、ゲドーブラックは貫かれていった。


「ここまでか……俺の野望は、潰えたのだな……世界を我が手に、収めるはずだった……が……」


 ゲドーブラックが何か言っていたけれど、どうでもよくて。

 とにかく、わたしは樹くんの顔を見たくなった。そして、待ってくれている家へと向かう。

 すると、倒れている樹くんを見つけてしまう。そして、全てを理解したんだ。


 わたしの力が急に増幅したのは、樹くんが命を捧げたから。

 安心感と幸福感と全能感に包まれていたのは、樹くんの力だったから。

 さっきまで感じていた幸せは全て消え去って、凍えそうな悲しみだけがやってきたよ。


 同時に、リーベの姿が目に入る。リーベのせいって分かっているのに、怒りすら浮かんでこなかった。

 わたしの中にあるのは空白だけで、樹くんを失った実感だけだったんだ。


「リーベ、どうして……」


 恨みやつらみがあるはずなのに。どうしても言葉が出てこない。

 ただ空虚なだけで、たとえリーベを殺したとしても何にもならないんだろうな。そう思えた。


「樹は、このかだけでも生きてほしかったみたいだね」


 そんなの、なんの意味もないのに。樹くんがいてくれたから、私は喜怒哀楽を味わえたのに。

 どうしようもない無力感だけがあって、言葉を発する気もなかった。


「このか、まだ樹を取り戻す手段があると言ったら、どうする?」


 そう聞かれて、すぐに答えは決まった。わたしの命を捧げるのだとしても、それで良かったから。


「何でもする。だから、聞かせて」


「簡単なことだよ。樹とこのかで、命を共有するんだ。当然、これから先にどちらかが死ねば、相手も死ぬよ」


 なら、悩むまでもないこと。すぐに、リーベに意思を伝えたんだ。


「じゃあ、やって。それで樹くんが助かるのなら、安いものだよ」


「だったら、今からキミと樹の心をつなげる。樹の命をキミに、キミの命を樹に受け入れさせるんだ」


 失敗したらどうなるか。そんなことを聞く気はなかった。

 樹くんを取り戻せるのなら、全てを賭けるだけだから。

 そのままリーベは動き出して、樹くんの命に触れる感覚があった。言葉に出来ないけれど、とにかく命どうしが触れ合っているって分かったんだ。


 だから、わたしは樹くんとつながるために、想いを込めていく。それが正解だって、何も言われなくても分かったんだ。

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