つながる命(1)

 樹くんとの未来をつかむために、ゲドーブラックを倒したい。

 だけど、今のままでは幸せな未来がつかめないかもしれない。

 これまでの、幸福だった日々が遠く感じてしまうんだ。

 樹くんと一緒に、楽しい時間を過ごしていた瞬間が。


 全部全部、ゲドーユニオンのせい。だから、絶対に倒してみせるよ。どんな手段を使ったとしても。

 恨みと怒りを込めた力で、わたしの全てを注ぎ込んで。

 樹くんとの幸せな時間がやってくるのなら、手を汚すことにためらいなんてないよ。


 だって、わたしの全ては樹くんなんだから。他の何より優先するのは当たり前だよね。

 大好きな人のための犠牲なんて、小さなものだよね。

 ただ、大勢を巻き込んじゃうと、樹くんに嫌われるかもしれない。それだけが怖いんだ。

 わたしは、樹くんに遠ざけられることだけは耐えられない。他のどんな試練だって、怖くはないけれど。


 だって、わたしにとっては、樹くんは初恋の人で最後の恋の人。

 絶対に、樹くんより好きになる人なんて現れない。そもそも、樹くん以外を好きになったりしない。

 だから、樹くんだけが居てくれれば良いんだ。それだけで、ずっと幸せだから。


 そのために、何があってもゲドーユニオンを滅ぼさなくちゃいけない。

 だって、樹くんと過ごす時間にとって邪魔だから。

 ゲドーユニオンのせいで、樹くんは戦うことになった。傷つくことになった。

 だから、居なくなってくれた方が良いんだよ。わたし達が、穏やかに生活するために。


 ゲドーユニオンさえ居なければ、樹くんと、これまでのような日々が過ごせた。

 その恨みと怒りを全力で力に変えて、ゲドーブラックを打ち破ってみせるよ。

 樹くんを想う気持ちは無限大なんだから。どんな敵だって、倒せるはずだよ。


 わたしは、樹くんとの未来を汚したゲドーユニオンを許さない。

 その思いだけで、心がふつふつと煮えたぎってくるようだもん。

 だからきっと、とても強い力になってくれると思う。感情が、力になるっていうんだから。


 わたしが樹くんへ向ける気持ちが力になって、誰かに負けるなんてありえない。

 他の誰より樹くんが好きだし、どんな恋よりも、どんな愛よりも深い想いなんだから。

 私の人生をすべて樹くんに捧げていいって思っているし、樹くんのすべてが欲しいって思う。


 絶対に、わたしの想いがこの世で一番なんだから。

 そんな感情が力になって、誰にも負ける訳なんてないよね。


 いろいろと、最後の戦いに向けて気持ちを高めていると、樹くんがやってきた。

 腕が折れてからは、初めてで。そもそも、魔法少女だって明かしてから全然なかった機会だから。とても嬉しかった。

 つい、笑顔になっちゃうくらいには。胸が暖かくなるくらいには。

 何度でも感じることだけど、やっぱりわたしは樹くんが大好きなんだ。


「樹くん、いらっしゃい。わたしに会いにきてくれたの? 嬉しいな」


 樹くんなら、どんな時でも会いにきてほしい。それがわたしの気持ちかな。

 だって、わたしはとても幸せになれるから。樹くんがそばに居る。それだけのことで。

 これまでずっと、何度でも助けてくれた。その時間が紡いだ想いは、とてもとても強いものだから。


「そうだな。お前の顔を見たら、何か気持ちが落ち着く気がするんだ」


 そんなことを言われて、つい胸が高鳴っちゃったんだ。

 わたしは樹くんに好きって思われている。そう感じられたから。

 直接言葉にされたことは無いけれど、ほのかな好意が伝わる気がしたから。

 樹くんは、もしかしたら恋愛感情を持ってくれていないのかもしれない。

 そう疑った時もあったからこそ、余計に素敵な気持ちだと思えたんだ。


「ねえ、それって……ううん、なんでもない。いつでも、会いにきてくれていいからね」


 わたしがほのめかしてみても、樹くんはよく分かっていなさそうだった。

 つまり、ハッキリと恋愛感情を意識している訳ではないんだろうな。

 同時に、わたしに何か伝えたくての言葉じゃないともわかる。

 つまり、きっと本音として、わたしとの時間を大事に感じてくれているんだ。そう感じられたんだ。


「このかが歓迎してくれる限り、こまめに会いに来るよ」


 わたしに会いにきてくれるのなら、いつでも歓迎できるよ。それは絶対。

 もうひとつ、樹くんはわたしに会いたいって思っているはず。

 そうじゃなかったら、歓迎している程度でやってこないはずだから。つまり、きっと。

 樹くんは自覚している訳じゃないけど、わたしのことが好きなはず。それも、恋愛として。

 恋愛じゃなくても大好きだってのは、これまでの行動で分かり切っているけどね。


「ありがとう。樹くんが会いにきてくれるなら、わたしも元気をもらえるんだ」


「なら、何度でも会いにこないとな。このかが元気になってくれるのなら、生きている価値がある」


 樹くんは、やっぱり自信を失っているのかな。でも、素敵な人だって気持ちは変わらないよ。

 これまでに、何度も助けてくれた。幸せにしてくれた。これから先だって、きっと同じだから。

 そもそも、樹くんが同じ空間にいるだけで、わたしの気持ちは高まっていくんだから。

 自分を見失わないでほしいな。そうしたら、もっと素敵なんだよ。

 まあ、わたしのせいでもあるんだけどね。傷つくのを止められなかったわたしの。


「樹くんは、ただ樹くんでいるだけで価値があるんだよ。少なくとも、わたしにとってはね」


「このかだって、ただ生きているだけで、それだけで最高なんだ。忘れないでくれよ」


 樹くんの想いが言葉になったようで、じんわりと胸が暖かくなる。

 そんなセリフが出てくるってことは、間違いなくわたしを大好きでいてくれるから。

 もちろん、頭では分かっているんだけどね。証があるとぜんぜん違うよ。

 やっぱり、樹くんの感情を感じられると、とても幸せになれるよね。


「樹くんには、ずっと助けられるだけだったのにね」


「そんなことはない。このかが居ることで、俺だって元気をもらっていたんだ」


 だったら、わたしにも生きている理由がある。いや、樹くんと一緒に居るだけでも十分だけどね。

 とはいえ、違うんだ。樹くんのためになる。それがとても素晴らしいことなんだよ。

 わたしはわたしの幸せを守れてはいるよ。でも、樹くんの幸せも作りたいから。


「ありがとう。だけどね。わたしは樹くんに恩返しがしたいんだ。だから、頑張るよ」


「絶対に無事で居てくれよ。このかが居ない未来には、何の価値もないんだから」


 それは、気持ちよくなっちゃうかもしれない言葉だ。

 だって、それだけわたしが樹くんの心を侵食しているってこと。樹くんの心が、わたしで一杯だっていう証拠の言葉。

 つまり、もっと樹くんが大好きになれるんだ。今までより、わたしを幸せにしてくれるんだから。


「お互い様だね。わたしだって、樹くんの居ない未来に意味はないって思っているよ」


 樹くんが死んだのなら、わたしだって死んでもいい。というか、死にたい。死ぬよ。

 それくらいには、樹くんが私の人生なんだ。だから、絶対に死なないでほしいよ。

 わたしは、樹くんと過ごすためだけに生きているんだから。直接は、口にできないけれど。


「なら、お互いに頑張って生きないとな」


 うん。とても大事なことだよ。わたし達は、ふたりでひとつなんだよ。

 だって、樹くんがいない私には意味がない。それって、とても歪んでいて、でも同時に幸福なんだ。

 流石に、自分でもおかしいって分かっているよ。でも、これがわたしだから。


「そうだね。ふたり一緒なら、どんな未来でだって幸せなはずだから」


「ゲドーユニオンが倒されたら、ふたりでゆっくりしたいよな」


 樹くんと穏やかな日常を過ごすこと。そのためだけに戦っているんだから。

 絶対に、達成したい約束だよね。まあ、約束と言うには、願望に近すぎるけれど。

 でも、叶ったならば最高の幸福を手に入れられるよ。それは間違いないんだ。


「わたしは、樹くんに言いたいことがあるんだ。まだ、伝えられないけれど」


 大好きだって言いたい。恋してるって言いたい。愛してるって言いたい。

 わたしの気持ちは、たった一言では伝えられないよ。だから、想いの一端ではあるけれど。

 それでも、樹くんには、きっと十分に伝わるはずだよ。それだけの関係なんだから。

 だからこそ、絶対にゲドーユニオンを葬り去ってみせるよ。この想いを届けるために。


「なら、俺だって言いたいことがある。ただひとり、このかだけに」


 それって。わたしの気持ちに返してくれるってことだろうか。

 あるいは、樹くんがわたしに恋してくれているってことだろうか。

 どちらにせよ、今の流れなら。話は決まったようなものだよね。

 わたしと樹くんは両思いだってこと。それなら、もう後は勝つだけなんだ。それだけで、私はすべてを手に入れられるんだよ。


「ふふ、楽しみだね。だから、全力で頑張るね。わたしにとっては、待ち遠しい瞬間だから」


「俺だって、楽しみにしている。これから先に続くであろう未来をな」


 きっと、樹くんとは結ばれることができる。それを想像しただけで、力が湧いてくる気がしたんだ。

 わたしのしたいことは、きっと全部できるから。手をつなぐことも、キスすることも、その先も全部。

 この想いが届いているのなら、後は通じ合うだけなんだ。簡単なこと。


「そうだね。わたし達が、当たり前に手に入れられるはずだった未来を」


 ゲドーユニオンが居なければ、なんの障害もなかった未来。

 だから、いま結ばれていないもやもやを、ぜんぶ叩きつけてあげるね。

 そうすれば、樹くんと幸せに過ごせるんだから。


「だから、このか。ゲドーユニオンなんかに、苦戦しないでくれよ」


「当たり前だよ。樹くんとの未来のために、絶対に負けないんだから」


 私が誓いを固めていると、地面の揺れが伝わった。

 そして、リーベから思念が届く。ゲドーユニオンの首領、ゲドーブラックが現れたって。

 だから、最後の戦いなんだよ。樹くんと結ばれる道の、最後の障害。

 全力を尽くして、何が何でも勝ってみせるからね。待っていてね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る