目の前の希望(3)
俺と暁先生のいるホームセンターがゲドーユニオンに襲撃された。
ここから逃げようとしても、うまく行かないだろう。そうなると、どうにかして先生を守るしかない。
だが、俺に何ができる。手段なんてあるのか? ガベージにすら勝てない俺に。
それでも、希望は消えていないようだった。ブロッサムドロップが現れたからだ。
嫌になるな。このかを助けると言っておきながら、結局は頼るだけか。
だが、先生の安全はプライドなんかに代えて良いものじゃない。どれほど悔しくとも、耐えるしかないんだ。
ガベージはブロッサムドロップのもとに向かっていき、リボンで倒されていく。
やはり、ゲドーユニオンにとっての最大の脅威は、ブロッサムドロップなのだろう。
そうなると、敵も本腰を入れてくるかもしれない。俺にできることはないのか。なにか、なんでも良い。
だが、今の俺の手元には何もない。酸素ボンベを持っているが、これを攻撃に使ったらおしまいだ。
先生の身を守るためにも、絶対に取れない手段だよな。そうなると、手詰まりかもしれない。
このままでは、ブロッサムドロップが敵を打ち破るのを待つしかできない。正直、叫び出したいくらいだ。
そんな事をすれば、先生にも危険が及ぶだろうから、あり得ない行動ではあるが。
俺が悩んでいる間に、また幹部らしき敵が現れたようだ。
青い格好をした、今回もマントを着ている怪人。なにか、衣装に統一感があるな。やはり、組織だということだろうか。
「レッドの野郎がやられちまったから来てみれば、大した事なさそうだな。やっぱレッドは四天王最弱だな」
いい情報が手に入った。つまり、四天王という階級がある。そして、おそらく幹部のものだ。
つまり、今の敵を含めて残り三体が厄介な敵なのだろう。最低限、道筋が見えたな。
「あなたがどれほど強かろうと、正義の名のもとに、このブロッサムドロップがあなたを打ち破ります!」
声に力が入っているし、真剣ではあるのだろうが。正義の名のもとにってセリフはこのかには似合っていない。
そもそも、戦いなんて向いている人じゃないんだ。なのに、俺は頼るしかない。
どうにかして、俺が代わってやれたのなら。何度でも考えているが、また思うことだ。
「このゲドーブルー様が、ここでお前を終わりにしてやるよ! ブロッサムドロップ!」
ゲドーブルーは、体に水をまとってから、それをブロッサムドロップに放っていく。
ブロッサムドロップは避けながらリボンを発射するが、水に防がれる。
やはり、四天王は相応に強い。ガベージとは大違いだ。
何度か攻防を繰り返し、ブロッサムドロップは右手にリボンを集めようとする。大技の準備だ。確か、セイントサンクチュアリと言ったか。
だが、ゲドーブルーは水を放つことでチャージさせない。水を避けていては、大技は撃てないようだ。
そして、大技を放とうとするブロッサムドロップと、その邪魔をするゲドーブルーという構図が生まれた。
ブロッサムドロップはただのリボンではゲドーブルーを倒せず、相手はセイントサンクチュアリの危険性を感じている。
つまりは、大技を当てれば決着がつくと、どちらも認識しているのだろう。
そうなれば、後の戦いの軸は決まった。
俺の予想通り、ブロッサムドロップは相手のスキを生み出すための攻撃に移っている。
そして、ゲドーブルーは素早く攻撃を連発してチャージを妨害する。
問題になったのは、ゲドーブルーの技の連発で、こちらまで攻撃が飛んできそうになることだ。実際、水が当たって、いくつか棚が倒れている。先生に当たってしまったら。
もちろん、ブロッサムドロップの苦戦だって大きな問題ではある。今のところは、お互いノーダメージとはいえ。
できることならば、状況を改善したい。そう考えて、手元の酸素ボンベを捨てようとする。
いや、これなら使えるんじゃないか? あるアイデアが浮かんだ。博打ではある。だが、そもそも賭けずして何もできないのが俺だろう。なら、やるしかない。
俺はハンカチで酸素ボンベを覆い、酸素だという表示を隠す。そして、ゲドーブルーの前に躍り出た。
敵の表情は見えない。だが、バカにしたような雰囲気を感じる。首をすくめている姿からも。
「おいおい。ただの人間が、俺の邪魔をしようってか? 身の程ってのは大事だぜ?」
「なら、俺に攻撃してみろよ。この液体窒素を受けても、水を動かせる自信があるのならな」
完全にハッタリだ。通じなければ、俺は倒されるだろう。あるいは死ぬかもしれない。
だが、ゲドーブルーを放置していれば、先生もこのかも危険だ。何が何でも、スキを作り出したい。
頼むぞ、ブロッサムドロップ。俺に敵が注目している間に。
「液体窒素? そんなものを用意するとはな。だが、どうやって」
「俺は理科の実験が大好きでね。せっかくだから、いろいろと凍らせてみたいじゃないか」
そもそも、ホームセンターに液体窒素が売っているかは怪しい。そこに気付かれたら終わりだ。完全に、分の悪い賭けでしかない。
だとしても、先生もこのかも、俺も生き延びるための博打なんだ。頼む、通ってくれ。
必死で自信満々な顔を取り繕っているが、正直に言って怖い。気付かれる前に、どうにかブロッサムドロップがチャージを終えてくれれば。
「なら、その缶に当てなければいいだけの話だ! お前は終わり――」
「終わりなのはそちらです! セイントサンクチュアリ!」
こちらに敵が集中している間に、準備が終わったみたいだ。
ブロッサムドロップの右手から、リボンの雨が降り注いでいく。そして、ゲドーブルーは倒れていった。
「ちくしょう! つまらない相手に気を取られなければ……」
そのまま、ゲドーブルーは消え去っていく。つまり、ブロッサムドロップの勝ちだ。
結局のところ、俺に何かできたのかは怪しい。ブロッサムドロップ一人でも、倒せたのかもしれない。
それでも、みんなが無事でいるのなら十分だ。それに、ゲドーユニオンと戦うための道筋が見えた気がする。
「あなたのおかげで、セイントサンクチュアリを放てました。ありがとうございます。ですが、ゲドーユニオンは人に勝てる存在じゃない。再度、奇跡があるとは思わないでください」
このかは厳しい言葉を投げかけてくる。俺を心配しているのは分かっていても、拳を握りたくなる。
だが、可能性はあるって思える。ゲドーレッドも、ゲドーブルーも、分かりやすい弱点がある。
ならば、これから先の四天王だって、どうにかできるかもしれない。俺の策しだいでは。そう思えた。
ブロッサムドロップは、リーベを抱えて去っていった。今回は、リーベは特に話さなかったな。
まあ、用件がないのに俺に話しかけても、関係性を疑われるだけか。そもそも、リーベが話すと知られたくないかもしれない。
何でも良い。とにかく、今回は俺達の勝ち。それで良い。
ようやく、ゲドーユニオンに対抗するための道筋が見えた。それだけで、今回の戦いの価値としては十分だよな。
次から出てくるであろう四天王。そいつらを相手にしても、このかを支えられる。その可能性は十分だ。
よし、やるぞ。やってやる。このかに戦わせるしかないのは、もうどうしようもない。
それでも、少しでも楽をさせてやる。それが俺の役割だ。
どんな敵が現れたとしても、必ずどうにかしてみせる。
このかは、俺では難しいだろうと考えているようだ。
だが、絶対に力になってみせる。そうしなければ、生きている意味がないのだから。
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