③L30


Limit 30


人体のおよそ8%を占める血液。

致死量は全血液量に対して30%といわれている。

Limit30は体内の異常により10%の血液が消滅し、残りの致死量に至る量の血液は体外に無意識に放出されて死に至る。穴という穴から流れるように失う人間もいれば、たった1箇所から流れ出て命を失う者もいる。治療法はないが、専用の薬を服用することにより血液量を保ち、体外に放出する働きを鈍らせることで進行を抑えることを実現化した我が大学医学部limit30研究室。しかしこれは"治癒"を保証するものではない。

治療をしない場合、発症から30日で死に至り、血液の30%を失うことが死因の原因であるためLimit 30と言われている。(※以降 L30表記。)


現代社会で最も残酷な疫病として取り扱われ、治癒は見込めない現在、罪のない人々の命が失われています。


医学の発展のために、命を守るために、そしてなによりもあなたのために、どうぞご協力のほど、よろしくお願いいたします。


創ラベスシア大学 医学部 L30 研究室



ポストに投函されて胡散臭い大学の医学部からの冊子から自分の病の詳細を再確認する。

姉は、この薬を服用することで頭がおかしくなった。


容姿端麗で、、、優しく賢かった姉は、もういない。


この冊子の最後にはポスト投函用の返送ハガキがついていて、おおまかに纏めるとL30の研究に協力して欲しいという内容だった。20ページほどに纏められた中身は、医学部のこれまでの実績や功績と治療法が見つかることで世界人類に明るい未来が手に入るという謳い文句が書かれていた。


女1人のためだけに書かれた文章は何一つなかった。コピーされた文字、よく見る文章の流れ、笑顔の医師たちの写真と患者モデルのにこやかに笑う写真。


今、1番、くだらないと感じるものだ。


キーン


耳鳴りが響く。ベッドの上で深く沈む体、痛みもない、ご飯も食べれる、何も異常なんてない。

でも、もうすぐ、、、、。


思わず母と父の顔が鮮明に浮かんだ。

そして兄と姉。


いい人生だっただろうか。

そんなことはないがそれなりに、一生懸命は生きたと思う。未練もない。苦しい日々を味合わなくていいのであれば、現実を見なくていいのであれば、いっそ、暗闇の中に体を沈めるのも一つの喜びかもしれない。


心中した父と母に、会えるかもしれない。

これも幸せなのかもしれない。


"つまらんのぉー"


...?


女はベッドから体を起こし、部屋を見渡した。

隣の部屋?壁を見つめたその時、


「お前、ほんまにつまらんのぉ!!」


壁から目玉が二つ飛び出てきて、いくつものイボができた大きな2つの穴を広げた鼻が、女の顔にくっついた。


恐怖のあまり、女は硬直して動けない。


「ひゃひゃひゃ、そやそや、その顔、そういう顔が見たかってん。もっと早くワシが出てきたらよかったか?」


声が、出ない。

壁から這い出てきたそれは一度引っ込んで姿を消したかと思うと部屋全体に振動を与えながら至る所を移動して静かになった。


何もない、誰もいない、女しかいない部屋。


「ここにおるで。」


右の耳元で囁かれ、振り返ると右肩にギョロ目がぎらついて大きな口と抜け落ちそうな歯とイボだらけの鼻が視界に入った。


ぎぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!


女は思いっきり叫んだが、声は出ていない。


「おぉおぉ!もっと叫べ叫べ!うろたえろ!」


声が出ていないのに、その不気味な値の知れない生物は女の恐怖に対して歓喜した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る