第19話 夜遊び
「おお。確かにでっかい町だな。いろいろ楽しめそうだぞ、スズラン」
「姫路‥‥‥無駄使い禁止!」
「堅い事言うなって。
お前、人生の楽しみ方知らなすぎだし、いろいろ教えてやんよ」
姫路とスズランは、モルモルの意見に従って、ザラデンヌまでやってきた。
「おーい、ジルベルリ。今度は、勇者と間違えられんの嫌だかんなー。
お前先に行って根回しして来い!」
「あー、お兄ちゃん。ついでに何人分か、精気も集めてきて。
後で私がお兄ちゃんから吸うから……」
「……」
僕、いつの間に姫路と妹のパシリになったんだろう……。
◇◇◇
半日ほどして、ジルベルリが戻ってきた。
警察当局に、これから町に入る姫路は、人間ではあるが魔王に指名手配された逃亡勇者ではなく、その捜索に当たる自分たちの協力者であると説明し、責任者のお墨付きをもらってきた。
「おー、やるときゃやるじゃねえか」姫路はご満悦だ。
「お兄ちゃん! 精気は?」
「あー、ごめん。あんまり美味しそうなのいなくって……」
「うっきー! もうお腹ペコペコなのよ!
そんじゃ、お兄ちゃん。先払いだかんね!」
そう言いながらモルモルが、ジルベルリの襟首をひっつかんで、近くにあった農具置き場の後ろに引っ込んでいった。
「あー、スズラン……子供はそっち行っちゃだめだ!」
姫路はスズランの手をしっかり握った。
二人は程なく戻ってきたが、ジルベルリは見るも無残に枯れはてていた。
その後、四人は宿を取り、そこに腰を落ち着けた。
夕食の後、作戦会議だ。
「おい、ジルベルリ。警察行ったんなら、ヤミーの事も聞いて来たよな?」
「あ、はい! ここ最近、特に勇者や人間の情報は無いそうです。
そして数日前に、エルフの逃亡勇者捜索隊が来てたらしいんですが、御領主様が、ザラデンヌ内の捜索は、自分が責任を持つと言って追い返したとか。
まあ、御領主のザザビー様は、有名なエルフ嫌いですからね」
「そっか。見かけてないか。でも、勇者が近くに来たらモルモルが分かるんだろ?
せっかくこんな町に来たんだし、少しゆっくりしようや」
「あのー。姫路様。僕、外に食事に行っていいですか?
そろそろ精気をどっかで吸わないと、ちょっと指先が消えかけてますんで……」
「ははは……好きにしな。でも騒ぎ起こすんじゃねえぞ!」
「はい! それはもちろん……」
そう言いながらジルベルリは、夜の町に出て行った。
「あの……姫路姉様。
せっかくですから、私たちも夜の町に繰り出しませんか?」
「モルモル。お前なんか面白いところ知ってるか?
でも、あたいは酒はダメだぞ。
それにスズランもいるから、R-18も禁止な!」
「はい。私もそれほどこの町に詳しい訳ではありませんが、確か常設で曲芸団の見世物小屋があったかと……」
「サーカスか? そいつはいいや。行ってみようぜ」
◇◇◇
「すごい。すごい!」
スズランがめちゃくちゃはしゃいでいる姿を見て、姫路もなんだかうれしい。
サーカスの出し物は、姫路からしたら、まあそんなに大したものではなかったが、この子、こういう経験、今までなかったんだろうしな……。
モルモルは退屈そうにしながらも、しっかりと姫路の左手を握っている。
このわずかな接触でも多少精気は吸えるらしく、ここまでは許してやっている。
サーカスのショーを終え、すっかり興奮気味のスズランを伴って歩きながら、宿に戻ろうかという途中の事だった。
「うわーーー。姫路様―! 助けて下さいー!」
大声でそう言いながら、ジルベルリが走り寄ってきた。
「えっ、お兄ちゃん? どうしたの?」モルモルが心配そうに様子を伺う。
「なんだよ、お前。騒ぎ起こすなっていっただろうが……何やらかしたんだ?」
「いえ、姫路様。それが……」
「おい、そこのインキュバス! おとなしくお縄を頂戴しろ!」
なんと、ジルベルリは警官に追われていた。
「おいおい、お巡りさんよ。こいつが何をしたって言うんだい?
こいつは魔王様の命で逃亡勇者を追っている役人? 見たいなもんだ。
何かの間違いだったら、この姫路さんが黙っちゃいないよ!」
「間違いだと! ふざけるな。この男は、よりにもよって、御領主様の御息女、
メルリア様から精気を吸おうとしたんだぞ!」
「へっ? まじかよ……」
姫路が不信感満載な目つきでジルベルリの顔を見た。
「いや、あっ。姫路様。違うんです……誘ってきたのはあっちのほうで……」
「ふーん……って言ってるけど……そのお嬢様のお話は聞いたのかい?」
「いや……だが、しかし。どんな理由があるにせよ、ご息女と関係した時点で有罪だろ!」
「そんなはずないでしょ。いくらお兄ちゃんがボンクラでも、予め身分や格の違いは分かります! お嬢様が了解なさらなければ、精気を吸ったりはしません!」
「おお、わが妹よ……僕は、あの方のエッチしたいというお気持ちを汲んで……」
「ふざけるな! だからといって、ご息女とエッチしていいという事にはならん!」警官も引くわけにはいかない。
「ええい、埒が明かねえ。そのお嬢様もここに呼んで来い!
ちゃんと二人の話を聞いた方が公正だろ!
もし、本当に自由恋愛だったらどうすんだー、マッポさんよ!」
「あ、いや。そんなまさか……」
警官も姫路の迫力に気おされたのか、今一度、事実関係を確認することに同意した。
「こっちは、逃げも隠れもしねえ。あそこの宿にいるからいつでも来な」
そう言って、姫路たちは、ジルベルリを伴って宿に帰っていった。
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