第18話 いきさつ

 トカゲやネズミではない、久々にまともな食事でお腹いっぱいになり部屋に戻ったところで、マジが語り始めた。


「この国に魔王キングが現れたのは三百年ほど前の事です。

 当時は私もまだ子供で、あまり詳細な事は覚えていませんが……それまでこの国は、魔族、エルフ、獣人、ドワーフなどが混在する混合種族国家でした。

 このザラデンヌの主、ザザビー卿の様な有力者が大小立ち並び、まあ、あちこちで小競り合いこそありましたが、おおむね平和に暮らしていたのです。

 しかし、奴が突然どこからともなく現れ、あっという間に、それらの有力者を打ち破り、次々に配下にしていったのです。そして最後まで抵抗していた、ここザラデンヌも二百年程前にキングに臣従し、そして、エルフは一か所に集められました」


「そんな……他の悪魔さん達は、キングに勝てなかったの?」

「ええ。あいつは不死身なのです。

 有力者たちのあらゆる魔法攻撃が通用しませんでした。

 ですがいにしえの経典に、グールには人間の処女の聖なるエネルギがーが有効という記載があり、エルフ達は最後の望みを託して、人間の処女を召喚し、キングにぶつけているのです。しかし、いままで有効打が出た事はなく……」


「ちょっと待ってよマジ。

 それじゃ、勇者はやっぱり、キングを倒す為のもの……。

 それが、なんでお中元お歳暮みたいな生贄状態になってんのよ?」


「いままで召喚されたほとんどの処女が力不足なのです。それで勇者の味を覚えたキングが、エルフを囲い込んで今のシステムを構築しました。

 ですが碧。あなたは、私が見てきた中でも一番、群を抜いて処女の魔力が強いのです。ですから、あなたなら……あなたの一撃が当たれば、キングを屠れるのではと思ったのです」


 処女の魔力が強いって……あたしは一体何なんだ?

 まあ、それは置いておいて……。


「それなら、最初からそう言ってくれればよかったのに。

 もっとちゃんと的に当てる練習も出来たでしょ?」

「いえ。それを最初に告げても、最後まで正気でいられた勇者は過去おりませんでした。これはと思った方も、キングの前に立った時点で足がすくんでしまって。

 なので、大変卑怯なのですが、あんな形に……」


 そうか。それもそうかもしれない。

 でも私は、もうあいつを見てるし、そして逃げてきちゃったけど、自分の魔力の強さも実感している。

 確かに、あいつを倒すのは勇者ヤミーの役目なのかも知れない。

 今は力不足でも、マジとなら……。


「わかったよ、マジ。私、勇者の自覚が少し持てそう。これからも助けてね。

 ……で、あなたここの出身だって言ってたけど、ザザビー卿? 

 その人がエルフ嫌いだって、どういう事?」


「それは……。

 キングに最後まで抵抗していたのが、さっきお話した通り、ザザビー卿です。

 彼は、その勇者伝説を信じ、エルフと協力して勇者を召喚しようとしました。

 ですが……エルフ側が寝返ったのです。それでザザビー卿は、なすすべなくキングに降伏し、その証として、ザラデンヌの外堀は埋められ、城壁は取り払われたのです。

 それ以降、卿はエルフを全く信用せず、その後私と家族も含め、この町のエルフは全員エルフ王城内に強制送還されたのです」


「はー。そんな事が……でも、それならさ。

 勇者の私がザザビーさんのところに行ったら、力貸してくれたりして……」

「それは……ないと思います。もし失敗したら、今度こそ、町中の人達がキングの腹に入りますので……ですから逆に、逃亡勇者だと分かったら、捕らえられ、ご機嫌取りで魔王城に直送されるかも知れません」

「あははーーー。危険すぎるバクチだわ」


「ですから、ここにも長居はしません。

 鋭気を養ったら、速やかに、東の反魔王組織を探しに行きましょう」

「そうだね。わかった……」


 そしてその夜。

 マジの事情を聴かされた碧は、今まで以上にマジの事が好きになったような気がして、久しぶりのベッドで、今まで以上にマジを堪能した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る