第20話 領主

 ジルベルリによると、欲求不満が溜まっている人の念を拾いながら、ヘロヘロとザラデンヌ上空を飛んでいて、たまたますごく強力な念を見つけ、近づいたら領主邸だったとの事。


 これはまずかろうと引き上げようとしたら、いきなり念動力で捕らえられたらしい。


 その欲求不満の主がメルリアお嬢様で、彼女の部屋に引っ張りこまれて、さんざん口説かれた様だ。

 向こうも相手がインキュバスだと知り、あと腐れが無いと思ったのだろう。

 さんざんエッチしていたら、いきなり御領主様が部屋に入って来て……。


 まあ、命からがらというのはこういう事だと、ジルベルリは身に染みたらしい。


「はは……そりゃ災難だったな……」気の毒そうに姫路が言う。

「まったく。お兄ちゃんは……。

 でも、その顔色だと、お嬢様にかなり精気もらえた様だね」

「ああ。本人は欲求不満で発狂寸前とか言ってた……。

 いいとこのお嬢様ってのも大変なのな」


 宿の部屋で、そんな話をしていたら、トントンとドアがノックされた。


「ジルベルリ君の部屋はここでいいかね?」

 そう言いながら、かなり大柄の紳士が部屋に入ってきた。


「えっ! 御領主様!」

 そう言ってジルベルリが腰を抜かしてひっくり返り、壁際に後ずさる。


「ああ、そう慌てなくてもよい。

 今回の事は、どうやらこちら側に非がありそうで、それを詫びに来た」

「そんな。それを言う為にわざわざ、ご領主様が自らいらっしゃるなんて……」

「いや詫びもあるんだが……少し、話をいいかね?」

「はい?」


 部屋の椅子に腰を下ろし、ザラデンヌの領主ザザビーが語りだした。

「君たちが先に警察に届けていてくれたので、身元確認の手間が省けてよかった。

 君たちは逃亡勇者を追っているんだろ?

 それで……魔王様に嫌われた人間というのは君かね?」


 ザザビーが姫路の顔を見ると、姫路がメンチ切りながら答えた。

「ああ、そうだよ。それがどうした……」


「いや……確かにすごい魔力だな……すまない。何でもない。

 私も立場上、魔王様に協力せねばならんのだが、先日、よりにもよってエルフの捜索隊が街に来たもので、つい勢いで追い返してしまったのだよ。

 しかし、こちらとしては現時点で何も有力な情報を持っていなくてね。

 よければ、君たちの持っている情報を教えてくれないか? 

 ああ、もちろんタダでとは言わん」


「おお! やったなスズラン! もっとうまいものが食えそうだぞ!」

「ちょっと、姫路さん。そんな勝手に……とはいえ、御領主様と良好な協力関係が築けるのは、こちらとしても有難いです。

 へたに拒んであとで魔王様に叱られても困りますし……」

 そう言いながらジルベルリは、逃亡勇者が、反魔王組織を頼って、東の国境付近の森を目指しているのではないかという推測を、ザザビーに語った。


「なるほど。いかにもありそうな事だ。

 まあ、ザラデンヌ内であれば私が眼を光らせる事も出来るが、捜索に協力しようにも、街の外となると……そうだな。それじゃメルリアを君たちに同行させよう!」


 それを聞いたモルモルが大声を上げた。

「はあっ? メルリアって例のお嬢様ですよね。

 お兄ちゃんはさっき、そのお嬢様との淫行の罪で逮捕されそうになったんだけど!」


「ああ、その件は返す返すもすまなかった。

 あいつもいい歳なのだから、さっさと、どこへとなり嫁にでも行けばいいのに、全く親のいう事は聞かんくせに、そうした快楽事が大好きで……。

 だが、インキュバスなら、病気や妊娠の心配もないし……。

 どうだろう。しばらく一緒に行動して面倒見てやってはくれんか?」


「はわわー……親公認のセフレかよ。やっぱこの世界おかしいわ……」

 呆れる姫路に、スズランが尋ねる。

「せふれって何?」

「あっ、いやー……。

 お嬢様は、ジルベルリと仲良くしながら、あたいらと旅をしたいんだってさ」

「ふーん」


 そもそも、貴族の御領主様の申し出に対して拒否権はなく、不承不承ながらモルモルも、メルリアの同行を認めざるを得なかった。

 また貴族の御領主様がスポンサーに付いた事で、今後何かと便利にもなりそうで、姫路は内心ほくそ笑んだ。


 二日後、二頭立ての馬車と共に、冒険者ルックのメルリア嬢が、姫路たちの宿を訪れた。


「さー、皆様! 勇者探し、張り切って参りますわよ! 

 それで、ジルベルリ様。是非、日に四度はお願い致しましたわよ!」


 なんだなんだ……とんだはっちゃけお嬢様だな……でも、元気は良さそうだし、退屈はしなさそうだ。


 姫路は、この旅がますます楽しくなって来た様に感じていた。



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