第16話 協力

「ほー。そんじゃ、あんたらは、人違いであたいの処女を奪おうとしたってこった……」

「は、はい……申し訳ございませんでした‥‥‥」


 宿の一室で、姫路の前にジルベルリとモルモルが正座させられている。


 モルモルの帰りが余りに遅いので、もしや返り討ちにあったかと心配になったジルベルリが姫路の部屋に踏み込んだ所、すっかり姫路の虜になってしまったモルモルが、甲斐甲斐しく姫路の身の廻りの世話を焼いている光景を目の当たりにした。

 

 当然、ジルベルリも姫路に首根っこを押さえられ、ここで事情聴取を受けている訳だ。


「ったく。勇者ヤミーと間違えられるのはこれで二度目だぜ……なあ、スズラン」

 スズランもきまりが悪そうに、下を向いた。


「で、なんで処女なんだ? 魔王が勇者を喰いたいってんなら、とっ捕まえて喰えばいいだけだろ?」ジルベルリを睨みながら姫路が問う。


「それは私にも……ただ、非処女になったら自分が喰うからと、魔王様が……」

「分かんねーな。魔王は処女を喰いたかったんじゃないのかい?」


「あの、お姉さま」モルモルが口を挟む。

「私の擬態した男根を蒸発させたあの力……あれは、多分、聖なる処女の力です。

 あれは、少量であれば程よいスパイスになりますが、余り多すぎると毒になるのかと……特に、魔族にとっては……」


「ったく。あんまり処女処女言うな! しかも、あまっさえ毒かよ! 

 でもまあ、推測としてはありか。

 多分、あたいが喰われなかったのも処女と関係ありそうだしな。くそっ」


「姫路、こいつらどうする?」スズランが尋ねる。

「あの、お姉さま! 是非私をお側において下さい! 

 あの……夕べの快感が、頭に焼き付いて離れません!」モルモルが懇願する。


「あー。でも、ああいうのは……こっちの世界ではあんまり……」

「姫路。こいつ、人間の居場所突き止めた。ヤミー探すのに役立たない?」

「あー、そっか!」スズランの意見に、姫路も賛同した。

 

「あんた、モルモルだっけ? 

 あんまりネコの相手するつもりは無いんだが、そばにいる分には問題ない。

 あんたのその勇者を探せる力を借りたいんだ。

 あたしらも勇者ヤミーに会わなきゃならないんでね」

「あっ、はい。よろこんでお供させていただきます!」


「おい、モルモル。お前勝手に……僕はどうするんだよ?」

「お兄ちゃんは勝手について来れば? 

 姫路姉さまもヤミー探すみたいだし、目的はいっしょじゃん。

 でも……姉さまに手を出したら、私がお兄ちゃん吸い尽くすかんね!

 お姉さま。いいですよね?」

「ああ、面倒だ。好きにしな。ただし! あたいやスズランに手を出してみろ。

 二度と人に擬態出来ない位、顔と形変えてやんからな!」

「は……はいっ!」


 こうして、姫路、スズランとジルベルリ、モルモルの協力関係が成立したのだった。


 ◇◇◇


 そして数日後。例の巡査が、姫路達に情報を持って来た。


 何でも、北の山脈近くの集落で、魔王様の捜査官を騙る事件があり、その被疑者がエルフと猫型獣人だったとの事だった。


「お兄ちゃん! これ、めちゃくちゃ怪しいよね!」

「そうだな……ちょっと魔王城に行って、もっと詳しい事聞いてくるよ」

 モルモルにそう言われて、ジルベルリは、詳細を確認するため、魔王城に一旦飛び戻った。


 そして二日後、戻ってきたジルベルリが言った。


「あいつら、反魔王組織の事を探っていた様だよ。

 でも、そんなの五十年前ならいざ知らず……いまさら。

 まあ、聞いた話だと、北の山脈には、長耳族ってのがドラゴンを盾にして立てこもっているらしいんだけど、すごく排他的なんで、勇者ヤミーがそこに潜伏するのは無理じゃないかって……」


「なる。反魔王組織ねー。狙いとしては悪くないんじゃね? 

 その北のやつはダメだとして、他にどんなのがいるんだい?」

 姫路がジルベルリに問う。


「そう言うと思って、それも聞いてきました。

 基本的に今はそんな組織はないそうです。

 みんな魔王様や配下が滅ぼしちゃったんで。

 で、最後に滅んだのが、東の国境近くの森に立てこもっていた奴だそうです」


「て事は、ダメ元でも、そこに行ってみるのはありか……」

「そんな滅んじゃったところに行くかなー? 

 でも、藁にもすがってって所か……。

 ねえ、お兄ちゃん。

 もし、北の山脈あたりから東の国境付近に行くとしたら、あそこ通るよね?」

「あそこ? なんだいそりゃ」モルモルの話に姫路が質問した。


「ああ。途中に大きな町があるんです。

 魔王城って、城下に町を設けず、地方に分散させているんですよね。

 足元にたくさん住民がいると、食べたくなっちゃうそうで……。

 そうした町の中で、国一番に大きい都市、ザラデンヌ。

 魔王様の腹心No.1のザザビー卿が収めている町です」

 ジルベルリがそう説明した。


「ほう。そのザザビーってのもグールなのか?」

「いいえ、上級悪魔です。人は喰いません。

 むしろ魔王キング様が、君主としては異例でして……まあ、それはいいや。

 そんな訳で、人も物もザラデンヌに集まってます。

 反魔王組織とかよりも、逃げている罪人なんかが逃げ込みやすい大都市ではありますね」


「なるほど。勇者ヤミーが入り込む隙が大ありってか。

 そんじゃ、そこ行って、勇者の手掛かり探してみようか……。

 というより、こんな田舎集落より、そっちの方がよっぽど面白そうじゃん!

 な、スズラン」

「町とか……行った事ない」

「じゃ、決まりだな。雇用主!」


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