第13話 ドラゴン

 数日して、碧とマジは集落の巡査が教えてくれた山の麓近くに着いた。


「いやあ、碧。本当に猫姿が板につきましたね。それはそれで可愛いですよ。

 今夜はその衣装のまま、添い寝して下さい」

「へ、変態……着衣プレイだなんて……」

「まあ、それはそれとして……今夜はどこで夜を明かしたものか」


 そう言いながら二人は、けもの道のような細い部分に沿って、山中に踏み入っていった。


 しばらく進むと、何か異様な感じがした。

 それまで聞こえていた鳥のさえずりや木の枝がこすれる音もしなくなった。

 そしてなにか低いうなり声の様なものが聞こえる。


 グォルルルルル……


「マジ……あれって……」

「ええ。ドラゴンですね……」

「に、逃げよう!」

「あっ、慌てて動いてはダメです。

 気づかれて追われたら、どんなに走っても逃げ切れません。

 ゆっくり、ゆっくり……そう……」


 二人は、来た道を慎重に後戻りしていった。


 その時だった。


「いやー!!!!! 助けてーーーーー!!!!!」


「何だ? 誰かすでにドラゴンに見つかっているのか!」

「マジ……どうしよう……」

「……何処の誰かは分からないが……不運な事だ……」

 そう言って、マジはその場を立ち去ろうとする。


「だめよマジ! 子供の声じゃん!」

「そうは言っても、ヘタに出て行ったら、せっかく魔王から逃れたのに、結局ドラゴンの腹の中という事に……」


「ねえ。私の処女魔法。ドラゴンにも効かないかな? 

 キングにもそれなりに効いたし……うまく逃げる隙位作れないかな?」

「うーん……そうですね。やってみましょう……。

 どうやら、もう我々の存在も気づかれてしまった様ですし……」

「それじゃ!」

 碧とマジは、声のした方角に走っていった。


 百mほど斜面を駆け上がると、周りが見渡せる高台に出た。


 そしてその足元がちょっとした盆地の様にくぼんでいて、その中に巨大な、翼のあるトカゲが居た。あれがドラゴン……魔王より数倍でかいじゃん。

 確かにあれだと、私なんか一飲みだわ……。


 よく見ると、そのドラゴンのすぐ目の前に、小さな子供が倒れているのが見える。声を上げたのはあの子だろう。


 くそー、私、一応勇者だし……。

 碧は歯を食いしばって、持っていたロッドを高く掲げた。


「碧! 作法は不要だ。

 とにかく思いのたけを振り絞って、奴めがけて振り切れ!」

「了解! マジ! 

 うぉぉぉぉぉぉぉお! そいやーーーーー!」

 碧が大上段に思い切りロッドを振ると、大きな光球が一直線にドラゴンめがけて飛んで行った。


 ドゴーーーーーーン!!


 ものすごい音がして、その光球がドラゴンの右半身にあたり、右腕と右翼を吹き飛ばした。

 

 フギャァ――――――――!!

 ものすごい悲鳴をあげ、ドラゴンがその場に倒れた。

 その隙に、マジが下に降り、子供を抱え上げる。


「やったー! 魔王の時より的が大きかったんで当たったよぉ!」

「碧! ぼぉっとしていてはダメだ。二発目だ。すぐに撃て! 

 出来れば顔に当てろ!」

「あっ、はい!」

 今度は、もう少し落ち着いて……えいっ! 

 最初より大分貧弱ではあったが、光球がちゃんと狙った顔面に命中した。


 グワァーーーーーーー!


「よし、眼をつぶした。今のうちに逃げるぞ!」

「えー。このままやっつけちゃわないのー?」

「馬鹿を言え。今の碧では、これが精一杯だ。とどめまではさせん!」

 

 そうしてマジは子供を抱えながら、碧と共に、走って山を下りた。


 ◇◇◇


「はあはあ……ここまでくれば大丈夫でしょう。

 あの傷だ。そんなに深追いはして来ないはず……」

「あはー。マジ……ドラゴン、すごかったね。

 でもさー、私の魔法もすごくなかった?」

「そうですね……あれが、あの時魔王に直撃していれば……」

「えっ? そうなの?」


「いや、その話はいずれまた……それより、おい子供! 大丈夫か?」

 マジが抱えて逃げてきたのは、多分五~六歳位の女の子だ。

 どうやら気を失ってしまったらしい。

 

 でも……それにしても……いやー。この子、すっごく可愛い……。

 これって、ウサギの獣人だよね。耳がウサギだし……しかもこの衣装何?

 スク水見たいの着てて、まるでバニーガールじゃん!

 碧がうっとり見とれている間、マジがあちこち触って……いや気付けして、しばらくしたら眼を覚ました。


「ああ、よかった。どこか痛くはないか?」

「…………」

「恐れる事はない。お前をドラゴンから助けたのは、この勇者様だ!」

 マジはそう言いながら碧を指さした。


「……ゆうしゃ?」

「馬鹿マジ! 勇者っていったらバレちゃうでしょ!」

「あっ! いやその……お嬢ちゃん。この人は勇者を気取った猫姉さんで……」

「……ふっ……ふわぁーーーん!」

 ウサギっ子が突然泣き出した。


「ああ。大丈夫か?」どうやらマジも小さな子の扱いは苦手な様だ。


 碧がウサギっ子をそっと抱きしめて頭を撫でてやる。

「もう怖くない。怖くない……あなた、お名前は何ていうの?」

「……ミュー。長耳村のミュー……」

「ミューちゃんか。ドラゴンはもうお姉ちゃんが追っ払ったから……。

 お家まで連れて行ってあげるね」

 ミューは、ようやく落ち着きを取り戻した様だった。


「うまいものですね、碧。子供の扱い……」

「へへ。将来は幼稚園の先生になろうかと思ってんだ……」


 ◇◇◇

 

 碧が、おんぶしたミューに道案内されながら、また山中を登っていく。


「ねえマジ。ドラゴン、また出会ったりしないよね……」

「まあ、あれだけ深手を負わせましたので、今頃は巣に戻っているでしょう。

 ですが、ドラゴンは頭がいい。

 碧にやられた事は絶対忘れませんので、今度出会ったらどうなる事やら」

「えー! 脅かさないでよ!」

「いえ、本当の話で……。

 ですから。次回会った時は、一撃で仕留められるようになっていないと……」

「ふえぇ…………とりあえず……お腹すいたよー」



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