第12話 身分詐称

 みどりとマジラニカントが、西の森から大きく魔王城を迂回しつつ北の山脈を目指して、ひと月ほどが経過した。


 目指す山脈地帯には、あと少しという所なのだが、肝心の反魔王勢力の情報が全く入手出来ない。それというのも、それなりに大きい集落だと、すでに手配書が届いている様で、人間だと分かった時点でお縄になる可能性が高く、迂闊に人のいる所に近づけないのだ。


 それに、このあたりには土着のエルフも全くおらず、マジも目立ってしまう。

 そもそも、エルフ自体が、魔王国内ではあの王城都市内でしか生活を認められておらず、城外にいるエルフは、必ず魔王の活動許可証を持参しているものだと、マジに教えてもらった。

 マジは、碧を魔王城に連行する時の活動許可書を持ってはいたが、ちゃんと調べられたら、もう失効しているのはバレバレだろう。


「魔王城からこんなに離れた田舎ですし、私の許可証はよほどの事がないと怪しまれないかと思うのですが、碧は……困りましたね」

「うーん。いっそ獣人とかに変装しようか? そう、コスプレ!」

「コスプレ? ……ですが、変装はありかも知れません。まあ、獣人にしては、ちょっと血色が良すぎますが……わかりました。

 私がそれとなく材料を集めてきます」

 そう言って、マジは集落に入って行き、動物の毛皮や針糸などを入手してきた。


「マジ。怪しまれなかった?」

「ええ。逃げた勇者捜索の密命で来ていると説明しましたので……」

「……」


 その夜のうちに、マジは碧用の猫耳としっぽを作ってくれた。

 もちろん、近くでよく見たら作り物だとは判ってしまうが、ちょっと遠目ならわからない位にはよく出来ていた。これで、私も集落に入れるかな。


「それじゃ、早速試してみましょう」

 そう言ってマジは、碧を連れて近くの集落に入り、いきなり派出所を訪れた。


「えっ、えっ。マジ。大丈夫?」

「大丈夫です。あなたの存在もちゃんとアピールしないと。

 ですがちょっと離れていて下さいね」

 そういいながらマジは、不審そうに二人を見ている、立番と思われる獣人に声をかけた。


「すいません。私、魔王城の方から来た、逃亡勇者の秘密捜査官なんですが……」

 そう言いながら、例の許可証を一瞬だけちらっと見せると相手は何も疑わなかったようで、その場で最敬礼した。


「ご苦労様です。それで何かお手伝い出来る事は?」

「こちらに入った情報で、逃亡勇者が、この山脈近辺の反魔王組織と合流したとか、しようとしているとかで……それを追跡しているのですが、その反魔王組織の情報が不足していて、地元の方のほうがお詳しいかと思いまして、訪ねて参りました」

「あー。それでしたらもうすぐ上官が戻ってまいりますので、それまでお待ちいただければ捜査協力も……」


「いえ、私も秘密捜査なので、あまり偉い方と直接お話して、大がかりに動くのはちょっと。あなたの御存じの範囲で構いませんので、教えていただけませんか?」

「はあ……この近くですと、ここから見て……ほら、あの一番高い山の中腹。

 あの辺に、レジスタンスが巣を作っているという話はあります。ですが、あまりに危険な場所なもので、こちらからの調査は詳しく行っておりません」


「危険とは?」

「あの山、ドラゴンの巣なんですよ。魔王様ならいざ知らず、私らみたいな普通のもんでは、とてもとても。かといって魔王様にこんなところまで来ていただく訳にも……。それで住人、何人召し上がっていただく事になるのか……。

 いや、これは失言!」


「はは。ありがとう。助かりました。それでは私はこれで……」

「あの! ちょっとお待ち下さい。あとで上官に報告しますので、貴方のお名前を。あとそちらの……助手さんですか? その方もお名前を教えて下さい」

「あーっ……なんだ? 君はさっき私が見せた許可証をちゃんと見て確認していなかったのか! 

 私の名前は、アシタバカヤロだ! そしてあっちの助手は、ワンタイジン! 

 いいね!」

「あっ、はい! 失礼いたしました、アシタバカヤロ様」


 一時はどうなる事かと、碧はヒヤヒヤしながらやり取りを見守っていたが、マジの迫力に気おされて、あの警官がビビったおかげで何とかごまかせた。


 二人は、足早に集落を離れた。


 ◇◇◇


「うまくいったわね、マジ」

「まあ、なんとかなりましたが、多分、彼の上官は私達の裏付けを取るでしょう。

 そうなったら偽物バレバレで、かえって追手に手掛かりを与える事になります。

 早々にレジスタンスのところに向かいましょう」


「でもドラゴンって……」

「確かに厄介ですが、レジスタンスもそこにいるのなら、何らかの接触手段はあるはずです。当たって砕けるしか……」

「砕けたらだめじゃない?」

「いや、そのくらいの意気込みでという事です。急ぎましょう!」


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