第10話 同僚
大神官が魔王の食事となった二日後。
エルフ王城の王の間に、一人のエルフ女性が呼び出された。
「陛下、お召しにより参上いたしました!」
「ああ……よく来てくれた、サルトール武官。
もう聞き及んでいるやも知れないが……貴君の先輩であるマジラニカント近衛士官が、魔王の目の前で、勇者を連れて逃亡した。それで、大神官スベイラが急遽替わりの勇者を用意したのだが、魔王はそれを気に入らず、スベイラを食い殺してしまった……」
「それでは……来年の豊穣の加護は……」
「そうなのだ。
このままでは、来年は穀物が育たず、王城内に多数の餓死者が出るだろう」
「それで陛下。私は何をすればよろしいでしょうか?
行けと言われれば、魔王に喰われる事もやぶさかではございませんが……」
「いやいや、君には勇者ヤミーとマジラニカント捕獲に協力してほしいのだ。
兵達を捜索に向かわせてはいるが、何せあのマジだ。やたらな者では歯が立たぬだろう。それで、近衛で彼女と遣り合える唯一の手練れと見込んで、君にこの任務をお願いしたいのだ!」
成程……と、サルトールは納得した。
確かにマジ先輩とサシで渡り合えるのは、今の近衛の中では自分位だろう。
だが、正直、マジ先輩の方がちょっと強い。
しかし……。
「陛下、一つお願いがあるのですが……万一、マジラニカント士官を生きて捕らえられた場合、彼女を私の奴隷として下賜していただけないでしょうか?」
そう……これなら命を懸ける価値がある。
「ははは。日頃、よほど上司に恨みをお持ちだったのかな……しかし、構わん。
勇者ヤミーさえ生きて捕らえられれば、マジの生死は問題ではない。
生きて捕らえたのなら、君が好きにおもちゃにするとよい!」
「有難き幸せ」
王の間を退出し、真剣な面持ちで自室に戻ったサルトールは、ベッドに転がったとたん、腹の底から笑いがこみあげてくるのを止められなかった。
「ああー、マジ様……まさか、本当にこの手であなたを好きに
とはいえ、あのマジ先輩ですから……一筋縄ではいかないでしょうね。
ですがこんなチャンス……どんな手を使ってでもモノにして見せますわ!
ほほほほほほほほ……あんっ! くふうっ……」
◇◇◇
その頃、
もちろんまわりは原生林で人もおらず、小さな岩穴が仮の住み家になっていた。
碧は、近くの小川から水を汲んでくる位しか出来ないのだが、マジは本当に有能で、いつの間にか鳥やウサギを仕留めてきて、火を使って料理したりしている。
「勇者様。魔王の元から逃げ出して二週間。
そろそろ、ここも移動しないと追手が追い付くかも知れませんね」
「えー。でも……もうヘロヘロなんですけど。
こんなに森や山の中走り回ったのなんて初めてだよ」
「いや……捕まれば、魔王に美味しく戴かれちゃいますよ。
でも、まあ……私も毎晩、美味しく戴いておりますが……」
「マジの馬鹿……」碧が顔を真っ赤にして照れながら小声でつぶやいた。
「それで、マジ。これからどうするの?
いつまで……どこまで逃げればいいの?」
「……正直、分かりません。キングの領国を出るのが安全だとは思うのですが……
王国の外がどうなっているのか、私は知らないのです」
「えー…………それじゃあ、何とかして私の元いた世界に帰れない?」
「エルフの王城内で魔導士達が協力してくれれば可能かも知れません。
しかし我々は、今や国家反逆罪の指名手配犯ですからね。
エルフ王城に近寄る事も出来ません」
「……そっか……でも、こういう時、アニメとかだと、国家に抵抗する組織とかが助けてくれたりするんだけどなー」
「なんですか? そのアニメというのは……ですがまあ、この国の中にもそうした集団がいると言う話は聞いた事があります。
しかしながら近衛の私の守備範囲外でして、詳しい事は何も知りません」
「ううー。八方ふさがりー……」
「ですが……そうした者たちは、北部山岳地帯にいると聞いた様な気もします。
あてもなく彷徨うより、そこら辺を目標にした方が、歩く元気が出るかも知れませんね」
「はは……確かに目標があった方が頑張れるけど……何も無かったら心折れるわー」そう言いながら二人は、翌朝ここを引き払う準備に入った。
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