第9話 再召喚
勇者ヤミーがマジラニカントと魔王城を逃亡してから二日後。
大神官は、王城に入るとすぐに、魔導士に緊急招集をかけた。
議題は、もちろん、生贄用の勇者の再召喚である。
勇者誘因剤の効力の強化や、どこでもド……じゃなくて勇者召喚ドアの増設などが提案され、それぞれプロジェクトチームが組まれた。
その後、国王に事の成り行きを説明して、こっぴどく叱られた。
わし、来年で更迭だろうな……。
国王から、エルフの罪人での生贄ではだめなのか打診されたが、エルフの罪人ように貧相……失敬、スレンダーなものは魔王に全く相手にされないため却下した。
魔王との約束期限まであと五日というところで、準備が整い、勇者召喚作戦が改めてスタートした。
最初から肉付きのいい人間のメスがひっかかりますように……。
そして、あと四日・三日・二日と経過したが、まったくアタリが無かった。
くそー。誘引剤の効力もドアの数も数倍にしたはずなのだが……。
胃が痛くなる様な思いで、待っていたら……かかった!
ふうっ。もうギリギリだが、かかってよかった……。
大神官がそう思いながら召喚部屋に駆けつけると、はたしてそこには、結構グラマラスな人間の女性が召喚されていて……って、え?
「あのー、勇者様。失礼ですが、御幾つでいらっしゃいますか?」
大神官が慇懃に尋ねた。
「なんだあんた。何女性に年齢聞いてるんだ? セクハラじゃないか?
ま、いいわ。あたいは十七歳だよ!」
「えー。いくらなんでもサバ読みすぎでは? どう見てもアラフォーですよね!」
「もう、失礼なジジイだね。あたいは永遠の十七歳なの!」
「……」
離れたところで、大神官と魔導士長がひそひそ話を始めた。
「おい、なんであんなBBAが……あんなの、魔王が納得する訳ないだろ!」
「そうは言われましても……勇者誘引剤は確かにターゲットにしか効かないはず……って、あー!
もしかして効力強めたから、対象年齢幅も広がった!?」
「なんという失態! しかし……いまさらやり直しも出来んよな……」
「はい、召喚用のドアを再調整するだけでタイムオーバーです……」
「仕方ない……あいつで行くぞ!」
◇◇◇
この度、召喚された勇者は、
それに、誘引剤で引っかかったんだから、絶対処女だし……。
覚悟を決めた大神官は、姫路を思い切り若作りに化粧させ、魔王の所へ連れて行く事にした。
「そんで、大神官のおっさん。こんなにおめかしして……。どこ連れて行くんだい?」
「はい、勇者様。
隣の国の王様が、是非人間の女性を正妻に迎えたいと仰せで、その条件に見合う美貌と若さをお持ちの方を魔導士総出で探した末、貴方様が見つかった次第です」
「ちっ、本人の意志は関係ないってか……まあいいさ。
あたいも、あっちの世界に少々居づらかったんで、王様に嫁いで贅沢させてもらえるっちゅうんなら、考えない事もないよ」
「それは何より……」
「はーん。でも、分かってんだろうな?
気に入らない王様だったり、満足出来ない生活だったらバックレるかんな!」
「はは、けしてその様な事は……必ずやご満足いただけるかと存じますよ」
なんなのだ。この勇者のガラの悪さは……まあ、魔王城に着いたら喰われちまうんだし、それはそれで、同情の余地ありか……そう思いつつ大神官は、勇者姫路を乗せた馬車を、大急ぎで魔王城に向かわせた。
◇◇◇
勇者姫路を乗せた馬車は、夜通し走り、翌朝には魔王城に到着した。
勇者の準備が出来た事は、すでに早馬で魔王側にも伝えてあるので、あちらも準備しているだろう。
「なんだよ、血色の悪いじじいだな。この城ではいいもん食えてんのか?」
前回同様、見るからに悪魔風の執事長が出迎えに来てくれたが、その顔を見ながら、姫路が悪態をついた。
「いやいや、ここの王様は、国一番のグルメですから……」
そう言いながら大神官が、勇者姫路を先導した。
例の大広間に入ると、魔王キングは椅子に腰かけて待っていた。
彼の姿を見るなり、姫路が
「おい、大神官のおっさん。まさか、あの鬼が国王とか言わねえよな?」
「いやいや。あのお方が、この国の王、キング様です。
見た目は恐ろしいですが、大層優しいお方です。
どうぞお側に寄ってご挨拶を」
「ちっ。まあ、あいさつ位はきちんとしねえとな……」
そう言いながら姫路はゆっくり、キングの方に近づいて行った。
大神官は、すでにキングと示し合わせており、前回の様な悶着が起きる前に、
いきなりかぶりついて下さいと依頼してある。
かわいそうだが、勇者姫路はキングに掴まれた時点で命運が尽きるのだ。
姫路が一歩づつキングに近づき、直前に立ち止まって、挨拶を始めた。
「あたいは宮島姫路。十七歳だ。あたいを嫁に欲しいってのはあんたか?」
「ふわー。ずいぶん香水がきついですね。
でもまあいいです。顔と体つきは合格という事で……いただきまーす」
そう言いながら、キングはいきなり姫路に抱きついた。
「なっ、いきなり何しやがんだー!」
姫路がいきり立ち、キングを振りほどこうと……
する前に、キングの方が姫路からピョンと飛びのいた。
「おい、大神官! なんでこんなの連れて来た!
こいつ、どう見ても三十超えてるだろ!
三十超えた処女は、妖精さんになっちゃってるんだよっ!」
「はっ? 本人も十七歳と言っておりますが……何か問題でも?」
大神官は、しらばっくれて逆質問した。
「ふざけるな! 三十過ぎの処女は、聖的エネルギーが、肉そのものにも蓄積されちゃってて、かじっただけで良くて中毒。運が悪けりゃ死んじゃうの!」
「なんと! それならなおさら食べていただきたいのですが……」
「…………」
「おいおいおい。お前ら、なにくっちゃべってんだー?
人が処女だのどうだの、さんざんな物言いじゃねえか!
不肖、この宮島姫路。十七の時からレディースの頭はってんだ!
男なんぞ犬の餌にしかなんねーんだよ!
あたしの処女を貰っていい男は、あたしに勝った奴だけなんだ!」
言い争いをしていたキングと大神官の横に立っていた姫路がすごんだ。
「お、お前一体何を……ああ、魔王様。申し訳ございません。
準備期間も短く、あわててしまいました。後生です。今一度チャンスを……」
大神官が、床に土下座して、キングに許しを乞う。
「…………さすがに………これは勘弁出来ないかなー。
とはいえ、毎回怒りに任せて、うちの奴隷喰っちゃうのも何だし……。
よーし、分かった。今回は覚悟なさい。我慢してあなたを食う事にします!」
「ひえー、お許しを……」
大神官に噛みつこうとするキングに、姫路が声をかける。
「……おっさん達。なんか知らんけど、交渉決裂みたいだな。
あたいは帰りたいんだがどうすればいい?」
「ええい、お前は僕に近づくな!
殺されたくなかったら、どこへなりと行ってしまえ!」
キングにそう言われ、ムカッとはしたが、こんなおっさん達殴っても手が汚れるだけだなと思い、姫路は一人、魔王城を後にした。
◇◇◇
「ったく。何だったんだよあれは……まあ、王様の嫁なんて、全然期待してなかったけどな。でも……好きでアラフォーまで処女守ってた訳じゃないっちゅうの……」
そんな事を考えながら歩いてはいるが、はてさてこれからどうしたものか。
まあ、元の世界に帰れたとしても、やっぱり住みずらいだろうしなー。
それなら、この世界で何か面白い事でも探してみようか……。
そして宮島姫路は、とりあえず、来る途中で見かけた集落の方へ歩んでいった。
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