第6話 晩餐会
執事に案内されて次の間に進んだが、そこには大きなテーブルとイスが一つあり、あとは何もない大部屋だった。
その椅子に魔王がどっかりと座り、導かれて
そして、テーブルには酒肴が運ばれてきた。ここで立食パーティーでもやるのだろうか。だが、マジも大神官も他の兵士達も、ちょっと離れたところから遠巻きに碧を見ている。
えー。もしかしてサシで魔王と会食するの?
ちょっと嫌だなとは思ったが、イベントがこうして無事に終わったのだ。卒なくお相手して、さっさと解放してもらおうと、碧は考えた。
「あのー、魔王さん。ちょっとよろしいでしょうか?」
勇気を出して魔王に声をかけてみた。
「何かね勇者……君、何て名前だっけ?」
「あー、ヤミーでお願いします。
それで、お願いなんですが、宴会の前にちょっと着替えさせていただいてもよろしいでしょうか? 魔王さんの攻撃が気持ち良すぎちゃって……。
ズボンもぱんつもびしょびしょなもので……」
「ほ? ……はははははは、ヤミー君。君は何を言ってるんだい?
そのびしょびしょがいいんじゃないか!」
「へ? そんな……魔王ともあろうお方が、そんな変態プレイがお好きなので?」
「何を言ってるんだ。そのほうが塩味効いてていいに決まってるじゃないか!」
「え? それは一体全体どういう事で……」
「ええい……おい大神官。お前また説明を端折ったな!
ちゃんとルールを説明しておいてやれよ。
僕を倒せなかった勇者は、僕に喰われるって!
突然言われても困るよなー、ヤミーちゃん!」
「えっ? えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
慌ててマジの顔を見るが、彼女は下を向いてしまっていて、自分と目線を合わせない様にしている……という事は……えっ? うそっ!
魔王が気の毒そうに説明してくれた。
「あのな、ヤミーちゃん。昔っからの僕とエルフ族の間のルールでな。
勇者の一撃が僕にヒットして一定以上のダメージが入ればエルフの勝ち。
ダメなら勇者は僕の腹の中。
僕、グールなもんで……。
勇者が勝つか、勝てなくても食べた勇者が
ちょっと待ってよ。何言ってんのこの人……じゃない鬼。
でもそうか……あの食事とかおやつとか訓練とか……もしかして全部、私をおいしい霜降りにするため?
狼狽を隠せない碧に、魔王が告げる。
「そう言う訳なんで、エルフ達の為に、おいしく戴かれてくれないかな。
あー、服は脱がなくていいから。かじったとき、汁が飛び散らなくていいんで……」
あっ、あっ……そんな……ちょっと、みんな。何見てんのよ……助けてよ……。
「マジー! 助けてー!」碧が大声で叫んだが、マジは下を向いたまま動かない。
「マジ……何よ、あなた……最初から知ってたのね……負けたらこうなるって」
「あーあー、ヤミーちゃん。あんまり興奮しないで……失禁されたりしたら、肉が臭くなっちゃうからさー。
こいつらみんな、最初っから、人間の事なんて考えてないから……」
そう言いながら魔王が立ち上がって碧に近づき、お腹のあたりをゆっくり撫で始めた。
絶望というのは、まさにこういう気持ちなのだろう。
お父さん、お母さん、ごめんなさい。私帰れそうにありません…………でも、でも……なんでこんなに悔しいの?
「マジーーーーー! よっく聞けーー! よくも私をだましたな!
訓練とか適当な事を言って、さんざん人の身体もてあそびやがって!」
「違う……違うの碧! 私は、あなたなら本当に魔王を倒せると……」
マジが力なくそう言ったが、碧は取り合わなかった。
「私……最初からあなたの事を信じていたのに……夜だって……あなたと睦みあうのが楽しかった。でも、それもあなたの欲望を満たすためだったんだよね。
こんな事なら……こんな事なら、あなたを好きにならなければよかった!!」
碧の絶叫が部屋中に響いた。
「もう気がすんだかな、ヤミーちゃん。
僕も大分お腹が空いちゃったんで、そろそろかじるね。
痛いかもだけど、我慢我慢……勇者なんだしさ!」
そう言いながら、魔王は両手で碧を抱え上げ、思いきり首筋めがけて顔を近づけて口を大きく開け、碧はたまらず眼を閉じた。
カィーーーーーーン!
その時、突然目の前で、高い金属音が鳴り響いた。
えっ? かじられてない?
碧が眼を開けると、魔王の口に、マジの剣先が差し込まれていた。
そして次の瞬間、マジは魔王に足払いをかけ、その隙に碧を抱きかかえて魔王から離れた。
「いってーー。おいおい、歯が欠けたらどうするんだよ!
お前の頭骸骨で差し歯作るぞ!
おいエルフの女官! お前何してるか分かってんのか?」
魔王があきれ顔で言う。
大神官も激怒している。
「おい、マジラニカント! お前、気は確かか?
ここで魔王様のご不興を買ったら、来年、王城の餓死者は数万を超えるぞ!
すぐに勇者様を魔王にお返しして、お前は腹を切れ!」
しかし、マジは碧を身体の側に寄せて抱きかかえ、こう言い放った。
「私は、勇者ヤミー様の側付きだ! 勇者様をお守りして何が悪い!
私にとって勇者様は、こんなゲームに人生を左右されている王都の奴らより大切なんだ!
大神官。あんたもいい加減に眼を覚ませ。いつまでこんな鬼に好きにさせているんだ! エルフは揃いも揃って大馬鹿ばかりか!」
「くっ」
大神官も頭に血が上りすぎているのか、呂律が回らないようで言葉が出ない。
「やれやれ。ここで君一人が頑張って何が出来るというのか……僕がすぐに引導を渡してあげましょう。もう腹ペコですんで、早くその子を食べたいですしね」
そういいながら、魔王がゆっくり近づいて来る。
「マジ……」碧はギュッとマジにしがみついた。
「碧。もう一度だけ……ロッドを振れないか?」
そう言いながらマジが碧のお尻をぺロンと撫でた。
「ひゃんっ!」あれっ、なんか今ので気合が入ったような気がする。
もう、こうなったらマジと
覚悟を決めて、碧は、まだ手に持っていたロッドを大きく振り回した。
すると、最初程ではないが、ロッドの宝玉が光だし、ものすごい勢いで閃光が放たれ、魔王も大神官も兵達も……そして碧も、一瞬視界が奪われた。
「今だ! 走れ、碧!」
マジに手を引かれ、どこをどう通り抜けたのか全く覚えていないが……気が付くと、碧とマジは、王城の外にいた……あの閃光を目晦ましにしたんだね。
◇◇◇
「でもマジ……これからどうするのよ?」
「とりあえず……逃げ切ってから考えます!」
そうして二人は手を取り合いながら、魔王城の西に広がる森の奥に向かって走っていった。
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