第5話 魔王
魔王城の正面の扉をくぐると、執事の恰好をした、いかにも悪魔風の人が出迎えてくれた。
「勇者ご一行様。ようこそお越しくださいました。
主は数日前から、ご到着を心待ちにしておりました」
「えっ? 普通、魔王城に突入したら、戦闘になるんじゃないの?」
マジに聞いてみた。
「ご心配なく。ちゃんと戦闘はありますから……」
そうなんだ。でも、なんか調子狂うな……。
悪魔風の執事さんに案内され、勇者一行は、大広間に通された。
そして、その正面に……いた! ふえー、何あれ。
椅子に座ってはいるが、身長二m以上はあろうかという巨大な鬼じゃない。
なんかすっごいマッチョだし、頭の両側には大きな角生えてるし……。
あれと戦うの? なんか、急に帰りたくなっちゃったぞ。
動揺する碧に、マジが話かける。
「気を抜かないで! いつでもロッドを振れる様に心掛けて下さい!」
「うん。わかった……」
大神官さんが先頭に立って魔王に近づいていき、その後ろを碧とマジが進む。
そしてさらにその後ろに、歩兵たちが続き、やがて魔王と碧らを囲む様に散開した。
「よう。大神官スベイラ。まだ生きてたんだ……。
まあいいや。今回の勇者は自信作なんだろうな?」
魔王の声が、見た目の想像よりちょっとハイトーンで、なんか可愛い。
「はい、魔王様。今回の勇者ヤミー様は、ここ数百年で一番の出来かと存じます。 是非、ご堪能下さいませ」
大神官がそう言ったのだが……え? なんで魔王に敬語?
「それでは、楽しませてもらおうか……」
そう言って魔王がゆっくり立ち上がった。
「勇者様。来ます! 構えて!!」マジが大声をあげる。
「え? え? 構えるって……ロッド?」
いきなり声をかけられ動揺してしどろもどろになった碧の頭に、直接殴られた様な衝撃がはしり、思わずその場にうずくまってしまった。
「勇者様!」マジが駆け寄ろうとするが、魔王がそれを睨みつけたところ、マジの足はそこで止まってしまった。
「……マジ……」やっぱり、彼女も怖いんだ。
くそ、私がしっかりしなきゃ! 碧は勇気を振り絞って立ち上がった。
「ほう。立ち上がれるか……まあ、まだ小手調べだしな。
それじゃ、これはどうかな?」
そう言って魔王は、さっと、右手を碧の方に向けた。
とたんに、言葉に出来ない快感が、碧の全身を駆け巡る……。
何これ。訓練の時の比じゃない……このまま続いたら気が狂いそう……。
足はガクガクになってきて、股間はもう濡れ染みでびしゃびしゃだ。
喘ぎ声もよだれも止められない。
(あん……あん……くっ……でも、このままじゃ……)
その時、マジが叫んだ。
「快感を。快感を拒否しないで!
私としてると思って喜んで受け取って下さい!」
そうか!
これは、あの、マジといっしょに過ごした時に感じたのと同じものなんだ!
そう考える様にしたら、少し気持ちが落ち着いた様な気がした。
「ほう。それではもう少し強めに……」
魔王が右手に力を入れ、脳内に送り込まれる快感がより強くなる。
でも……私はマジが好き……もっと感じさせて……もっと気持ち良くさせて……
碧の迫力に気おされたのか、魔王の右手が一瞬下がった。
「今です!」
マジが大声で叫ぶ声が聞こえ、碧は思い切りロッドを振りまわした。
ロッドの先に付いた宝玉がものすごい勢いで輝きだし、次の瞬間。眼も開けられないほどの光が部屋全体を飲み込んだ。
……………………
「やったか!?」マジの声がする。
碧もようやく視力が戻ってきたので、魔王がいた方を見てみた……が。
「……ははは。ふう、あぶなかった。
しかし、ここまでやった勇者は確かに百年ぶり以上だな。
大神官スベイラよ。今回は、花丸でよさそうだな」
「ははー。恐悦至極!」魔王の言葉を受け、大神官がその場に平伏した。
え? 何なのこれ。
碧には、サッパリ話が見えないが、大神官も周りの兵達もなんだかうれしそうにしている。もしかして、本気の戦闘じゃなくて、何かの試合見たいなものだったの?
「ねえマジ……」そう言って碧はマジの顔を見たが……彼女は今まで見た事がない位、真っ青な顔をして、眼一杯に涙を溜めながら言った。
「……殺れなかった……」
悪魔風の執事が言った。
「それでは、これから晩餐会に移ります。皆様、隣の食堂へどうぞ」
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