第6話 VSカサンドラ
武器屋のタヌキ親父は気持ち悪いくらい満面の笑みを浮かべながら店じまいしていた。
どうやらあの黄金の剣が売れたらしい。
「メデューサの首を盾に張り付けた冒険者が訪れた途端にあの剣が光り出したんだ。ありゃあ剣が持ち主を選んだに違いねえ。喜んで差し出したさ」
……あのお姉さん、冒険者じゃなくて女神様だったのでは。
「そんなわけで売り物もなくなったし店を畳むことにしたのさ。ま、お前さんも冒険者を名乗るなら剣の一本くらい持っておきな。俺からの最後のアドバイスだ」
お前のせいで剣が手に入らなかったんだろうが。
他の冒険者達がダンジョンを再踏破したことですっかり安全なダンジョンとなり、ほとんどの冒険者は引き上げて別の地下ダンジョンの攻略に向かった。ボクも本来であれば用はないのだが、今まで一度も最下層に潜ったことがなかったのでどんな雰囲気か見ておこうと思い最後に訪れることにした。
「この先が最下層……ダンジョンの中でも一番奥深く、最も凶悪な魔物が潜んでいた場所か。流石に驚異はないはいえ、物々しい雰囲気は残ってるな」
ボクが一歩踏み入れようとすると
「待って、その先は危険だわ。引き返しなさい」
凛とした女性の声。
振り向くとローブに身を包んだ褐色の美しい女性が立っていた。人間のように見えるが、しかし纏っている雰囲気が異質だ。よく見ると手には水晶玉を持っている。
「私はカサンドラ。予言の魔女よ」
カサンドラが現れた!
「カサンドラっていうと、予言が正しいことを告げているにもかかわらず誰にも信じてもらえないっていう悲劇の魔女」
今まで出会ってきたモンスターが美少女チックな見た目をしつつも正真正銘の化物ばかりだったからつい身構えてしまう。彼女は本当に普通の人型のモンスターだった。
「あなたはこの先で自分の運命を変えるような出会いが待ち受けているわ。けれど一度入ってしまったら最後、このダンジョンからは出られなくなる」
「そんなっ」
彼女は予言の魔女だ。おそらくその予言は正しい。
「このダンジョンに突如として上級モンスターが現れることも予言して触れ回っていたけれど誰も耳を傾けてくれなかった。その結果、多くの犠牲者を生んでしまったわ」
「それはあなたのせいじゃないよ」
「それで私、気付いたの」
「うん」
「押して駄目なら引いてみろ。押すなよは押せの合図」
「う、うん?」
雲行きが怪しくなってきた。
「見るなよって言われたら逆に見たくなるのが人間の性。それを利用すれば良いんじゃないかって」
「ど、どういうこと!?」
「つまり予言の逆を言えば正しい行動をとってくれるんじゃないかしら。同じ嘘つき呼ばわりされるならそっちの方がマシじゃない」
なかなか拗らせた魔女だった。しかし言っていることには一理ある……のか?
「というわけでこの先には行かない方が良いわ! ……じゃなかった、行った方が良いわ!」
「どっちだよ!?」
「そもそもいくら踏破されたダンジョンだからって武器も持たずにやってくるのは流石に舐め過ぎじゃない?」
「一応武器は持ってるよ」
ソーサラーリングを見せると彼女は不思議そうにそれを見つめる。
「へ? 武器じゃないじゃない。それって――」
突然言葉を切る。そして目線を上げながら次第に青ざめていく。
「いえ、何でも無いわ。武器、そう、ブキデスネ。ワタシハナニモシリマセン」
「……?」
後半の方カタコトになってたのは気のせいだろうか。
「結局、この先には行くべきか引き返すべきか、どっちなの」
「ひ、ひぃっ」
何故か怖がられた。
「し、知らない。私は何も見てないし何も答えられない」
そう言うと突然下層に向かって走り出す。
「ちょっと、待って」
そんな中途半端に予言されても困るじゃないか。彼女を追いかけて最下層へと足を踏み入れる。
ダンジョンは紫の霧に覆われ視界が悪い。それでも障害物は殆どないので彼女の姿は見失わずに済んだ。
暫く進むと小さな森が現れる。まるで田畑の真ん中にぽつんと存在する鎮守の森のようだった。どことなく神秘的で近づきがたい雰囲気がある。
「な、なにこれっ。今までこんな森なんてなかったじゃない!」
カサンドラがうろたえていると、紫の霧がより一層濃くなった気がする。
「ご苦労さま。貴女の役目は終わったわ」
「え?」
人の姿はないのに声がする。すると天から閃光が放たれカサンドラを直撃する。
「ぎょえーーーーっっっ!!!」
ギャグ漫画みたいな奇声を上げてその場に倒れる。
「そう……どちらにしろ、私はこうなる運命、だったのね……ガクッ」
ギャグ漫画みたいに意識を失う。
「さあ、いらっしゃい。ここは
「……今更逃げられるはず、無いよね」
居ないと思っていたラスボスが急に現れた。
息を整えて、暗い森の中へ踏み入れる。
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