第5話 VSメデューサ
「なんでも初級層に上級モンスターが出たってんで、みんな討伐するための武器を求めてやってきたからこっちはウハウハよ。どこも暫くは入荷無し。武器屋が武器を取り合ってる状態だ、ガハハ」
お前のところの経営状況なんてどうでもいいんだよ。在庫一斉セールであの黄金の剣以外は売っぱらったらしく、店内はガランとしていた。再入荷の見込みがないならもはや武器屋とは呼べないのでは。
ボクはうなだれたまま店を後にした。やはりボクの相棒はこの植物の光合成を助ける働きのある光線を出すソーサラーリングだけなのか。
そんなわけで中級層にやってきた。
命知らずのバカかって? 仕方ないだろ、低階層は殺気立った熟達の冒険者達が闊歩していて、あの雰囲気の中に居たら自分まで強い冒険者だと思われてしまう。
ここは中級でも浅い階層だからそこまで驚異はないはずだ。
とはいえ油断はできない。無駄かもしれないがソーサラーリングに魔力を込める練習くらいはしておこう。少しはレベルアップして威力が増しているかもしれないし。
「あら、そこのカワイイ坊や。ねぇ、アタシきれい?」
「え?」
「ぎゃーーーーー! 目が、目がァァ!!!」
突然呼ばれて振り返ったところ、光が相手の目に直撃した。
頭には無数の蛇が蠢き、青銅の腕と黄金の翼を持つ大きな体躯の女性が潰れた目を手で覆っている。
メデューサが現れた!
「これが役に立ったのは初めてだ……」
「んもぅ、なんてやんちゃな坊やだこと。でもいいわ、ちゃんと自衛できてるとこ素晴らしいわ。アナタ、気に入った」
出会って5秒で即気に入られた。
「ほら、アタシの髪の毛もアナタのこと気に入ってるみたい。もっと近くに居たいって」
やめて、その髪の毛って蛇じゃないか! 蛇は僅かな体温を感知する能力に長けているだけだから!
やめて、舌でチロチロ舐めないで!
「ほら、アタシって魔除け的な効果も期待できるしぃ。この首あげるから盾に貼りつけて一緒に居ましょうよー」
確かにメデューサを盾に貼り付けた女神の話は聞いたことあるけど。まさかメデューサ側から提案されるとは思わなかった。
「アタシ、ペガサス持ってるんだけど乗ってかない? このまま浪漫飛行しちゃわない? なんちゃってなんちゃって! きゃーっ、ダ・イ・タ・ン」
一人で言って勝手に盛り上がっている。これが普通の女の子なら可愛いのだが、残念ながら蛇の髪を持つ怪物だ。
「あっ、そろそろ目が見えてきた」
彼女が薄目で遠くを見ると、そこに居た動物が一瞬にして石になる。突如として危機的状況が訪れてしまった。
彼女の手がゆっくりとボクの顔に触れる。
「ねぇ、アナタのお顔をよ~く見せっ……」
両手で力強くこめかみを掴まれ、錆びたバルブでも回すように無理やり視線を合わされそうになっていたところで急に彼女の首が断層みたいに滑り落ちる。
「!!!???」
ボクが声に出ない悲鳴を上げていると、背後から剣を携えた冒険者がその首を拾い上げ、金の糸で編まれた袋にぽいっと仕舞う。
「驚かせてしまってすまない」
声を聞いてその人が女性だと気付いた。
「このモンスターは私が責任を持って地上に運び出すから安心して君は冒険を続けるといい」
それだけ言って踵を返す。その姿があまりに眩しくて、声をかけずにはいられなかった。
「どうしてこの階層に……? 強い冒険者はみんな低層で上級モンスターを探しているのに」
「私は名声や財宝目当てでダンジョンに来たわけじゃない。膨大な知識を持つ魔女に会いに来たのだ」
「魔女?」
そんな凄い魔女がダンジョンにいるとは初耳だ。
「人間嫌いで冒険者も訪れないような狩り尽くされたどこかの地下ダンジョンの一角に隠れ潜んでいるという話だ。このダンジョンこそ怪しいと思っていたが、あてが外れたらしい。強大な化け物がいるような場所には居ないだろう」
「は、はぁ」
そう言って彼女は再び歩き出す。ボクはその後ろ姿をただ見つめることしか出来なかった。
「ダンジョンを潜る理由、か。そうだよね、誰にだってあるんだ」
当然ボクにだって理由がある。あの格好いい冒険者のお姉さんと同じくらい、強くて格好良くて、優しくて立派だった命の恩人にもう一度会いたい。
そう強く願いながら、ダンジョンを進んでいく。
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