第4話 VSドライアド
未だに剣が入荷しないここは本当に武器屋と名乗って良いのか。
そんな武器屋の親父にこのソーサラーリングは本当に使えるのかと問いただした。
「そいつは偉大な魔女が作ったとされる指輪だ。魔力がほとんどなくても使えるように出来ているはずだから、それが扱えないということは魔力がゼロに等し――」
最後まで聞かずに店を後にする。
ははは、そんなわけないだろう。
うん、今までは調子が悪かっただけ。そうに違いない。
さて、ボクはただの興味本位で地下ダンジョンに潜っているわけではない。
昔、まだそれほど地下ダンジョンが整備されていなかった時代に、誤ってダンジョンに入って迷子になってしまったボクを助けてくれた冒険者がいた。その人に憧れて冒険者になったといっても過言ではない。
あの人は今もどこかのダンジョンを冒険しているのだろうか。もしも会うことが出来たら感謝の言葉を伝えたい。
「わた――ボクも、立派な冒険者になります!」
子供の戯言を笑い飛ばすこともなく、優しく微笑みかけてくれたあの人にもう一度。
今日の階層は辺り一面に草原が広がる牧歌的なフィールドだった。
「こんなぬるま湯で本当にいいのか!?」
それが今日日の地下ダンジョンだから仕方ない。
「こんなきれいな花が咲いてるなら、危険はなさそうだな」
でもちょっと元気がない。光が足りないのだろう。
ボクはソーサラーリングにちょっとだけ念じると、ほわっと気持ち温かい程度の光が花に降り注ぐ。うん、ボクの武器は攻撃に適していないことを認めよう。だったら違う用途で役立たせたいと思う。
「よし、元気になったね」
そろそろ出発しようと立ち上がる。と、どこからか視線を感じる。
じーっ……
「ん? あの木の奥に誰かいる」
全身緑色で葉っぱを身に纏っている精霊のような出で立ちの少女が立っている。
ドライアドが現れた!
見ているだけでこちらを攻撃する様子はない。
おや、ゆっくると近づいてきた。
手に持っているのは花かんむりだろうか。鮮やかな赤い花が目についた。
「リコリス、リコリス」
その花の名前だろうか。ボクに花かんむりを差し出す。
「えっと、くれるの?」
コクリと頷く。
「ボクに似合うかなぁ……ど、どう」
「厳しす、厳しす」
「自分で渡しておいてひどい!」
「うそ。励ます、励ます」
よしよしと頭を撫でられる。
彼女らは木や花をぞんざいに扱ったりしなければ害はない、という話は本当のようだ。
『グルル……ガアアァァァ!!!』
突如、ダンジョン内に咆哮する声が轟く。
「な、なんだ」
下の階層から砂煙を上げて飛び出してきたのはライオンの頭、山羊の胴体、蛇の尻尾を持つ化け物。口から火を吹き周囲を焼き尽くしている。
キマイラが現れた!
「そんな、あんな強敵がなんでここに……」
今のボクではとてもではないが勝ち目がない。
あ、まずい。目が合った。獲物を見つけたって目でこちらに駆け出す。
「!!!」
植物のツルが伸びてキマイラの動きを止める。しかしそれも一瞬で、口から火を吹けばすぐに拘束は解かれる。
「だ、駄目だ」
「厳しす、厳しす」
ドライアドは地中に根を張り詠唱を始める。するといくつもの大樹が壁のように生えてキマイラの行く手を遮る。しばらくすると焦げた匂いが充満して黒い煙が上がる。
「これは尊いサクリファイス」
彼女は出口を見てボクに合図する。
「逃げろ、ってこと……」
バキッと大きな音とともに木の壁が崩れ去る。その奥に、怪しく光る瞳の怪物。
――ダンジョンで大切なことは生き延びること。
「……ごめんっ」
ボクは振り返ることなく来た道を駆け抜ける。燃え盛る炎に焼かれた木々の断末魔も、唸りを上げる勝利の咆哮も、何も聞こえない。
地下ダンジョンにも危険は潜む。そんな当たり前のことを改めて認識した。
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