第25話 龍の覚醒

 美久は後ろで鬼達の咆哮や歓声が上がるのを聞き悲しみと怒りで身体が震えた。


ローラ「美久振り返らないで」


ジェニー「走って!」


 しかし、山頂まで至る所に大勢の鬼が待ち構え、突如襲ってくる。


 その時またしても地面が強く揺れ鬼達もその場に倒れて坂を転げ落ちる。


 美久は身を伏せてスマホを見る。雲仙普賢岳大噴火のニュースが飛び込んでくる。


 桜島の取材を終え、帰りのヘリがたまたま撮影しているようだ。火石流が発生して周辺は地獄の惨劇のようである。


 すると富士山火口から溶岩が勢いよく溢れ出し

溶岩流となって頂上の半分を覆い始めた。


ローラ「美久、急ごう!」


 何百という鬼を切り刻み、木っ端微塵に吹き飛ばして頭の先からつま先まで返り血で真っ赤になりながら、美久達は頂上に駆け上がる。


 頂上では祭壇と美久達の間に溶岩の川が出来ていた。

 

 ドロドロとした溶岩は頂上にいる逃げ遅れた鬼達を溶かしながら流れ続ける。


 地面から轟音が響き、揺れ続ける中で祭壇の天童京子は立ち上がり、水晶を手にしようとしていた。


 天童が触ろうとした瞬間、水晶を破壊すべく美久は前頭葉から一気に力を送る。


 揺れ続ける地面で念力はそれて、水晶ははじかれ高く空中を舞って祭壇の奥に落ちて転がる。


美久「距離が遠すぎるわ」


 天童はそれを見て怒り狂った。


 「おのれ、まだ邪魔するか!」


 美久達に向けて頂上の鬼達が一斉に襲いかかってくる。


 右はローラ、正面は美久、左はジェニーが対応しながら美久達は集中力を最大限に引き上げて天童に向かって走る。


 次々と半径10mの鬼の上半身を吹き飛ばしながら倒れた正面の鬼を踏み越えて行く。


 溶岩流のふちまできた。


 目指す天童京子は溶岩流の向こうだ。


 溶岩は1000度の熱を保持してドクドクと流れる。


 そこからガスも発生しているため臭気と熱さで息も出来ない。


 すぐさまローラとジェニーはテレパシーで話し合い2人は溶岩の川に結界を張ると川の数メートル先まで溶岩が堰き止めらる。


 そこを躊躇いためらいもなく歩いて進む。


 川の手前半分をジェニー、奥半分をローラが両手いっぱい広げ、最大幅の結界を張って堰き止めた。


 しかし、今まで溶岩が流れていた地面は数百度の熱を持ちブーツの裏が直ぐさま溶け始める。


ローラ「うおおおおおおっっっー」


美久「どうしたの!二人とも死んじゃうよ、引き返して!」


ローラ「私達が堰き止めてる間にここを駆け抜けて」「早く!」

 

 溶岩は凄まじい勢いで結界を上から越えて流れ始める。


 溶岩の熱でジェニー、ローラも数秒しか耐えられない。


 ジェニー「美久早く!」


 ローラとジェニーに祭壇からは山伏が石や杖等あらゆる物を投げつけてくる。


 美久「ありがとう、ローラ、ジェニー」


 美久が泣きながら走り過ぎると直ぐにローラとジェニーは両足が溶岩で溶け


ジェニー「後は頼んだよ!」


ローラ「もう駄目」


   「さよなら美久」


 と叫びながら溶岩流に飲み込まれ沈んでいく。


 美久も靴は溶けて底が無く、服は鬼達に引きちぎられ、髪は熱風で焼けた上に身体中血だらけの状態で前頭葉に最大限の力を込めると山伏達の頭を一気に吹き飛ばす。


 流れ出る涙と汗は熱風により一瞬で乾いていく。


 天童は揺れ続ける祭壇で転がる水晶をなんとか拾い上げ


「もう遅いわ」


「ヤガミヒメの末裔め」


「これで終わりだ!」


というと水晶を火口に投げ込んだ。


 美久は天童京子に向けてありったけの力を解き放ち天童を火口に叩きむ。


「お前だけは絶対許さない!」


「いけーーーーーーーっ」


 天童は凄まじい衝撃で弾き飛ばされると首が千切れ、身体は回転しながら飛んで行ったが、顔は美久の方を向き笑いながら落ちてゆく。


「あははははははは」


 水晶が火口に到達すると火口表面の土が凄まじい爆音とともに割れる。


 美久は強烈な熱と振動で祭壇が崩壊していく中、自分の背中が裂け、身体の中から何かが飛び出すのを感じた。


 背中から飛び出したのは水晶から出てきた龍だった。青い龍はみるみる巨大化し、一気に空高く舞う。龍と美久はひとつになっている。龍の幅は約500m、全長5kmはある。


 目にも止まらない速さで成層圏の限界まで昇った龍は真下の富士山目掛けて大きな口を開けて全速力で突っ込む。


 富士山は割れた火口からもの凄い音を立てて噴火したが、それを真上から龍が飲み込みながら富士山に突撃する。龍はスピードを緩めることなく口を開けたまま突っ込んだ。


 ぶつかる瞬間、風速50m近い突風が富士山周辺に吹き荒れ


  「ドドドドドドドドッ」


 という互いがぶつかり耳をつんざく大音響がした。


 富士山は砂埃で全く見えない。ただ噴火は止まり、あれだけ揺れた地震も止んでいる。


ーーーーー


 1日経って分かることとなったが大量の砂埃が落ち着いた後富士山のあった場所には5号目から上が何もなく隕石が落ちたようなクレーターがぽっかり空いていた。


 景子が予知した東北の火山噴火は富士山の噴火が止まってから発生していない。


ーーーーー


 火口に落とされた天童京子は闇の世界に戻りニライへ報告の為に岩の前に来ていた。待ち望んでいたニライは大きく平らな岩を少しづつずらし始める。


 そこへ富士山の溶岩をたっぷり腹に溜め込み赤い腹をした青龍が闇を突き破り三重の塔の真上にやってきて「ここね」と呟きつぶやき、一度身体を後ろにのけ反ったかと思うと腹に溜めていた何百万トンもの溶岩を一気にぶちまけた。


 塔の鬼達は頭上を見上げ阿鼻叫喚の流壺るつぼと化す。地下の京子も「なにごとか!」と叫ぶも天井が溶岩と共に押しつぶされニライと共に全ての世界から抹消された。


ーーーーー


 武司はハイエースで富士宮市まで避難していた。

時折停車して富士山を見て皆の無事を祈っていたが、上空から凄い速さで何かが落ちてきて爆音と共に富士山が消えたのが分かった。


 唖然とする最後に現実に目の前で起こったことが信じられない。

 

 皆んなもこの状況だと無事ではないはずだ。


 車から降りて駿河湾を見ているとラジオから静かにエリックサティのジムノペティが流れてくる。曲を聴きながら武司はこの数日の怒涛の日々を振り返った。


 九州、中四国の被害も甚大であるが、日本ならまた立ち直ることが出来るはずだ。


 世界中で誰も知らない山神家とニライの何代にも渡る戦いは幕を閉じた。


 武司と佳奈の出会いも景子が今日までの戦いを予想しての戦略だったのだろう。


 尊い犠牲を何人も出したが彼女たちは勝利し、そして消えた。


 改めて景子の周到な準備と情熱、全員の勇気に心から敬服する。


 しかし、生き残っても辛い気持ちしかなかった。


 それぞれが命をかけて仲間を守り、日本を未曾有の危機から救った無名の戦士たち。

ほんの数日でも一緒に戦えたことが誇らしい。

だから


   「俺も連れてって欲しかった」


   「死んでも構わない」

     

   「いや、もう死んだもの同然だ」


 そう呟くと、武司はまた富士山のあった場所を見つめ続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

龍の覚醒 ナルナル @kotanaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ