第20話 ジェニー
ジェニーが1才になりテレビを観ている時、画面に顔が付くほど手前で観ているのを両親が気づき、慌てて眼科に行き診察してもらうと極度の弱視と診断された。
娘が弱視と分かり両親は目に良い様々な食べ物や、近視の針治療、弱視改善の眼球体操などいろいろ試してみた。
その内ジェニーの目は色素が抜けていき薄い灰色になって見た目にも目が見えないのが分かるようになる。
ジェニーの父はジャック レオというカナダの人気ゴルフレッスンプロで母は地元スーパーで働く山神
二人はジェニーにあらゆる手を施したが目は一向に改善せず、視力は悪くなる一方だった。
キンダーガートン(幼稚園)はなんとか親が付き添い通うも
小学校のグレード1(1年生)は家からも遠く困っていたら同じバスに全盲のエリオット君から申し出があった。
"一緒に通いませんか"
目が悪い同士なら気持ちも通うだろうと一緒に行かせてみると、周囲の人からの親切や手助けもあり、二人は何不自由なく通えたし、お互いの気持ちも誰よりも分かり合える関係になった。
障害のある人に対してカナダ人は皆、親身に寄り添い、良い面を伸ばして個性を尊重する教育システムも確立している。
そんなジェニーが12才の時、1人で家の庭の花を摘んでいると近くの狩猟用の大型犬ポインターが檻から逃走してジェニーのいる庭に侵入した。ポインターはジェニーを見つけると足音も立てず後ろから襲いかかった。
近所の住民が気づくまでポインターは泣き叫ぶジェニーを攻撃し続け、背中を20針、腕を18針、首を15針縫う大怪我を負った。
ジェニーは生死を彷徨いながら夢の中で光輝くこの世のものとは思えない程の美しい女性に会う。
その女性に優しく抱きしめられ
「この力を貴方に送ります。人の為に役に立てなさい」
夢の中とは思えない程はっきりした夢だった。
1週間生死を彷徨って目が覚めると不思議なことに目は見えないのに心の中に新しい目があり、そこに念を集中すると心で周りの様子がはっきり見える。
「ママ、なにか見える」
「頭の中でママも見えるよ」
舞は最初意味が分からなかったがジェニーが目を閉じていても周りの物を言い当てるので直ぐに状況を理解した。
母の舞も能力が使えた。ジェニーの
弱視でも見えるようになったのは犬に噛まれたショックからきた透視能力の開眼であろう。
(日本では透視で明治時代の御船 千鶴子が有名)
しかし、ジェニーに透視能力があることが分かったら人体実験を繰り返されるか、政府の管轄に移される。学校も普通に通えなくなるしマスコミも飛びつくはずである。
舞はジェニーにこれらの事情を丁寧に説明し、今まで通り弱視で見えないふりをして生きていくよう説得した。
ジェニーは母の話を理解し病院を退院後もいつものようにエリオットと一緒に学校へ通った。
エリオットは運動をしていないのでとても細い身体つきだったが背は高く顔はギリシャ彫刻のように堀が深くて美しい青年である。
ジェニーは初めてエリオットを見て嬉しくなった。
"なんて美しいの"
そんなエリオットはいつも優しく、紳士な振る舞いでとても目が不自由で苦しんでるとは思えない程である。
エリオットも優しく賢いジェニーを好きだった。
エリオット「ジェニー、大学に入ったら結婚してくれないか」
「僕は君ほど素敵な女性を知らないんだ」
ジェニーは驚いた。
「喜んでお受けするわ」
「私も貴方が大好き、いつまでも好きよ」
二人は大学受験で勉強に励む
毎日二人は夜中に何時間も電話でたわいもない話をしたがそれも楽しくて仕方なかった。
そんな時エリオットに朗報が入った。IPS細胞で作られた角膜移植の実験募集だった。まだ確立されていないが成功すればエリオットの全盲は全快する。
ジェニーに相談すると
「エリオットこんなチャンスは無いわ、絶対試すべきよ」
「良い結果を期待してるわ」
ジェニーは心からエリオットの目が治るよう祈った。
その言葉に後押しされエリオットは実験を受ける。
3回の長時間に渡る移植手術だったが、目の包帯を取ったときエリオットは目を開け、周りの全てが目に入ってきた。
初めて両親を見て感極まって涙が止まらない。
ベッドの近くにいたジェニーに気づくとジェニーの美しさもエリオットには分かった。
二人は抱き合って喜んだ。
高校の終業式を迎えるまでに目が見えるようになったエリオットは引き続きジェニーと一緒に歩き、学校に通った。
しかし、最初は仲睦まじい二人だったがエリオットには見る物全てが新鮮で同じルートしか通らないジェニーがつまらなくなってくる。
そしてバスで盲目の女性をエスコートする美男子として徐々にエリオットは話題になっていく。
更にエリオットの美貌や紳士な振る舞いはケベック女性のハートを鷲掴みにして女性からのお誘いが引っ切り無しに来始める。
ジェニーは気づいたら終業式は1人で学校に行き
寂しく1人帰宅していた。
大学に入ったら結婚の約束をしていたのに今では全く電話もない。
ジェニーは1人ひたすら勉強して希望のモントリオール大学に通うことになった。
風の噂でエリオットも同じ大学に受かったことが分かる。
それから1年が経ったある日、エリオットから久しぶりに電話が来て大学に一緒に行こうと言ってきた。
ジェニーは今更と、断ったが
「僕は君を忘れた日なんて一日も無いよ。明日はエスコートさせてくれないか」
「いままでのことは謝るよ」
「寂しい思いをさせたね」
どの口が言うの、、、腹が立って電話を切ったが心のどこかで喜んでいた。
朝、視覚障害用の杖で周囲を確認しながらバス停に行くとエリオットがいた。
ジェニーを待っていたようである。
無視する素振りを見せながら久々に会ってみると近況や昔話など話に花が咲く。
"やっぱりエリオットは私が好きなのね"
不思議なものでまた元の関係に戻ったと思い始める。
エリオットから
「ジェニーやっぱり君は素晴らしい女性だよ。帰りも待ってるよ」
と言われ、今までの仕打ちも忘れてスキップするように教室に入った。
帰りのバス停にエリオットは先に来ていた。
エリオットは学部が違うけれど時間を合わしてくれた。二人並んでバスを待つ。会話が無くても二人の心は一つと感じる。
すると後ろから口元に誰かが手を回し、ハンカチのような感触が顔に感じられた瞬間意識が飛んだ。
目が覚めると倉庫のような場所で椅子に縛られている。
「えっ、離して、誰か、誰か助けて」
ジェニーは叫んだ。すると倉庫の端っこに数人の男女が立っている。男性2人、女性2人。その内の1人はエリオットだった
「ジェニーごめん。俺も捕まった。椅子に縛られてう、ご、け、な、い」
迫真の演技で話す。
ジェニーは透視術で最初から全て見えてるため呆気に取られ空いた口が塞がらない。
尚もエリオットは演技を続ける。
「ジェニー俺たちは誰かに捕まったようだ」
すると、エリオットの隣にいた狡猾な顔をした男が
「おい、エリオットお前の腕を折られたくなければ1万ドル持って来い」
「銀行にそれくらい有るだろう」
隣の男もなかなかの演技で話す。
エリオット「そんなお金持ってない。ジェニー助けてくれ」
「こいつら俺の腕を折るって言ってる。聞いたろ、恐ろしい奴らなんだ」
「なぁ、ジェニーお前の家金持ちだからカードにそれくらいあるだろ」
「助けてくれ!ジェニー」
「お願いだ」
すると周りの女たちの1人は笑いを
ジェニーは全部見えてると言ってやるのが良いのか悩み、話し始めた。
「エリオット大丈夫?」
「どこにいるの?」
「カードならあるわ」
「誰か知らないけどエリオットを助けて」
「お金は私が出すから」
すると男達はジェニーの財布からカードを抜き
「暗証番号を言え」
と凄む。
ジェニーは「59**」
と言うと男達は「本当だろうな」
「もし、嘘だったらエリオットがどうなるか覚えておけ」
と言うと倉庫のドアを開け、外に停めてあったバイクにそれぞれ男が
誰もいない古い農機具が埃を被って置かれてるだけの倉庫でジェニーは前頭葉に力を集中し、縄を切断する。
外に出てみると気温はマイナスと思われるほど風は冷たく、周りは深い木々に覆われ真っ暗で1m先も見えない。
時間は腕時計が10時半を指している。
「ママ達心配してるな」
と思ったら母が脳内に話しかけてきた
「ジェニーどこにいるの、大丈夫?」
「やっと話せたわ」
ジェニー「大丈夫よママ」
「私少し夢を見ていたみたい。決着つけたら直ぐに帰るね」
そう返すと脳内会話を遮断する。
再度倉庫に戻り、椅子に座って縄で縛られてるように戻した。
数十分後彼らが慌てたようにバイクに乗って戻ってきた。
男達「やってくれたなジェニー」
「番号違うじゃねぇか」
「お前も殺すぞ」
だんだんこっちに近づいてくる。
ジェニーは笑いながら立ち上がって縄を投げ捨てる。
「残念だったわね」
「すぐ信じるとは皆さん浅はかなんですね」
「エリオット後ろに隠れてないで前に出てきたら」
そう言うとエリオットは
「なんだとジェニー、お前、俺がどうなっても良いのか?」
まだ演技を続ける
ジェニー「待ってエリオットそのつまらない演技はもう見飽きたから止めて」
すると女達が「暗証番号教えろ!」と言いながら襲いかかってくる。
ジェニーは俯きながら前頭葉に力を集中する。
前方から蹴りを入れようとした女は股が180度以上引き裂かれその場で関節が外れて倒れて痙攣し始める。
もうひとりの女もジェニーの服を掴もうとしたが腕が肘から反対に大きな音を立てて折れ曲がり倒れ込んで悶絶している。
男達はそれを見て後ろに逃げ出したが、次々に凄まじい破裂音と共に右足のアキレス健が切れてその場に倒れた。
ジェニーはゆっくりエリオットに近づくとエリオットの両目の角膜を念力で潰し、鼻の骨を90度折って鼻の形が左真横に向くようにした。
エリオットは絶叫を上げて気絶した。
ジェニーは倉庫を出て山の中に続く真っ暗な道を見つめていると寒さを切り裂くかのように一台のスポーツカーが目の前に停車し、ドアが開く。
初めてみるアジア人女性が脳内に話しかけくる
「お待たせ、こんなとこ早く出ましょう」
「さぁ乗って」
「大丈夫、怪しく無いから」
と言ってくる。
ジェニーはクスッと笑い助手席に乗り込み、車はまた暗闇の中Uターンして、もと来た道をハイビームで照らしながら去って行った。
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