第18話 出雲大社

 美久達の飛行機はなんとか島根空港に着陸したが滑走路の端で止まってしまい空港専用バスが飛行機のいる場所まで迎えに来ることになった。


 どうやら空港では最悪の事態を想定して消防車や救急車を準備しているようであったし到着ロビーには大勢の警察が待ち構えて事情聴取や取調べの用意がされている。


 また、マスコミも次々現れているようである。


 美久達はバスに乗り込んだがバスの運転手の脳を操り昏睡させ、武司が運転席に座ると佳奈の指示で飛行場の端までバスを運転した。


 そこで7人は下車するとローラが金網を念力で一部吹き飛ばす。


 その穴から美久達は飛行場を脱出した。


 バスに同乗していた他の乗客達は疲れ果てもう誰も美久達に声をかける者もいない。


 飛行場から悠々と脱出してレンタカー屋に入ると予約していたハイエースの手続きを始めた。


 佳奈に言われるがまま、武司が運転席に座り出雲大社にナビを設定した。


 ドナがいなくなって7人となり車の中は悲しみと疲労困憊で重苦しい雰囲気だったが佳奈が静かに話し始める。


「出雲大社の結界は作られた時から強力な力で覆われているから末裔以外の人間は入った瞬間に命を落とすわ」


「たぶん景子は天童京子に捕えられて何か催眠をかけらてるはずよ」


「そして水晶を景子に取らせようと考えているはずよ」


 美久「しかしこっちは全員入れるわ」


 武司「俺は駄目じゃん」


 佳奈「貴方は特別よ」


「それに水晶の在処は貴方しか知らないはずなんだけど」


 武司「ええっ、俺知らないよ、そんなの」


   「本当に」


   「なんで俺」


 佳奈「行って考えよう!」


 美久「パパやっと出番だね」


 武司「無理無理無理無理無理ーーーっ」


 夕方5時を過ぎた頃車は出雲大社勢溜せいだまり前に着いた。


 7月なのでまだ明るい5時過ぎの出雲大社勢溜せいだまりの鳥居前には4人の道着を着た坊主頭の男たちまるでが待ち構えていたように前を塞ぐ。


 4人は筋肉質な見た目で顔は浅黒く日焼けしている。手には数珠じゅずや先に輪のついた杖、錫杖しゃくじょうを持っている。


「よくここまでたどり着いたな。だが、ここから先には行かせない」


 1人が錫杖を地面に叩きつけて金属音を響かせ言い放った。


 しかし美久達は無視して勢溜の鳥居を潜ると、男達の表情は変わり


「おいっ!止まれ」と荒々しい口調で声を荒げた。


 すぐさま男達は美久達の方に向かって腕を突き出しスローモーションのように円を縁を描きながら妖術を使い始める。


 時空が歪むゆがむかのように空中に渦のような波が出来る。


 すると出雲大社までの松の参道が急に厚い雲で覆われ夜のように暗くなった。


 周りにいるカラスの鳴き声がやけにうるさい。 


 いつの間にかカラスは100羽以上周囲を取り囲み次々と美久達7人に襲いかかってきた。足が3本ある八咫烏やたがらすである。


 佳奈やリサ、ルビーが結界を張るがカラス達は凄まじい勢いでぶつかってくる。



 結界が無ければ全員くちばしで全身を刺されたことだろう。


 その間ジェニー、美久、ローラは手を繋ぎ、


 すかさず強烈な念力を男達の脳に送った。


 男達は次々に痙攣したかと思うと頭がバレーボールのように膨らみ内側からボンっと音を立て破裂した。


 それとともにカラスは散っていき、結界に体当たりして地面に墜落したカラスはその場で絶命していた。


 頭の無くなった4人の男達が静かに膝から崩れ落ちると、美久達は一斉に走った。


 鉄の鳥居を抜け、次の銅の鳥居を駆け抜ける。


 武司も後ろではらはらしながら後をついて走る。


 右に見える宝物殿は営業時間を過ぎ電気が消えひっそりしている。


 しかし、玄関の鍵を開けるくらい1分もかからない。


 中に入ると佳奈が電気を点けた。パッと明るくなった室内は静まり返っている


 佳奈「なにかおかしい」


 美久「ママ行こう」


 佳奈「う、うん」


 2人を先頭に1番奥の部屋の刀剣を展示してあるショーケースを佳奈が引っ張り手前にずらすと下に扉が現れた。 


 佳奈「鍵が開いてる」


 扉を上に開くと下に降りる階段が見える。


 石の階段を佳奈が先頭で慎重に降りていく。


 7人目に降りる武司は待つのも行くのも怖くて早くも足の震えがとまらない。


 3m位階段を降りるとまた扉があり、そこを開けると8畳程度の部屋があった。


 その部屋の照明を点ける。


 武司「こんなところに部屋があるなんて」


 部屋の中は煌びやかな金の装飾を施した首飾り、赤や緑の刺繍の入った靴、銅鏡、見たことも無い土偶など所狭しと飾ってある。


 ルビー「この中に水晶があるの」


 リン「見当たらないわ」


 美久「先を越されたかしら」


 佳奈「ここよ」


 佳奈「ここからが本当の宝物殿への入口よ」


 奥の展示物の横に腰のあたりまでくらいの小さい扉が見える。


 佳奈「鍵が開いているわ」


 美久「先を越されたのね」


佳奈「ここから先は一般の人間には行けないわ」


 佳奈「私も初めて入るんだけど」


 武司「俺まずいんじゃない」


 佳奈「貴方は特別よ」


 扉を開けると暗くて先が見えない。


 ここから先のトンネルは穴を掘った当時のままで周りは土を固めたようになっている。


 途中何箇所かに木の柱と枠組みがあり、壁と天井を支えている。


 しかし道幅は高さ3mはあると思えるかなり大きな穴である。


 武司「よく昔の人はこれを掘ったな、なんでこんなに広いんだろう」


 ローラ「美久懐中電灯出して」


 ジェニー「私も持ってるから出すわ」


     「あれ、ローラ忘れたの」


 ローラ「電池入れるの忘れてた」


 美久「ナイス」


 500m位だろうか少し下り坂のトンネルを歩いていると誰かトンネルで倒れている。


 全員走って近づくと倒れていたのは景子だった。


 入ってきた方に向かって倒れているところを見るとこの先で何かあり引き返したのだろうか。


 佳奈「大丈夫景子」


 景子は息をしている。死んではいないのが分かった。


 しかし、目を覚さない。


 美久「佳奈は景子を連れて病院に行って」


    「ここから先は私達だけで行くわ」


 リン「外にまだ鬼がいるはずよ、佳奈と一緒に行ってくれる」


 リン「分かったよ」


 武司「俺も病院に行く」


 美久「パパは私達と来て」


 武司「役に立たないって」


 美久「景子の夢には続きがあって水晶を見つけるのはパパよ」


 武司「そ、そうなの?」


 ローラ「武司さん最後まで頑張って」


 武司「はぁ~」


 景子を背負って佳奈は心配そうに見ているがリンと佳奈を残して美久、ローラ、ジェニー、ルビー、武司は先に進んだ。


 500mくらい歩いたところに大きな赤い鳥居が見える。


 紫外線に晒されていない大鳥居は塗料が浮かび上がるように赤く暗いトンネルで異彩を放つ。

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