第10話 馬鬼

 飛行機の席は後方しか空いていなかった。

 

 機内は真ん中が通路で左右に2列のシートがある配置となっている。


 後方に向かい狭い通路を歩いていると美久達は外国人観光客一行にしか見えない。


 女性達のモデルの様な外見に、機内にたまたま乗り合わせた男性達はミスコンでもあるのかとスマホで関連を調べ始めたり、雑誌に目を落としつつチラ見してきたりした。


 女性達と武司は左右の後方2列に前後して着席した。座席は8割くらい搭乗者がいるように見える。


 風も無く晴天の羽田空港からJAL283便は定刻通り出発し、離陸して約30分、飛行機が無事最高高度に達する。


 シートベルト着用のサインが消えると前方で紺のスーツを着たサラリーマン風の男が6人静かにゆっくり立ち上がり一斉に振り返る。


 男達は全員左右バラバラの席から美久達を凄まじい眼光で睨みつけてきた。美久も何事か理解した。


「ここでやるの」

 と呟いた。


 佳奈が「乗客が多すぎる」と話す。


 その瞬間、飛行機内の照明が全て消え機内の全モニターも真っ暗になった。


 乗客達も異様な雰囲気に騒ぎ始めた。そこへスチュワーデスが1人小走りに走っくる。


 立ち上がって美久達を睨みつける男性の中でも極めて仕立ての良さそうなダブルのスーツを纏いまとい髪はオールバックにしている男に丁寧に話しかけた。


「お客様どうかなさいましたか」


 続いて機内放送からは他のスチュワーデスが


「只今照明とモニターの故障について原因究明中です。席に座って復旧までお待ちください」


と説明を始めた。


 すると先程スチュワーデスから話しかけられた男は


 「可哀想だが、この飛行機に乗っているやつはこれから全員死ぬ」と良く通る声で乗客に宣言した。


 すると後ろの座席の若い20代くらいのサラリーマン風の男が立ち上がり


「何言ってんだてめぇ」


 と言いながらその男のネクタイを後ろから手を伸ばして掴むと手間に引っ張り男を正面に向かせる。


 ネクタイを引っ張られ、首が絞められる格好になった男は笑い始めた。


 まるでマネキンのように表情は無く、ただ口だけ開いてるような顔である。


      「はははははは」


その男は俯きうつむき笑いながら顔を上げる。男の顔は馬のような形になっていた。


 "まるで馬の頭の被り物を被っているようである"


 佳奈「う、馬鬼」


 馬鬼は若い男の頭をゆっくりと両手で包む様に掴んだ。若い男は


「何すんだおまえ」

「うえっ」

「ううう」

「うげげげ」


唸ったうなったが、若い男の頭をまるで柔らかいスポンジでも潰すかのように指の間から血をビュンビュン噴き出させ潰した。


 その瞬間飛行機の中は絶叫のるつぼと化した。


 殆どの乗客は椅子の中で身を丸めて伏せた状態になる。


 中には立ち上がり後方に逃げようとして躓いてつまずいて転ぶ人、走ってトイレに逃げ込む人、スチュワーデスの待機場所にも数人逃げ込んだ。因みに馬鬼の隣の座席の人は失禁して口から泡を吹き気絶している。


 美久達は立ち上がり馬鬼との睨み合いとなった。

 

 馬鬼「では、みんなおさらばだ」


 そう言うと馬鬼の部下5人が共に俯きうつむき念を集中する。飛行機の窓ガラス何枚かに亀裂が走る。


 美久達はすかさず馬鬼達5人の念力を阻止するべく女性達は集まり手を繋ぎ念を込めた。


 馬鬼と美久達の間の壁や天井がバキバキ音を立て始めて凹む。


 何人かの乗客は何が起こるのかスマホをムービーにして録画を始めたが、美久が


       「頭を下げて!」


 と叫ぶのも無視して頭を上げていた何人かの乗客の頭が空気を抜いたサッカーボールのように"ベゴッ"と凹み、大量の鼻血を出しながら倒れる。


 途端に馬鬼を除く手下の5人も脳がスイカを破裂させたように砕け散り、周りの乗客は飛び散る脳の部位に悲鳴を上げた。


 しかし、馬鬼は頭を振り目や鼻から血を流し始めるも、人間ではあり得ない雄叫びを上げて自らの右腕で凄まじいパンチを窓ガラスに叩きつけた。


 その瞬間A3サイズくらいの窓ガラスが外に向かって粉々に飛び散る。


 瞬く間に飛行機は気圧のバランスを失うと共にあらゆる手荷物や書類、そして先程シートベルトを外してしまった乗客達も次々窓の外に吸い込まれる。


 馬鬼もバランスを崩してよろけながらも手前の乗客の頭を押し潰しながら起き上がる。


 頭を押し込まれた男性は身体に頭がめり込み血の海と化している。


 飛行機は気圧バランスが崩れたせいで右に回転し始める。乗客の絶叫と壊れた窓からの風切り音で轟音が響き渡る。


馬鬼は

「死ね、皆んな死ね、ワハハハハ、闇の世界で待っているぞ」と叫んだ。


 そこにドナが体制を立て直し

「もう好きにさせないよ、この馬野郎」と叫びながら馬鬼に向かっていった。


 ドナは身長180cm、フランスの柔道代表選手だったので肩幅も広く体格は馬鬼にも負けない。


 傾いた機内で馬鬼に飛びかかり馬鬼の右手を左手で押さえると同時に右手で馬鬼のスーツの襟をしっかり握り柔道の内股を見事に決め、馬鬼の足を払った。


 馬鬼は咄嗟にドナに抱きつくも狭い通路で2人とも座席に横向きに倒れ込んだ。


 椅子に伏せて気絶している乗客の背中に倒れ、倒れた馬鬼はドナに抱きつき力一杯締め上げた。

 ドナは叫んだ


「ウギャーーーーーーーッ」


 馬鬼の腕の締め付けでドナの腰が簡単にぺちゃんこになり内臓が凄い勢いで飛び出る。ドナが美久達の頭の中に叫ぶ


「今よ、後は頼むわ」


 腰を潰されながらドナは最後の力を振り絞り馬鬼の両目を正拳突きで潰して絶命した。


 馬鬼は「うおーーーーーっ、小癪な」と叫び頭を振り目からドナの手を抜く。


 そこからドナの脳波は永遠に繋がることはなかった。


 美久達は泣きながら大きな声で


「ドナーーーーー」と叫んだ。


 美久は全身が怒りで震えていた。


      「絶対に許さない」


 と叫び、90度以上傾いている機内で美久達はなんとか立ち上がると馬鬼めがけ右手で波動を集めて同時に渾身の力を込めて馬鬼に叩きつける。


 すると馬鬼の身体は猛スピードのダンプに跳ねられたかのごとく壊れた窓に向かって弾き飛ばされ、小さな窓に体がぎゅうぎゅうに挟まった。


 窓の隙間が埋まるほど身体が挟まり、一瞬気圧が安定して飛行機は体制を真っ直ぐに立て直す。



 が、続いて美久達の念力で頭も潰された馬鬼は急にブスブスと音を立てつつ腐敗臭を放ちながら蒸発し窓から外に飛んで行く。


 そうなると一気に馬鬼は溶けて機外へ放出される。またしても窓からあらゆる物が吸い込まれ始める。


 途端に90度近く傾むく機内は警告音が鳴り響き、荷物は散乱して椅子にしがみつくのがやっとである。


 飛行機の体制を立て直すべくパイロットは操縦桿を狂ったように上下しながら動かす。しかし飛行機は右に傾き、真っ直ぐ飛べず右に旋回しながら飛行し始める。


 JAL283便の中は凄まじい振動と窓に吸い込まれる風の音と警告音以外何も聞こえない。


 その時美久が剥がれかけている天井を剥がして窓にダイビングし、窓を天井の板で覆う。


 さらに美久は着ている黒い戦闘服を脱ぎ弾丸も通さない素材を使っている服をその上から被せた。


 だが美久だけでは力が足りずルビー、ジェニー、リン、ローラも上着を脱いで壊れた窓に集まり戦闘服5枚を上から重ねて窓に被せて縁を押さえ空気の漏れを防いだ。


 このおかげで急に飛行機は機内の気圧が安定し、水平に体制を整える。


 壊れた窓に被せた戦闘服は手で押さえつつ念力で固定し、その上から佳奈が結界を張る。


 凄まじい緊張感が続く中で飛行機は水平状態を取り戻し出雲空港に着陸することが出来た。


 生きて辿り着けた乗客はあまりの出来事に機内で気絶するもの、気が変になったもの、足がすくんでその後何時間か動けなくなったものなど極めて悲惨な状況であった。


  日本の航空機事故では最悪の死者7名重軽傷者35名を出す大惨事となった。

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