第9話 景子
美久達8人が乗ったハイエースが横浜の景子の家に着いた時、時間は午前2時を過ぎていた。
深夜住民が寝静まったマンションは夏の虫が鳴く声以外に物音はしない。足音に気をつけながら進み、佳奈が玄関の合鍵で開ける。
しかし、部屋の中に入ってあらゆる場所を探したが景子は見つからなかった。家具や室内は何も荒らされていない。
佳奈「ここにいた気配はあるんだけど」
美久「脳波を少し感じるわ、でも場所が分からない。こんなこと初めてよ」
佳奈「どこにいるんだろう、全く手掛かりすら掴めないわね」
"5人の女性は誰とでもテレパシーで会話が可能だ"
ローラ「景子なら簡単にはやられないよ」
武司「警察に届けた方がいいんじゃないか」
美久「そんなの時間の無駄よパパ。行方不明者なんていまどき真面目に探してくれないわ」
ドナ「道場に行ってみましょう」
「取り敢えず身体を休めようよ」
景子が消えた原因が何も掴めず、部屋の中で立ちすくむ8人はやるせない感情に、一気に疲労と不安を感じ始め道場まで車で移動し休むことにした。
全員道場では、それぞれの宿泊専用の部屋で休んだ。
武司は佳奈、美久と同部屋で長椅子に横になった、武司はこれまでの人生で味わったことの無い疲労を感じながらも、様々なことが頭に浮かび寝付けない。
何度も寝返りをうっていたが、いつの間にか寝ていたらしく気づくとカーテンからの日差しがギラギラした夏の太陽なのが分かった。
ふと、佳奈と美久のベッドに目を向けるとどちらも既にもぬけの殻になっている。
起き上がって回りを見渡してみると部屋には誰にもいない。
腕時計を確認すると朝8時半。昨日痛めた腰を押さえつつゆっくり立ち上がり部屋を一周すると会社へ出勤するための着替えや鞄も無いことに気づきスマホから風邪をひいて休ましてほしいと上司の部長にメールをしておいた。
と言ってもいつ出社できる様になるんだろう。
全くこれから先の未来が見えない。
しかし、窓から差し込む光は眩しくなんと清々しい朝だろう。武司は窓から見える川の光の反射をただ何も考えず見つめていた。
"美久達はどこにいったんだろう"
気になり始めると居ても立っても居られない気持ちになり靴を履いてマンションの廊下に出た。
何となく廊下をエレベーターの方に歩き出す。隣の部屋はあの5人が一緒に住む専用部屋で中が気になるが何の物音もしない。
その部屋を過ぎると一般人の武司でも何か違和感を感じるほどの強い念を発している。頭の中にローラが話しかけてきた。
「武司さん、部屋に入ってきて」
武司は無意識にレバーハンドルを回し玄関のドアを手前に引くと鍵が空いている。恐る恐る中を覗き小さな声で
「こんにちわー」
と言いながら玄関から中に入った。
入ってすぐ台所があり佳奈が立って大量の食パンの耳を包丁で切っている。
佳奈「パパおはよう。早く起きれたね朝食はツナとチーズのサンドイッチよ」
そして奥の廊下を覗くと扉がありそこから念が発せられているのが分かる。
佳奈「奥の部屋見ても良いよ、行ってみて」
武司は靴を脱ぐと軽く頷いて奥に進み扉を開けた。
部屋では美久を含む6人が輪になって両隣りの人と手を繋ぎ全員
真ん中には水を入れた銀製のボールのような物が一つあり風もないのに水面が波打っている。
リン「おはよう武司さん。よく眠れましたか」
ローラ「美久、集中とぎれてるよ」
美久「お腹空いて」
ドナ「お腹空いたわね、朝食にしない」
武司の頭の中にも会話が聞こえてくる。
美久「パパ、私達はここで3年前から力の使い方を学んでいたの」
ジェニー「脳内に全身のパワーを集中させたら、それを隣の人と手を繋いで手から送るの、すると使いたい力は倍の威力を発揮するわ」
美久「手を繋いだ人数分パワーが強くなるけど、感情を合わせることによってもっと力が強くなるよ」
「これらは山神家に伝わる一子相伝だったんだけど景子がそれを解放して皆に教えてくれたの」
全員手を離したところで佳奈が
「サンドイッチ出来たよー」とトレーに乗せた大量のサンドイッチを持って部屋に入ってきた。
武司に向かって「冷蔵庫のペットボトルのお茶持ってきて」
と指示が飛ぶ。これ誰の声、もう分からなくなってきた。
8人での朝食を終え、佳奈から食後のコーヒーやチャイなどが運ばれてきて一口目を飲みかけた頃、佳奈が全員の頭の中に話しかけてきた。
「景子は島根県に向かっているわ」
「さっき弱いけど脳波を感じたの」
「リボーンに私達親子の素性がバレてヤガミヒメの末裔と見抜いたみたいね」
「たぶん車で移動してるはずよ」
美久「こうしてられないわ」
ドナ「彼ら出雲大社の宝物殿は末裔しか入れないから景子を
ローラ「airplaneで行こう。時間ないよ」
すぐさま佳奈がスマホを取り出し8人分予約する。
「JAL283便 14時10分が予約取れたわ、15時35分には島根に着くよ」
武司は「俺役に立つかな」「ここで待ってようかな」
と言ったが佳奈が
「あなたにしか出来ないことがあるわ、それにもう貴方も追われる立場よ」
と、言うと女性達は全員立ち上がり各自の部屋に戻り全員黒い生地の戦闘服に着替えてそれぞれ手荷物を持ちハイエースに集合した。
武司も言われるまま佳奈の後を追いかけ一緒に車に乗り込むと羽田に向かった。
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