第15話 拉致

 景子は横浜の自宅で洗濯物を干していた。


 横浜は快晴でベランダから下を見ると鶴見川の川面がキラキラして気持ち良い。


 だが陽射しの強さに肌が焼けそうで洗濯物を干すとすぐさま部屋に逃げ込んだ。


 ほっと一息つき空に浮かぶ入道雲を見ながら昔を思い出した。


 このマンションは島根の家があった場所を売却し、ある程度まとまったお金を得て購入していた。


 それと美久の能力を高めるのに築25年の小さなマンションを一棟この近くに購入してある。


 景子にとってお金を稼ぐことは造作も無いことである。


 景子は予知能力を使って株の売買を若い頃から初めていた。


 そのことは夫にも言わず目立たない程度に勝ち、コツコツ貯金に回していた。


 先が読める景子には株はギャンブルではなく簡単にお金を増やしてくれるシステムでしかない。


ーーーーー


 景子は結婚して半年頃から恐ろしい夢を見るようになった。


 そのあまりに残酷な未来に最初は日々絶望し、その内一日中寝たきりで食事も殆ど喉を通らない日が続いた。


 痩せ細る景子に対して夫は理由もわからないし、何も手立てがない為、ただ心配することしか出来なかった。


 しかし、3月末のまだ凍えるような寒い夜、眠りについた景子の夢にこの世のものとは思えない美しい女性が現れ、名をヤガミヒメと名乗った。


 眩しいばかりの光の中から景子に向かって歩いて来て寝ている景子に話し始める。


「景子、貴方は私の末裔です。これから先の未来を貴方はもう知っていますね、これから起こる悲しい未来は昔々ヤソガミ一族の最後1人ニライがかけた呪いによるものです。」


「これに打ち勝てるのは私達の末裔、貴方の孫しかいません」


「貴方の孫は素晴らしい力を持って生まれます」


「ただし、ニライから力を分け与えられた者は計り知れないほどの凄まじい力を持っています。だから1人ではなく私の末裔の者達を集めて力を合わせて戦いなさい。」


「貴方達しかこの世界を救えません」


「そう貴方達なら出来ますよ」


夢から覚めた景子は明け方身体の中から力が沸くのが分かった。


   "もう寝ている場合じゃないわね"


そう呟くと久しぶりに朝食を用意し始めた。


 景子は長い時間をかけ、計画を立て準備に取り掛かった。


 日本中が一夜にして地獄と化す予知夢、その未来を変えるのは並大抵のことでないことが分かる。


 それが出来るのは自分の孫の代の子であり、


 私の末裔も出来るだけ集めなければならない。


 全員が力を合わせて戦い、最後にどちらが勝つかは景子の予知能力でも全く見えてこない。


ーーーーー


 佳奈が毒を盛られて倒れた時、景子は昼下がりの自宅の部屋で少しうとうとしていたが急に胸騒ぎがし始めた。


「なんだろ、この胸騒ぎは」


 心配になり佳奈の脳波を感じようとしたが、全く何も感じない


「こんなこと初めてだわ」と呟やく。


 万一を考えスマホへ電話やLINEもしたが何も連絡がつかない。


 すると部屋のインターフォンが鳴った。オートロックのマンション玄関カメラをONにすると学校の制服を着た美久がお腹を押さえながらカメラを見て


 「お婆ちゃん大変、ママが、ママが、ねぇ開けて」と焦った表情で話している。


 景子は急いでロックを解除した。


 しかし、よく考えたら美久は合鍵を持ってるからマンションの玄関も自分で開けられるはず。


       「しまった」


 すると美久はエレベーターから上がって来たようで景子の部屋の鍵をガチャガチャ回し始める


 「開けて、鍵が開かないよ」と言っている。


 そんなはずはない、美久はいくら急いでいても合鍵を忘れるような子ではない。


 景子「合鍵忘れたの」と一応聞いたが返答は無い。


"美久の顔をしているがあれは美久ではないわ、何かがおかしい。"


 そう感じると恐ろしくなって後退りした。


 その瞬間鍵を刺す音も無しにシリンダーがゆっくり回る。 


 ドアが開き美久の顔をした女性が扉の前に立っている。


「貴方誰なの」景子が聞くと


「お婆ちゃん、こんなとこにいたんだ、随分探したよ」と言って笑う。


 景子は念力を使って美久になりすました相手に戦いを挑む。


 しかし、その相手は笑ってるような顔をしたまま全く効いていないようだ。


"これだけ念を送っているのに"どうなってるの


 「ふふふふ」不気味な笑い声をたてながら手を景子に伸ばして歩いてくる。


 そして顔は口角が有り得ない程上に吊り上がり、眼球が溶け出て黒い穴になる。


 目の前までくると景子の両腕を掴む。


 景子は「貴方はもしかして天童京子ね」そう言うと


 「よく知ってるじゃない」と答え、身体が動かない景子を抱きしめ、景子の顔に息を吹きかけた。


  その瞬間景子の意識は遠のいた。

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