第14話 霊鬼
京子は意識が戻ったとき布団の上にいることに気づいた。
薄っすら目を開けると広島の家の仏壇のある畳の部屋と分かった。
周りで両親と医者の声が聞こえてくる
「この子友達とふざけてて橋から落ちたんです。」
医者「あの高さで頭から落ちたのなら仕方ないのでしょうが頭蓋骨と首の骨が折れてます。」
「たぶん意識ももう戻らないと思います。」
「よく持って2、3日かと」
苦痛な表情を浮かべながら医者が告げると
父親「そうですか、先生ありがとうございました」
隣の母親が小さな声で呟く
母親「この子が死んだから1人分食事代が減るわ」
母親「全く懐かない変な子だったよ」
父親「そんなこと言うな、もしかしたら聞こえてるかもしれないし、可哀想じゃないか」
母親「もう聞こえてないわよ」
「どうせ死ぬんだし」
「私は気味が悪くてせいせいしたよ」
後ろに座る兄 一郎の声も聞こえてくる
「京子ってなんかいつも怖くて」
「僕もう見るのも嫌だったよ」
「死んでくれてありがとう」
これが家族とは思えない口ぶりである。
その時京子はそっと目を開き
「戻って来たわよ」と声を出すと。
両親と兄はその場で後ろに倒れた。医者も驚き、すぐに脈を計り直した。
京子は薄っすら笑みを浮かべた。復讐の始まりである。
京子の容態は日に日に良くなり最初の3ヶ月は寝たきりだったが4ヶ月目には骨折箇所も繋がり布団の上に座って食事出来るまでになった。
驚異的な回復力にますます母親は気味悪がった。
「なんてしぶといんだろう」
京子の見えない所では嫌味や不満をぶち撒けて全く喜んでいないことがわかる。
京子はその内自分でリハビリするようになり、杖を使って歩く練習を始めた。
とは言え1人でのリハビリは何度も転び膝や手を擦りむく。
その度自分1人でなんとか立ち上がり完治に努めた。
半年が過ぎる頃京子は少し左足を引きずりながらも歩けるようになり学校へ復帰することになった。
約半年のブランクで京子が学校に登校したのは7月10日のそれは朝から酷く蒸す暑い日だった。
三次第一高校の生徒は誰もが静かに京子の通学を見つめ、噂した。
生徒達「あれ、京子じゃない、生きてたんだ」
「橋から落ちて死んだって聞いてたけど」
「よく助かったわね~」
「信じられない、よくまた学校来れたわね」
京子は普通に授業を受け、昼の休憩中にあの時の女達、川崎、神田とその取り巻きに授業が全て終了したら体育館に来るよう言われた。
京子は「分かったわ」
と言うと最後の授業が終わって1人左足を引きずりながら体育館に向かう。
体育館では卓球部とバレー部が対外試合の日で誰もおらず女達4人と澤田が体育館の真ん中で待っていた。京子が彼らの前に立つ。
澤田「わりゃ、悪運が強いのう」
とニヤつきながら言うと
川崎「死んだか思うとったわ」
「でも橋から落ちたんは、あんたのせいじゃけね」
「私ら関係ないけーね」
「恨みんさんなよ」
そう言うと
神田が「バレーしようや」と持っていたバレーボールを力一杯ぶつけて来た。
他の2人も持っていたバレーボールを頭や足を目掛けて投げつける。
澤田はずっとニヤニヤ笑っている。
京子は「良かったわ手間が省けて」と
すると空気の流れが遮断され一気に蒸し暑くなる。
閉まる時の大きな音に女達は辺りを見渡した。
夏の陽射しでまだ明るかった体育館がすっと暗くなり外から激しい雨の音が聞こえてくる。
その時体育館のステージに有る幕から大きな人影が現れた。
川崎は「誰だお前」と怪訝な口調で問いかける。
暗くてよく見えないがこちらに向かって歩いてくる。
よく見ると上半身裸で身体が赤黒い、身長はたぶん2mを超えている。
更に頭に角が左右2本生えていて口からは牙が見える。
そして丸太のように太く、重量のありそうな鉄棒を右手に持っている。
川崎は「お前ふざけんなよ、なんたその格好」と笑った。
すると鬼は鉄棒を持ってる右腕を軽くスイングした。
表情は眉ひとつ動かしていない。
その瞬間川崎の首から上は鉄棒に叩かれ体育館の端の天井まで飛んでいき天井の鉄骨に当たって砕け散った。
澤田は「てめぇ、これでもくらえ」と鬼に右脚でローキックを入れる。
すると鬼は右脚をさっと左手で受け止め、そのまま上に吊り上げると鉄棒を床に置き、左脚を右手で掴んで高々と吊り上げる。
次に造作も無く澤田の体を半分に引き裂いた。
澤田は首から下が真っ二つになり身体の断面から血がブクブクと溢れている。
まだ意識があるのか何か言いたげに口がぱくぱくしている。
他の3人のうち1人はそれを見て腰が抜け後ろに転げながら四つん這いになって走って逃げる。
それを見た鬼は鉄棒を軽く投げつけた。
すると四つん這いになっている背中に鉄棒が突き刺さり床を貫通している。
声を立てる暇もなく絶命しているところに鬼は鉄棒を抜きにゆっくり歩く。
残り2人もその隙に後ろ向きに逃げ出したが鉄棒を抜きとった鬼はそれを回転するように投げつけた。
命中した女子生徒の上半身がぺちゃんこになっている。
最後に残った神田は体育館のドアを体当たりしたりして開けようとしていたが開かないのがわかると座り込み泣きながら
「許して、なんでもする、命だけは助けて」
「ごめんなさい、ごめんなさ」まで言ったとき鬼は目の前に立つと右手を握りしめて神田の頭に振り下ろした。
神田の頭より大きな握り拳は叩きつけると体育館の床が凹む程に平らに潰された。
全て終わって鬼は
「京子これで良いか」
と聞き、京子は
「ありがとう霊鬼」
と言って頷ずくとドアが一つ開きそこから京子は歩いて出た。
体育館を出て数歩歩いた時、落雷が体育館に落ちる。
手抜き工事で良く燃える素材が随所に使用された内装に火が燃え広がり、体育館の屋根が火で覆われると消防車が豪雨で到着が遅れている間に凄まじい音を立てて天井が崩落した。
それを見て京子は赤ちゃんを抱きしめ燃え盛る家で苦しみ抜いて死んだあの日を思い出し、目を閉じ空中から伝わってくる炎の温度を心地良いと思った。
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