第13話 ルビー

 景子の妹 礼子には三姉妹の娘がいた。その真ん中の淳子は京都の龍谷大学に通っていた。


 1年の秋にクラスで日本語が怪しいインド人のクリシュナと出会い、明るく聡明なクリシュナと付き合い始めた。


 大学卒業後、二人は違う会社に就職したがクリシュナからの熱烈なアプローチでお互い25才のとき二人は結婚し、娘のルビーを授かる。


 その後、クリシュナの父が社長を務めるインドの貿易会社に後継ぎとして迎えられた為、ルビーが6才の時、母淳子、クリシュナの家族3人でムンバイに引越した。


 ルビーはその後インドで様々な習い事をしたが、その中で俳優養成所で才能が開花し、子役で映画に出始めるとその内本格的に女優を目指し大学生でありながらポリウッド映画(インドのハリウッド)に主演して主役級の役をもらえるまでになった。


 しかし、彼女の生まれ持った美貌とスタイルの良さを妬む人間はこの世界では特に多い。


 彼女が撮影スタジオを歩いていると、上から照明が落ちてきたり、差し入れで貰う食べ物にホウ酸(毒)が入っていたりと通常ならとっくに死んでてもおかしくない程の嫌がらせが起こる。


 昨日も撮影中のトラックがブレーキ故障でルビーに突進してきている。


 だがルビーは生まれた時から特殊能力を有し、物心ついた時には自在に力を使えるようになっていた。


 ただ母、祖母には特殊能力が無く誰にも相談せず様々な能力を自己流で高めていた。


 故にルビーは特殊能力を駆使してあらゆる嫌がらせを回避している。


 しかし、不思議なのはルビーにはこれらの妨害行為が誰の仕業か仕掛けた物に触れると相手が見えるのだが


     毎回違う人間の仕業だった。


 私を妬む人間がいつもバラバラっておかしい


 まるで黒幕は誰か別の人間がいるかのようだ。


 組織的に妬むなどあり得ないし、


 彼らに共通点も見当たらない


 もしかしたらお金で雇われたか、


 誰かに弱みを握られてるとか、、、


 そんなある8月の焼けるように暑い水曜日、撮影が長引き深夜2時にマイカーのスズキ スイフトに乗りスタジオを出て1人家に向かう途中、南北のムンバイを結ぶバンドラワーリシーリンク大橋の上を走っていると車が急にエンストを起こし停車した。  


 昼間は大量の車が通過するインド初の耐震構造のこの橋も深夜2時過ぎは誰も走っていない。


 街の灯りが美しかったが、全く目にすることなく疲れきっていたルビーは直ぐにスマホを取り出し家に電話した。


しかし、夜遅いからか誰もでない。


 一度車から降りてボンネットを開けてみてもルビーには修理の仕方も分からない。


 諦めてボンネットを閉めたとき、後ろから1台のSUV車がゆっくり近づいてきた。


 橋のライトに照らされた時、車内には3人の若い女性が乗っている。


 ルビーは"助かった"と思い、SUV車に手を振り大声で


「すみません、助けてください」と声をかけた。


 すると、ルビーの車を2、3m通り越し停車して3人の女性が降りてきた。心配そうに


「どうしましたか」


 と笑顔で言ってくれてクルマの前で左右から女性が近づくと急にルビーの腕を両側から奪い、1人が後ろに周んでルビーは羽交締めにされた。


 「何するの!」


 と叫び、前頭葉に力を集中し両側の女性の脳に一気に圧力をかける。


 右の女性は頭を抱えて転がったが、左はまだ腕を引っ張っている。


 やはり二人同時は無理がある。


 左の女性を右手からパンチをみぞおちに叩き込んで倒すと後ろに回っていた女は正面に回ってきてルビーに飛びかかり身体に噛みついてきた。


 よく見ると目が人間の目つきではない。


 まるで狼のように目が剥き出し血走っている。


 ルビーは足で女を蹴飛ばしたが牙が鋭く噛まれた左胸から血が噴き出す。


 蹴飛ばされ後ろによろけながらも体制を立て直し、女がまた飛びかかってきた瞬間 後ろからも先程倒したはずの2人が牙を剥き出しにして噛みついてきた。


 1人は右腕、1人は左脇腹に思い切り牙を突き立てカミソリのように身体を割く。


 顔は青く人間の骨格ではない。


 それを振り払い、正面から襲ってくる大きな牙がルビーの額に刺さる瞬間。


      "もう駄目"


 と思ったが、正面の女の上顎以上の部分が破裂したように後ろに吹き飛ぶ。


 そして後の2人も続けて「ボンッ、ボンッ」という詰まった物が破裂するような音を立てて鼻から上が全て吹き飛んだ。


 ルビーはあまりの恐怖と大量の出血で気を失ったが後ろに倒れる時、チラッと見えたアジア人らしき女性が身体を受け止めてくれたのが分かった。


ーーーーー


 橋の上では辺り一面に散乱した脳と頭蓋骨の破片が散らばっていたが、頭の無い体と共に数分で空間に出来た暗い穴に吸い込まれていった。


ーーーーー


 ルビーが目を覚ますとベットに寝かされていて周りには母 淳子と初めて見る年齢50代位のアジア人女性が座っている。


ルビー「イタタタ」

   「私どうなってるの」


淳子「目が覚めたのね」


ルビー「私助かったの」


淳子「貴方本当に危なかったのよ」

  「ここにいる景子おばさんが貴方を救ってくれなきゃ、本当に天国に旅立ってたわよ」


景子「初めまして、私は貴方のお婆ちゃんの姉よ」


ルビー「凄く若く見えるんだけど、、、」


景子「嬉しいこと言ってくれるわね、身体が良くなったらいろいろ教えてあげるから今は治療に専念してね」


ルビー「あ、ありがとうございます」


 ルビーは景子に聞きたいことが山ほどあったが麻酔がまだ効いてるみたいでまた眠りについた。


 傷口が塞がり退院出来るまで2ヶ月を要したが、


 その間病院でルビーは景子といろんな話をした。


 代々引き継がれる特殊能力やその高め方

 

 日本が直面している危機や景子がルビーの危険を察知して来てくれた事、


 また、あの時の橋の上の女はヤクシニーと呼ばれるインドの鬼であることなど。


景子「貴方はきっとまたヤクシニーに襲われるわ」


  「それにヤクシニーも誰かに裏で操つられてるわ」


  「だからいくらヤクシニーを倒してもキリがないの」


ルビー「だとしたら、その操ってる奴を見つけなきゃね」


景子「その通りよ、私に任せて、貴方が退院するまでに調べとく」


 退院した夜、深夜1時丁度にルビーは母や父に気付かれないよう物音を立てずにそっと家の玄関に出た。服装は黒く硬い生地の服が景子から渡されていて、それを着用する。


 すると家の前に最新型のトヨタ ランドクルーザーが停車した。


 ルビーは景子が運転するその車に出来るだけ音を立てずに乗り込むと、ランドクルーザーは矢のような速さで家から離れていった。


 深夜2時に二人が到着したのはデリーの外れにある半壊した寺だった。


 寺の前は野良牛が一頭寝ている。


 深夜月明かりで照らされる寺は庭の草が伸び放題で塀は至る所が崩れている。


 寺の屋根も半分は落ちて穴が開いているようだ。丑三つ時うしみつどきこの時間は虫の声しか聞こえない。 


 景子とルビーは扉が半分無くなった門を潜り抜け中に入る。

 

 すると1人の痩せたインドの民族衣装、黄色いクルタを着てターバンを巻いた男性が崩れかかった寺から出てきた。


景子「夜叉やしゃね」


インドはヒンドゥー語だかテレパシーで会話が可能である。


景子「また人間に悪さをしてるようね」


夜叉「よくここに辿り着いたな」


 夜叉が冷静に真顔で返す。


景子「なんでこの子に貴方がちょっかい出すのよ」


夜叉「最初はその女を妬んだ人間からの依頼だったんだが、、、」


「その女が力を持ってることが分かったから、少し試してみたんだ」


「するといずれ俺たちと敵対する能力を持っていることが分かった」


「だからその女は早く消してしまうことにした」


「さぁ、もういいかな」


「では、これで終わりにしよう」


 月灯りの影ができたと思ったら夜叉は鬼に姿を変える。身長2m近く夜の闇に匹敵する黒い肌で頭に2本の角が有る鬼が現れた。


 夜叉が小声で呪文を唱え始める。


 すぐさま2人共立っていられない程の揺れが始まり、地面が割れ始める。


 割れた裂け目を見ると物凄く深い。


 まるで地獄まで達するような深さで地面がバラバラに裂ける


 景子とルビーはなんとか裂け目の間の地面で体制を整えると手を繋ぎ念力を集中した。


 俯いたまま2人は一気に前頭葉からのパワーを数秒で最大限引き上げ夜叉めがけてぶつける。


 凄まじい風切り音と共に夜叉はまるで大型のギロチンカッターが身体に追突したように手足頭全てが根元からブチ切れ胴体だけが一瞬宙に浮いたほどである。


ルビー「終わったわ」


景子「そうね、だけど夜叉は悪意を持った人間の集合体だからまた直ぐに復活するわよ」


ルビー「本当キリがないわ」


景子「ルビー、日本に来て」


「日本は闇から甦った鬼の策略でこれから未曾有の大災害を迎えるわ」


「その鬼達と戦えるのは私達だけ」


景子はルビーの方を見た。

「一緒に戦える?」


 ルビーは笑顔で頷きうなずき、完全に崩れた門を跨いで2人はランドクルーザーに乗り込むと景子はアクセルペダルを静かに踏み込み、夜の闇に消えていった。

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