第12話 死後の世界

 天童京子は橋から飛び降り自分でも死ぬと思った。


 しかし、生きている。


 怪我もしていないようだ。


 ここはどこだろう、辺りを見渡すと暗い平野に京子1人立ちすくんでいる。


 辺りは薄暗く夜明けか夕方か分からない。


 平野の先は暗くて見えない。  

 

 霧がかっている。


 何時間かしてよく考えると自分が死後の世界に来たことを途中で気づく。


 取り敢えず誰かいないか歩き始めるが誰もいないし地面の土以外何もない。


 歩き続けて何時間、いや何日経ったかも分からなくなってきたころ向こうに家が一軒見える。


 近付いてみると藁葺き屋根の古い日本の家みたいだった。


 誰かいるかもしれないと思い走って家に行くと、家には年老いたお爺さんとお婆さんがいて座ってお茶を飲んでいた。


 二人は京子が家を尋ねてきたのでとても驚いた。そしてお婆さんが


 「まぁよくきんさった。取り敢えずお茶でも飲んでゆっくりしてって」とお茶を勧める。


 お腹も空かず、喉も乾いてなかったが


 「ありがとうございます。」


 と何も香りはしないが、ほうじ茶のような色合いのお茶を一口飲んだ。


 すると、京子は一瞬目の前が真っ暗になり生きていた時、火のついた矢に刺されて赤ちゃん共々焼け死んだこと、クラスメイトの裏切りと壮絶なリンチにあったことなどが頭の中を支配し凄まじい恨みと悲しみの感情が蘇った。


 途端にその場で唇を噛み締め


「許さない」


「全ての人間を絶対許さないと」


 と、悔しそうに話し始めた。するとお爺さんは 


「貴方のような人をずっとずっと待っていたよ」


 と言うと優しい笑みを浮かべながら姿が牛鬼と馬鬼に変わっていった。


 京子は嬉しかった。誰にも言えなかったこの怨み辛みつらみを初めて話せた上に理解してくれる者達がいることに。


 京子は牛鬼の胸でこれまでの苦しかった気持ち、信じていた人に裏切られて悔しい気持ちが溢れてきて大声で泣いた。


 牛鬼は黙って京子を優しく抱きしめた。


 京子が泣き止んだとき顔を上げると家の周りに大勢の鬼達が並んでいる。


 京子は牛鬼と馬鬼に促され家から出ると大勢の鬼達は道を開けた。馬鬼が


「俺たちの頭領を紹介するからついてきなさい」と言った。


 家の外の鬼達が道の端の両脇に大勢並ぶ。


牛鬼「この鬼達は人間だった時散々悪事を重ねてきたやつらの成れの果てだ」


 と教えてくれた。


 確かに頭に角はあるが、元人間のなごりがあるように見える。

 

 顔を見ると残忍な薄笑いを浮かべているもの、ブスっとした仏頂面顔をしているもの、ふざけて笑い転げているものなどまるで人間のようだ。


 少し歩いていると道の先に城が見える。


 "さっきまで無かったのに"


 そう思いつつ近くまで来てみると城は3重の塔になっている。


 正面の門をくぐると大勢の鬼達が中庭で立ってこっちを見ていている。


 外の鬼達と違い肌も見た目ザラザラしているし体格も大きく頭に角が生えてて口には牙があり鬼らしい鬼だなと思った。


 彼らは牛鬼、馬鬼に敬意を払って俯いている。建物の入口の階段を登り立派な鉄の門を開けて3人は中に入る。


 建物の中に入ると木製の階段を上がり3階まで上がる。


 見るとそこは金の装飾が美しい部屋で中央に大きな木製で彫刻が施された椅子があり、そこには20~30代くらいの美しい端正な顔立ちで身長180cmくらいの白い着物を着た男性が座っていた。


 彼は3人が到着し、牛鬼から京子を紹介されると立ち上がり京子に近づいてくる。


 京子は一瞬彼の美しい目に吸い込まれそうな感覚を覚えた。白い着物の男性は


「私は霊鬼と言います。京子さんのことはずっと前から存じ上げています。」


「長い間お待ちしておりました」


と話して手を握ってきた。


京子は「どうして私をご存知なんですか」

 と問うと


霊鬼「ヤソガミ一族が栄えた時代から今まで貴方達の無念は語り継がれております」


  「ここにいる私達も人間に怨みを持つ者ばかりです。」 


  「貴方様のお力になれるようあらゆる協力をさせていただきます」


  「ここで貴方様にニライ様からの特別な力を分けてもらえるよう頼んでみます」


  「さぁ私と一緒にニライ様の眠る部屋で今晩から祈りを捧げましょう」と言うと


 京子だけが霊鬼に連れられて城の地下室に移動した。


 真っ暗な部屋に約3メートルの大きな平たい岩があり、その両脇に2本の蝋燭が立っている。


 岩の前に霊鬼が正座し、その右隣に正座するよう言われ霊鬼が呪文を唱え始める。


 京子は霊鬼の隣にゆっくり正座し、俯き目を閉じる。


 真っ暗な地下室では夜か朝かも分からない。


 どのくらい時間が経過したかも分からない。 


 霊鬼の呪文が地下室に響く中で蝋燭ロウソクが急に勢いよく燃え始めると目の前の岩がガタッと音を立てた。


 京子は驚いて飛び上がりそうになったが、身体が動かなくなってることに気づき目だけを開ける。


 すると徐々に岩が奥にずれ始め、岩の隙間から茶色く体毛に覆われた指が何本か見える。


 その後岩が30センチくらいまでズレた時、岩の下から人とは思えない茶色く太い腕が出てきて京子の右腕を掴んだ。


 京子は気が動転し意識を失った。


 しかし、頭の中に声がする

 

「お前が京子か、理由は分かった。この力をお前に分けてやろう」


 と聞こえた。

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