第6話 ニライ

 家の外に出てみると3人の女性が手下の男達を全員倒し、念力でどろどろに溶かして家の周囲はタールを流したような状態になっている。


 5人の女性と美久、佳奈はハイタッチしたり、抱擁したりしながら


サリーを着た女性

「待たせてごめん。でも間に合って良かったわ」


 金髪の女「ちょっと遅くなっちゃった」


 佳奈「ありがとう。助かったわ」

   「さぁ景子のところに行こう」


 女性達は全員が当然のようにハイエースに乗り込んだ。武司も腰が曲がったまま左のスライドドアから後部座席に座るとハイエースの窓から家の駐車場に止まっているカローラフィールダーが目に入った。


 既に火の手が回り内側から火柱が立ち、"ボンッ"と大きな音がしている。やっと建てたマイホームも2階の前面が崩れ落ち一階の全ての窓から炎が吹き出しているが消防車はまだこない。


 武司「ああっ、まだローンが」 


   「あああああっ」


 と言いながら頭を抱えてうな垂れた。すると隣りに座っていた佳奈が


「パパまた買えばいいわ、戦いは始まったばかりよ、気にしないで」と武司を慰め背中に手を置いた。


 ハイエースは集まり始めた近所の人達を背に猛スピードでスタートした。


 車が湾岸線の船橋ICに入ってから佳奈は武司に5人の女性を紹介し、女性達は各国の挨拶をした。


 サリーを着た女性「出身はインドで名前はルビーよ」


 ルビー「ナマステー、タケシさん」彼女がハイエースを運転している。


 金髪の女性「出身はカナダで名前はジェニー」

ジェニー「ハロー、タケシ」


 黒髪を三つ編みにした女性「彼女の出身は中国で名前はリン」

 リン「ニイハオ!」


 茶髪で髪はストレイトヘアー「出身はアメリカで名前はローラ」

 ローラ「ナイストゥミーチュウ、タケシ」


 黒いストレートヘアーの髪で黒人。身長が高く体格も大きい。

「彼女の出身はフランスで名前はドナ」

 ドナ「ボンジュール」


 全員がトップモデルのような身体で身長も高い、年齢は20から30才の間に見える。


 近寄りがたいほどの美しい顔立ちに武司は先程のショックも忘れ日本語で「こんにちわ」と言うのが精一杯だった。


 佳奈「私達のご先祖様のヤガミヒメは神様が奪い合うほどの絶世の美女だったから遺伝してるでしょ」


 と笑った。武司は「例外もあるような」とつぶやき佳奈におもいきりお尻をつねられ


「嘘です!、すみません」と言って飛び上がり車内は笑いに包まれた。


ーーーーー


 西暦610年の1月、粉雪が舞い、地面が白くなり始めて身も凍るような寒い朝。


 味方の部下約百名を連れオオナムチはついにヤソガミの最後の1人ニライを追い詰めていた。


 ニライの住む屋敷を取り囲み、部下達は弓矢に火をつけ始めた。 


 ヤソガミ一族に2度も命を奪われて、神の力で復活したオオナムチは迷わず味方に火のついた矢を放つよう命令した。


 屋敷の中ではニライとその妻、そして生まれたばかりの赤子がいたがオオナムチはどうすることも出来ず妻と子供を抱きしめている。 


 妻「貴方助けて」


 ニライ「おのれオオナムチ」


 火はすぐさま茅葺き屋根から広がり始め、木の柱も黒い煙を大量に上げながら火が吹き始めた。ニライは窓に駆け寄り大きな声で叫んだ


「俺たちが悪かった。ヤガミヒメにももう手はださない」


「妻と子供だけでも助けてくれないか」


「彼女には罪はないんだ」


 しかし、オオナムチの部下達は次々と火のついた矢を放ち窓の隙間から入った矢はニライの赤子の胸に突き刺ささる。


 ニライも背中、肩に何本もの矢を受けニライの妻も肩や首に矢が貫通してきた。


「おのれ、オオナムチ」


 次の瞬間ニライは頭に3本の矢を受け、妻の方を向くと、矢が山のように飛んできて背中に数十本の矢を受けハリネズミのような姿になった。


 ニライは声も発せず板の間に膝から崩れバタンと床に倒れた。


 ニライの妻は炎で崩れていく壁の隙間から入ってくる何百という矢に身体を丸めて既に泣くことも無くなった赤子を守っていたが、こう呟いた


「おのれ、オオナムチいつか必ず、必ず復讐してやる」


 次の瞬間、彼女の背中にブスブスと数十本の矢が突き刺さる。


 凄まじい激痛にもかかわらず、悲鳴を押し殺して耐え忍んでいたが火が彼女と赤子を包み込み、二人にまとわりつくように火柱が立ったとき妻は凄まじい悲鳴を発したかと思うと断末魔の叫び声を上げた。


 そしてニライの家は内側に崩れながら天高く炎が舞った。


 オオナムチ達は粉雪からぼた雪に変わって辺り一面白銀の世界になりつつある風景の中で、空高く円を描きながら舞い上がる真っ赤な炎をただ見つめながらヤソガミ一族との長い戦いが終わったことに安堵した。

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