第5話 ルーツ
家に着きリビングで佳奈をソファに寝かせてから美久は武司に初めて自分の能力や佳奈、景子の能力について話した。
そしてこの1年佳奈がリボーンに潜入捜査のため入信し、多額のお布施を支払いリボーンの幹部に昇進、上層部に近づき情報を得ようとしていたこと。
素性がバレて捕らえられたことを美久はテレパシーが途切れたことで察していたことなど。
また武司への不審メールについて美久は推測だけどと前置きをして話し始めた。
リボーンでは武司に内緒で佳奈が入信していたとは知らず佳奈が失踪して行方不明ということにして死体を処理する時間を稼ぐ魂胆でメールを送っていたと思われる。
メールアドレスを知っていたのは佳奈が入信時に緊急連絡先として武司のアドレスを記入していたのであろう。
そして電話に出た景子や家にあった置き手紙はリボーンの妖術による幻覚と思われる。事実今その手紙は見当たらない。
美久には通じないが一般人のパパは簡単に騙されたのでは。しかし、今も景子の脳波が途切れ途切れでテレパシーが使えない。何かあったに違いない。と話した。
武司は初めて聞く話の連続に「信じられない」と何度も呟いたが先程の美久の能力や目の前で時折り苦しそうな表情をする佳奈を見ると信じざるを得なかった。
そして美久は毎週水曜日に佳奈と帰省する秘密を話し始めた。
景子と佳奈は代々引き継いだ美久の能力を限界まで高めるため鶴見川沿いに立つビルを一棟借り、海外5カ国に散らばっていた優れた超能力を持つ山神家末裔の5人の女性を日本に呼び戻し、この1年全員で力を集中し能力を高め合っていた。
リボーンの教祖天童京子との最終決戦に向けた準備のため全て景子と佳奈が長い時間をかけ用意を重ねて来ていたことだった。
景子は日本転覆を目論む天童京子が取り返しのつかない大災害を発生させようとある計画を進めているのを予知能力で掴んでいた。
これを阻止すべく生まれて来た美久は凄まじい能力を持っているが、闇の世界で全ての鬼を従える天童京子の能力も計り知れない。
美久の力を神の領域まで高めるべく5人の超能力者と出雲大社の宝物庫に保管されている
また、美久は山神家のルーツについて語り始め
美久「日本で最古の歴史書、古事記に登場する日本を創世した| 大国主大頭《オオナムチ》のミコトの妻
美久「天童は殺されたヤソガミ達の恨みを晴らし彼らが目指した日本転覆を果たすべく自ら闇に落ちてあらゆる妖術を身につけて鬼達を支配しているの」
その時ソファで横になっていた佳奈が口を開き「天童京子も水晶を狙っているわ、そして天童に仕えている牛鬼、馬鬼とその上にいる
と情報を追加した。武司は話の途中からお湯を沸かし始め、時折頷きながらもカップ麺をいくつか出して来て美久に
「どれにする」と聞いてきた。
美久は赤いラベルのうどんを指差し、武司は聞いてるのか聞いてないのかうどんのカップ麺2つに真剣な眼差しを向け、湯気が上がるお湯を注ぎ始めた。すると佳奈が上半身だけ起き上がり
「私もうどんで」と笑みを見せた。
ーーーーー
3人でカップ麺を啜っていると、武司はリビングのカーテンに人影のようなものが見えた。うどんを口に入れたまま
「だれかいる」
と口にした瞬間、佳奈と美久はテーブルに箸を置き
佳奈「来たわね」
美久「うん、けっこういるよ」
武司が恐る恐るカーテンを開けるとガラスの向こうに3人の黒い服を着た男性が立ち無表情でこちらを見ている。武司は
「うわあっ」
と、どこから出たのか分からないような声を上げ後ろに転げる。武司は腰が抜け、辺りを見回すと台所の窓にも数人の人影が映る。美久が口を開き
「パパ落ちついて、この家には私とママで結界を張っているから簡単に入ってこれないよ」
しかし、外の男達が俯き呪文を唱え始めると同時に壁がミシミシと音を立て揺れ始めた。
美久と佳奈が玄関の方に振り向くと"バコッ!"と何かが凹んだような音がして、続いて家中がバキバキと崩れるような音を立て始めた。
この時武司の家は20人以上の黒い服の男達に取り囲まれ、玄関には取り分け体が大きいタイガが立っていた。タイガは一瞬うずくまって起き上がると頭だけ牛に変身していた。
牛鬼となったタイガは雄叫びをあげ、口から凄まじい炎を吐くと結界を突き破り玄関の扉が真っ赤な熱を帯びて炎に包まれた。
その時美久と佳奈は腰の抜けた武司を守るため、真上から落ちてきた天井板を手を上にあげて念力を使って空中で止めていた。
その間に牛鬼は火のついた玄関を片手で引きちぎって放り投げ、家の中に侵入してきた。
牛鬼は涎を垂らしながら火の手が回り始めた廊下を歩き、リビングの扉を蹴飛ばして美久と佳奈の前に立ちはだかった。
美久は武司を守るため右手は天井に向け、落ちて来そうな天井を空中に押さえつつ左手で結界を作りながら牛鬼と睨みあう。
牛鬼が口から火炎放射器のごとく凄まじい火を吹き、美久の作った結界が真っ赤に熱を帯び始めたとき急に牛鬼は体の自由が効かなくなり、振り返ると黒髪をうしろに纏め黄色いサリーをまとったインド人の女性が必死に鎖を引っ張っている。
よく見ると牛鬼の体には何本もの鎖が巻かれているのがわかった。牛鬼は
「小賢しい真似を」
と叫び、全身に力を込めて鎖を断ち切ろうとした瞬間もう1人金髪の女性がインド人女性の背後から現れて長い槍で牛鬼の胸を突き刺した。
「これは本物のロンギヌスの槍だから、貴方に勝ち目はないわ」
「サン、ピエトロ大聖堂からちょっと借りてきちゃった」
と金髪の女は悪戯っぽく笑い、槍を一度抜いてすぐさま振りかぶり全身の力を込めて牛鬼の眉間に突き刺した。
刺された眉間の槍は牛鬼の頭を貫通している。牛鬼はそれを引き抜こうと右手で掴むも無言のまま膝を曲げゆっくりその場に倒れ込んだ。
それを見届けた美久は天井を佳奈に任せ、腰を抜かした武司を背負ってリビングを飛び出す。
佳奈は2人の女性と美久達がリビングを出るのを確認して天井に向けた手に念を込めて上に突き出し、落ちそうな天井を出来るだけ上に浮かすと、それが落ちてくる寸前に間一髪飛び出した。
リビングを飛び出す瞬間牛鬼をチラ見すると、倒れた牛鬼からは強烈な腐敗臭が立ち込めぶくぶくと音をたてながら蒸発し始めていた。
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