第4話

「夢を売ったり買ったりするってどうやってんの?」

「その、私が、チラシを見つけて、それで、気になって」

「てかさ思い出というか記憶?も夢で見たなら売れんだよね?」

「で、あの、この子が、売った夢を、すぐに、私が、買うっていうのも、できますか?」

 ロリータファッションというのだろうか、レースやフリルがたっぷりと使われたブラウスに、大きく広がったスカートを身につけた二人が、交互に口を開いた。対応を代わってもらえないかと店長に視線を向けるが、彼は素知らぬ顔で、レジの横に置いたパソコンをいじっている。

 私は首元の蝶ネクタイに軽く触れ、二人に向き直った。

「売買の方法については企業秘密ですので、お答えできません。それ以外でしたら、全て回答はYESですね」

 答える私の服装は、白いシャツに黒いベストと同色の蝶ネクタイ、ベストと同じ生地で仕立てられたスラックスに革靴と、まるでウェイターだと言われることが多い。けれども、今日の客たちは、私の見目には興味も疑問もないようで、矢継ぎ早に言葉を投げかけてくる。

「じゃあさあたしがベトナムでパクチーにハマったときの夢をアイに見てもらおう」

「そうね、そうしたら、アキと行けるお店、増えるわね」

「アイのはさ何処だっけ?海でイルカを見たってやつ」

「あぁ、子供の頃、沖縄ね」

「それ!あんなに楽しそうに話すんだもんアタシにも見せてよ」

 見た目の印象はそっくりだけど、早口で途切れなく喋るアキと、区切り区切りに言葉を発するアイとでは、ずいぶん対照的だ。服装もよく見てみれば、水色のスカートに白いブラウスのアキと、ピンクのスカートに黒いブラウスのアイと、互いが互いの2Pカラーみたいである。

 店長が会計を済ます合間に、そのことを口にしてみると、二人は嬉しそうに笑った。

「せっかく仲良くなったんだもん!双子コーデってやつですよ」

「同じ服を、色違いで、いっぱい、買ったんです」


 その言葉通り、店を訪れるときの二人は、同型異色の服装だった。三日と明けずに通い詰め、互いの記憶を交換する様子は、私の目には微笑ましく映る。

「やっとタイ料理のお店に、行けたんですよ」

「けどアキってば『普通』なんて、言うんですよ。あんなに好きだったのにね」

 パステルカラーのワンピースは、今日はアキがピンクで、アイが水色だ。淡い色で光を通すふんわりとした素材のせいか、どちらも白っぽく見え、二人をますます双子のように感じさせる。

「アタシが知らない絵画とかにアイは詳しいから、ずいぶん頭がよくなった気がする」

「あら、わたしの方こそ、好き嫌いが減ったって家族に驚かれてるんだよ」

 さえずる小鳥のようなお喋りは薄暗い店の中を華やかにしてくれる。二人の来店は、私自身にも楽しい時間をくれるのだった。


 定期試験明けの久しぶりのアルバイト。細々とした伝達事項を述べたのち、今日も黒づくめの服装で決めた店長は、ついでのようにアイとアキの名前を挙げた。

「夢と記憶が混ざってくると、似てきますからね。気をつけてください」

 その意味を問い質すより早く、店の扉が開く。四角く切り取られた光景の中に並んだ姿。

 真っ黒のスカートは肩を寄せた二人の間で押し潰されている。大きな白い襟を飾るリボンはどちらも真紅色。二つに結んだ髪に付けられたリボンから、甲に留め具のついた底の厚い靴まで、形も色も、まるっきり同じものを身につけている。

「えっと、どちらがアイさんで、どちらがアキさん……?」

 恐る恐る問いかけた私に、けれども二人は笑みを返す。

「どちらでも良いわ。それよりもワタシたちが昨日見た夢を、交換させてください」

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