第64話 本当の気持ち

(お母様(松永満美)視点)


「教えて、あなたの過去」



 ……もう、いいか。



「わかったわ」

 

―――――


 昔からお姉ちゃん(芽実めぐみ)と私は比べられることが多かった。



『お母さん見て! テストで80点!』


『でも芽実はいつも100点よ、お姉ちゃんみたいになりなさい?』


『……うん』



 私は確かに要領も悪いし、運動神経も顔も普通だ。

 それに比べてお姉ちゃんは美人で明るくて、頭もいい。贔屓されるのは仕方ない。けど……。



『たまには、ちょっとくらい褒めてくれてもいいじゃんか……』


『うんうん。お母さんたちは満美の魅力に気づいてないんだよね』



 幼い私が一人で泣いていると、お姉ちゃんはよく私の部屋に来て一緒にあやとりとか色々なことをして励ましてくれた。そんなお姉ちゃんが大好きだった。

 だけど高校生くらいになると、お姉ちゃんが本当に邪魔だと思うようになった。



『満美、またお母さんたちに酷いこと言われたの? あんなのは――』


『うっさいなぁ! いっつも褒められてるお姉ちゃんには分かんないでしょ!? なんなの煽りなの!?』


『そういうつもりじゃ』


『もう出てってよっ!』



 そんな喧嘩ばかりしてる内に、どんどんお姉ちゃんとの距離は広がっていき、親からも『なんで芽実に酷いこと言うの!』と怒られ、家庭内でほぼ孤立していた。

 お姉ちゃんが一人暮らしを始めて、私は喜びと同時に寂しさと後悔があった。


 お姉ちゃんが結婚して、子供が出来たって聞いた時は、心底羨ましいと思った。私は彼氏すらいないのに。



『ま、満美? 芽実がっ、うぅ、芽実がっ……! うぁぁああ――!!』



 電話越しに聞いた、母の泣き叫ぶ声。

 何回も「死ね」って言ったけど。消えればいいのにって思ったけど――



『……っごめん、お姉ちゃん……!』



 本当に居なくなったら、涙が止まらなかった。


―――――


 しばらくして、お姉ちゃんの子供を引き取ることになった。

 多分、その頃には――いや、ずっと前には私の思考は壊れていた。


 勉強が出来なかったら私みたいになってしまう。

 この子には私みたいになってしたくないから、勉強させるしか無い。

 その方がきっと幸せな人生を送れるに違いない。



『私、お外で遊びたい』



 なんでそんなこと言うの。あなたのためなのに。

 なんで言う事聞いてくれないの。

 なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで――


―――――


『お母様、文化祭は休んで図書館で勉強するね』



 そう言ってくれたから信じたのに、なんで学校に行ったの。

 そう思って連れて帰ろうとしたけど――



『おかえりなさいませ、お嬢様』



 何よこれ。みんなメイド服を着て、カラフルに教室内を飾り付けて。

 私にはなかった、青春を楽しんでて。


 ――笑っちゃうじゃない、こんなの。


 本当に楽しいのね、学校。

 お姉ちゃんだって私のこと、いい人だって思ってくれてたのに。


 私はなんて、馬鹿なことしてるんだろう。


―――――

(飛鷹裕也視点)


「……こんな感じ。結論から言うと、ただの自業自得な話ってだけよ」



 俺はどういう反応をしたらいいか分からず黙っていると、後ろから唐突に泣き声が聞こえた。



「ぅ゙ぅ……複雑! 複雑だよぉぉおぉ゙!! ねえ! 辛かったですねぇぇえ゙!! ずびっ」


「「「そんな泣く!?」」」


 

 思わずあの“お母様”――満美さんもツッコむ程には泣いていた。

 クラスで一番すぐ泣いてしまうクラスメイト、凪伊手舞兎天ないてまうて


 彼女があまりにも泣くせいで、クラスの雰囲気は少し軽くなった。

 クラスメイトも柚や凪伊手の周りに群がって慰める。



「柚〜! 頑張ったねぇ、頑張ってきたんだねぇ!」


「べ、別に泣いてないしっ……」


「お母さんも、取り返しのつかない悪いことしちゃったけど、過去聞いてからだと一概に悪いとは思えないよぉ!」


「え、いや、でも私は――」



 クラスメイトたちに抱きしめられて困惑する満美さん。

 雰囲気がほんわかしかけていたその時、満美さんが放った言葉で空気は一気に凍りついた。



「でも私は! 裕也くんを記憶喪失にさせたのよっ……!」

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