第60話 文化祭①
そしてあっという間に、文化祭当日。
「「「おかえりなさいませ、ご主人様、お嬢様」」」
不思議に思うんだが、なぜ初めて来た客に「おかえりなさいませ」って言わないといけないんだろう。
なんでそんなどうでもいいことを考えてるか? そんなの決まってるだろ。
「ゆうちゃん、メイド服似合うとるね!」
「改めて言うな!!」
メイド服を着ているからだ! 決して俺に着たいという意思があったわけじゃないけど着せられた!
あと松永、執事服似合いすぎだろ。客も見惚れてるよ。
「あの子めっちゃかわいくね?」
「それな! こっち来ねぇかな〜」
……別に嫉妬とかではないけど松永に話しかける。別に、断じて嫉妬とかではない。
「接客は俺に任せて、一回休憩してこい」
「ありがとの、ゆうちゃん」
後ろからチッって音が聞こえた気がする。聞こえなかったふりをしよう。
「あーあ。誰だよあれ。地味に女装似合いやがって」
嘘だろ? 俺似合ってんの?
「でも俺はあの子のほうがタイプかも」
「あー、あの黒髪の子?」
「そうそう。あんなかわいい子うちの高校いたんだな」
「うわぁ、あの子肌白っ! ザ・清楚女子って感じ〜」
「わかる! い〜な〜」
もしかしてみんな言ってるのって……
「ご、ご注文は以上でよろしいでしょうか……?」
「はーい。てか君かわいいね。一緒に文化祭回らね?」
「えっと……」
森さんだ。今日はコンタクトでポニーテールなので、いつもとのギャップがすごい。
今朝登校してきた森さんを見て、クラスメイトがめっちゃ驚いていた。
あー困ってる困ってる。典型的なナンパの仕方だな。
さてどうしようか。俺がそう考えていると、いつの間にか大野が俺の隣にいた。
「文困ってるから行ってくるわ」
「おー……お!?」
急にイケメンモード入るのやめて!?
とツッコもうとしたときにはもう隣にいなかった。行くの早いなおい。
「申し訳ありませんご主人様、この執事は私と文化祭を回る予定でございますので、お引き取りください」
そうやって森さんの肩を引き寄せながら営業スマイルで言う大野。
うわっ、イケメン。メイド服まで着こなしそうな勢い。……いやそこまではいかないか。
「ちっ」
うちの喫茶で醜い争いをしないで下さい……。
あっちこっちで嫉妬が勃発しすぎだろ。あと大野と森さん、早く付き合え(俺が言えたことじゃない)。多分まだ気持ちに気づいてないパターンだな。見てるこっちがもどかしい(俺が言えた以下略)。
「えーっと、あったあったここだ! 二年三組の出し物は……」
「『全力! 男装&女装喫茶〜ここらで一回休憩してこ〜』……」
待て、今聞き覚えのある声が聞こえたぞ!? あと店名を読み上げられるとちょっと恥ずかしい!!
来るな……入ってくんじゃねえぞ……俺の予想通りの展開になるんじゃねえぞ……。
「ぷっ、絶対面白いじゃん! 行こっ、遥乃!」
「ふふっ、笑っちゃいけないんだろうけどね。行こっか、陽茉梨」
やっぱり陽茉梨と遥乃ちゃんだったぁぁあ!!
妹と妹の親友が俺の女装を見て誰が得するんだ!?
俺は思わず大野に縋り付いた。
「お、大野……頼む、お前の強靭な肉体で俺を守ってくれ……」
「ちょっと何言ってるかわからん」
「は、早くしてくれ!」
そうこうしている間にも後ろから「おかえりなさいませ、お嬢様方」という声が聞こえ、俺はさらに焦る。
こうなったらどこかに隠れるしかっ……!
「あっ、おにいー。来たよー……くっ、ぷぷっ」
「お久しぶりです、裕也さん。えっと、その……似合ってますねっ……」
「終わった……」
俺の人生終了した。
おい、やめろ。クラスメイトよ、俺に同情と哀れみの目を向けるんじゃねえ。
絶望を超えて悟りを開き始めた俺と対照的に、陽茉梨はにっこにこの笑顔で「じゃーあー」と言った。
「せっかくだし、おにいに接客してもらおうかな?」
「そうだね!」
あれ、遥乃ちゃん? そんなに人を面白がるような子だったっけ?
陽茉梨と同じくらいノリノリなんですけど。
「えっ、ちょ、ちょっと待っ」
「飛鷹裕也、お嬢様方二名からご指名入りまーす!」
「「「ありがとうございまーす!」」」
なぜホストみたいになってる!? いや口調は居酒屋のノリだな!
くそ、もうこうなったらヤケだ!
俺はコホン、と咳払いして言った。
「ご、ご注文はいかがなされますか」
「じゃあ……この『ふわふわ♡肉球オムライス』で」
「私はそのオムレツバージョンを……」
ほう、遥乃ちゃんがオムレツなのか。意外とお肉好きなのかな?
普通のオムライスにケチャップで肉球を描いただけのメニューなんだけど、うちの看板メニューになってるんだよな。別にオムレツバージョンまで作る必要無かったと思うけど。
「すぐにお持ちしますね。……お、お嬢様」
「おにい、変に照れないでくれる? 共感性羞恥が発動するじゃん」
「知らねえよ」
なんでそんな品定めしてくるの?
その後も散々からかわれ、謎にスリーショットを撮って陽茉梨たちは帰っていった。
ちょうど俺のシフトも終わり、メイド服を脱いで制服に戻る。
着替え部屋を出ると松永がいた。
「ゆ、ゆうちゃん、その……えっと」
え、照れてる? 照れてるとかかわいすぎないか? ん?
何を言いたいのかは何となく分かる。
だが!
だからこそこれは俺から行かなければ! 男としてのプライドが!
「松永、文化祭一緒に回って欲しい」
「う……うちも! それ言おう思うとった!」
こうして、クラスメイトの生暖かい視線が突き刺さる中、一緒に文化祭を回ることが決定した。
松永ははにかみながら続けた。
「ありがとの、こうやって文化祭を楽しめるのも、ゆうちゃんのおかげじゃ!」
俺は体育祭の後のことを思い出した。
△▼△▼
こんな青春が欲しかっただけなんだ(文化祭一人で楽しんだ学生時代)。
投稿遅れてすみません!
59話、ちょっと修正しましたのでよかったら読んで下さい!
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