第51話 騎馬戦

 今朝アップしたのは昨日の分で、こちらが今日の分の話です。

 昨日は更新できず申し訳ございませんでした。


△▼△▼


 今日は体育祭当日。



「白組、絶対勝つぞー!」


「「「おぉぉぉぉおおおおっ!!!!」」」



 雲一つない晴天、誰一人欠席していないクラスメイトと円陣を組む。

 適当に円になったら、なぜか松永が隣になった。心臓に悪い……。


 松永と密着している腕とか肩とかがとんでもなく熱いのは、夏の暑さのせいだ。


 体育祭特有の盛り上がっている雰囲気のおかげで、殺気があまり感じられない。

 勝利に夢中なんだから、俺と松永に興味がないのは当然だろう。

 

 ふと松永の方を見ると、たくさんの生徒――主に男子に、囲まれていた。



「ま、松永さんっ! は、ハチマキ交換して下さい!」


「いや、俺と!」


「僕のハチマキを!」



 うわー……。

 「ハチマキを交換した二人は、付き合える」って噂、信じてるんだな。噂ってすごい。


 でも、残念。松永の答えは――



「すまんけど、出来んけぇ」


「そ、そんな……」


「なんで!?」


「かえっこしたら、意味のうなってしまうもん」



 やんわりと断りながら、ちらっとこっちを見て微笑む松永。

 まるで、「ねぇ?」と同意を求めているかのように。


 不覚にもドキッとしてしまう。いや、不覚じゃない。これは確実に落ちた。いやもう落ちてるけど。


 もう! 考えがまとまらねえよ! 全部夏の暑さのせいだ!



「い、意味ってもしかして――」


「ほらっ、体育祭始まるけぇ! みんなで頑張るんじゃ!」


「「「はい!」」」



 すげえ。松永の笑顔とガッツポーズに全員黙らせた。もちろん俺も例外ではない。

 かわいすぎる。初っ端から熱中症にさせる気か。


 みんなの士気が高まってグラウンドに向かう中、松永は俺の方に駆けてきて――



「体育祭、頑張ろうね♬ ――ゆうちゃんは、最後まで、じゃけど」


「っ……! 覚悟しとけよっ」


「はいはーい」



 同じ白組なのになんでこんなセリフを言わなきゃならんのだ。

 ってかそんな顔赤くして言われても。照れてるのに無理して言うとかかわいすぎる。


 あかん、心臓がもたへんわ、これ。(混乱して関西弁になる裕也くん)


―――――


 その後、選手宣誓やらはじめの言葉やらやって、どんどん競技が消化されていく。ついに俺達の出番だ。



「続いての競技は、二年生による、騎馬戦です。白組紅組、それぞれ出てきて下さい」



 はぁー緊張してきた……。



「飛鷹、頑張ろうな」


「紅組をこてんぱんにしてやろうぜ!」


「……! おう!」



 お前ら……。普段はこんなに優しくないのに……。

 いいやつじゃねえか……。



「騎手のお前に全てがかかってるからな?」


「絶対ハチマキ取られんなよ?」


「……」



 前言撤回。めっちゃ笑顔で圧かけてくる。

 まあ、こっちのほうが、俺ららしくていいか。



「おう。お前らはなんだかんだ言って、俺のこと支えてくれるもんな」


「物理的にな」


「まあ、今日くらいは……精神面でも支えてやるよ」



 やっぱいい奴らなんだよなぁ。

 俺がメンバーの一人一人と握手しようとしたその時。



「ゆうちゃーん! 騎馬戦がんばろうねー!」



 ある意味完璧なタイミングで俺の方に手を振ってくる松永。

 最高級に盛り上がろうとしてた空気が、一気に凍りつく。

 スゥー……。



「ひ・だ・か?」


「が、頑張ろうな! 行くぞっ!」


「逃げんなてめええええ!」


「騎馬戦中に落とすからなあああああ」


「いや大怪我するわ!」



 そんな俺達のやり取りを、にこにこ見つめる松永。

 他人事みたいに……。誰のせいでこうなったと思ってる。


 そんなこんなで、騎馬戦が始まった。



「飛鷹! 後ろから敵!」


「把握! 総員、半回転!」


「「「半回転了解!」」」



 始まりはあんなだったけど、めっちゃ息ぴったりな俺達である。

 素早く振り返った俺の手には、四本の紅のハチマキが握られている。

 つまり――もう、四組は仕留めたということだ。


 それを理解した敵は、怖気付いて「さ、下がれ!」と言うが、もう遅い!



「お前で五組目じゃぁぁああああ!!」


 

 体勢が崩れた騎手のハチマキを思いっきり引っ張って、奪い取る!



「っしゃ!!」


「飛鷹ナイス!」



 俺たちが喜んでいると、横からこっちに走ってくる敵が見えた。チームメイトも気づいて、大慌てだ。



「とりあえず、反対側に逃げ――」



 まずい! グラウンドの端っこ、逃げ場がない!


 一か八か、こうするしか……!


 敵がすぐそこまで迫ってきたその時、俺は大声で指示を出した。



「総員、しゃがめ!」



 頭の上を敵の手が掠める。あっぶね……。

 俺はそのまま敵の手首を掴んで、すかさず次の指示を出す!



「総員、起きろ!」


「なっ!?」


 

 敵の騎手と同じ目線の高さになった俺は、そのまま敵の手首をぐっと引いて、反対の手でハチマキを取った!

 とんでもない早業に、敵は驚いて声も出ない。数秒後、頭に手をやって「うわぁぁああ……」と落ち込む。

 俺達はもちろん――



「「「「っしゃぁぁあああああ!!!」」」」


 

 めっちゃ盛り上がった。

 まさか、この俺がこんなに夢中になるなんて思いもしなかった。


 それもこれも、松永とののおかげだな。

 俺は、今朝のことを思い出した。

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